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18、準備をするのはいいけれど

 学園の授業が始まって4日目にして、ようやく俺は魔術の応用授業を受けて強化魔術を習ったのだがこれが問題だった。

 強化魔術の発動それ自体は適正が高いのもあってそこまで難しくなかったのだが、強化魔術を発動している状態の維持が難しかった。

 攻撃魔術のように発動して撃ってしまえば終わりではなく、自分に纏わせて常時発動させていなければならないのでせいぜい1分程度しか保てなかった。

 1分だけとか某巨大化ヒーローよりも短い時間だな。

 とりあえず5分間維持できるのを目標に頑張っていこうと思う。

 魔術の練習はこのまま個人的に続けるとして、4日後にはお茶会があるからそろそろ準備を始めないといけない。

 直前になって材料が手に入らなかったとか洒落にならないからな。

 明日は材料の手配の為に市場に行くから一応ユフィにも相談しておくかな。



「というわけで明日あたりまた市場に行こうと思うんだけどどうかなユフィ?」

「……あの、アーシェ、部屋に入ってくるなりそんなことを言われても分からないのですけど?」


 ありゃちょっと端折りすぎたか、俺はユフィにさっき考えていたことを話す。


「そういうことでしたか。じゃあ私も明日一緒に市場に行きますね」

「それじゃあ明日はよろしくね」

「はい」



 翌日の放課後、ユフィと二人で市場に材料の手配をしに行ったのだが、思ったよりも早く済んだ為に俺は再びあの地獄へと誘われることになった。

 そう……女性の買い物という地獄に……


 俺とユフィは表通りにある富裕層向けのアクセサリーが置いてある店に入ると、置いてある商品の品定めをしていた。

 しているのはほぼユフィで、俺はただ圧倒されているだけだったけどな。


「この髪留めなんてアーシェに似合いそうですけどどうですか?」

「そうかもね」

「この耳飾とか私に似合うでしょうか?」

「いいんじゃない?」

「もうっ、アーシェはもうちょっと乗ってくれてもいいとおもうんですけど。アーシェは何か気になるものとかないんですか?」

「そうねぇ」


 俺は店内を見回すと、ふとガラス越しに向かいの店が目に留まった。


「あ、ちょっとあそこへ行ってみようかな?」


 そうユフィに言うと、俺は通りの反対側の店へと入っていった。

 店は見たところ裁縫の道具や材料を取り扱っているようで、もしかしたら俺が探しているものもあるかもしれない。

 まあ仮になかったとしても自分で作れるので材料さえあればいい。


「アーシェはここで何を探しているのですか?」


 怪訝そうに訊いてくるユフィ、まあ店で売っている物はさっきまで買い物していた物とは毛色が違うのでしょうがないか、


「んーサラシがないかなぁと思ってね」

「サラシ……ですか? 何ですかそれ?」

「こう、胸に巻きつけて胸を固定しようかなぁって。最近胸が大きくなったせいか運動する時に邪魔なのよね」

「それはそれは随分な悩みですね」


 恨めしそうに俺の胸元を見つめるユフィ、そう言われても結構深刻な問題なんだよこれ。

 この世界の女性はコルセットを身に着けているが、あんなものを付けて鍛錬なんて出来ないので俺は身に付けていなかった。

 今まではそれで良かったのだが、最近成長期に入ったのか胸がだんだん大きくなって運動の妨げになり始めていた。

 そろそろ胸を固定するものはないか考えてはいた時に、サラシのようなものはないか探していたのだ。

 俺は幾つかの布の中から材質や手触りで選んだ一枚を購入した。

 俺が布を購入している様子を見てユフィはしみじみと、


「アーシェは時々、ふつうの人が考えもしないことをよく思いつきますね」

「そうかな?」

「今購入している布の使い方といい、誰も食べたこともないお菓子を即興で作った事といい、随分と変わっていると思いますよ」

「そうかなぁ」

「変わっているといえば、毎日お風呂に入りたがるのも変わっていますね」

「それは折角毎日入れるなら普通は入りたいと思うけど」

「そういうものですかね」

「そういうものだよ」


 うーん、ここ数日の出来事で何やらユフィに疑いを持たれてしまったようだ。

 これから先は少し自重して行動すべきだろうか……いやまだ大丈夫だろう。

 まさか前世の記憶がある、ましてや異世界の記憶なんて俺がばらさなければわかるはずもないんだから、言動に少し気をつければ大丈夫だろう……多分。


「さてと、わたしが買いたい物も買ったしそろそろ寮に帰りましょうか」

「もうちょっと一緒にお買い物をしたかったですけど、わかりました」


 俺はユフィに話題を変えるために寮に帰ることを提案した。

 それは話題を変えるためであり、これ以上買い物を続けたくなかったわけではない……と思う。


 寮に帰ってから、俺は買って来た布でサラシを作ってみることにした。

 まずは試しで身体に巻きつけて調度いい長さで切り、切断面からほつれない様にかがり縫いをして始末する。

 ふふふ我ながら見事な手際だ、伊達に4年間も淑女の嗜みで裁縫を勉強させられてきたわけじゃないぜ。

 出来上がったサラシを早速身体に巻きつけてみると、一人で巻いたのと慣れてないせいもあってちょっと緩い気もするが、胸は固定されて揺れないので成功だ。

 あとは慣れでもうちょっときつく巻けるようになれば運動しても大丈夫だろう。

 今日の成果に満足していると、


「なんというか、ますます殿方みたいになってますねアーシェ」


 何故か微笑ましいものを見るような目つきで言うユフィ、


「そうかな? でもこれで激しく運動しても大丈夫だから今度から鍛錬の量を増やそうかな?」

「殿方でもあるまいし、どうしてそこまでアーシェは身体を鍛えるんですか?」

「んー、何でだろうね、習慣かな? でも体を鍛えると良い気分転換になるんだよ」


 初めは自分の元男としての精神を守るために行っていた鍛錬だったけど、今は習慣化していて当初の目的はなくなっていた。

 それに身体を動かすのは好きだしな。

 これからはこのサラシを巻いて行動することにしよう。



 ユフィと買い物をしてから2日後、お茶会の前日の放課後に俺とユフィは市場で必要な物を揃えてから寮の自室でプリン作りを始めた。

 お茶会の参加者は俺とユフィも含めると12人、余裕をもって16個作ることにした。

 今回はカラメルを忘れずに作り、カップの底に注いである程度固まってからプリン液を入れて蒸し始めた。

 さてと、ここからが正念場だ。

 俺は真剣な表情で山羊乳の上澄みが入ったボウルと泡だて器を手に取った。


「……アーシェまさか」

「今から生クリームを作る」

「それはなくなったんじゃ……」

「まあそうだったんだけど、プリンだけというのも見た目味気ないしプリンアラモードを作ってレオノーラお姉様を驚かせてやろうかと」

「そこまでしなくてもいいとは思いますが」

「まあせっかく身体強化の魔術が使えるようになったんだし試してみようかと思ってね」

「そうですか、アーシェがやるというなら私も手伝います」

「ありがとうユフィ、そう言ってくれると嬉しいよ。正直ユフィの助けがないと作れないから助かるよ」

「もうっアーシェったら」


 そして俺とユフィは協力して生クリームを作り始めた。

 身体強化の魔術はまだ1分程しか保てないので断続的に使いながら、それでも前回よりも大分早く完成した。


「なんとかなったな」

「思っていたよりも早く出来ましたね」

「あとは飾りつけだけだね」


 そして俺は冷めたプリンのカップに生クリームをのせ、その上に旬の果物を切って飾りつけた。


「よしこれで完成っと」

「とても素敵な見た目になりましたねアーシェ」

「明日が楽しみだね」

「そうですね」


 後はこれを氷を敷き詰めた容器の中に保存して、寮の保管庫に置かせてもらえばいい。

 はたしてレオノーラはどんな顔をして驚くだろうか。

 俺は明日のお茶会を楽しみにしながら眠りについた。




最後まで読んで頂いた方ありがとうございます。

ブクマしてくれた方、とてもありがとうございます。

評価して頂けるとモチベが上がるので筆の進みがちょっと速くなる……かもです。

まあ読んで楽しんでいただけたらそれが何よりの私の報酬です。


では続きをなるべく早く上げれるように頑張りまふ。

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