旅立ち
少女の案内で家の中に入ると、少女は布を積み上げただけのような寝床らしき物に腰を下ろし、
「その辺に適当に座って。」
俺は言われた通り、床に散らかった物を手で押しのけ、座った。すると少女が口を開いた。
「朔だっけ。いろいろ聞きたいことがあるんだけど、どこから来たとか今まで何してたとか覚えてる?」
俺はおそらく別世界からこの世界に落とされたのだと思う。ただそれをそのまま言って良いのだろうか。とりあえず何か言わなければ。
「あんまり覚えてない。さっき言ったと通り目が覚めたら、あの道にいたんだ。」
「そう。まあいいや。ここは見ての通りみーんな貧乏だし、飢えてるし、いつ死んでもおかしくない街。私はここから抜け出したいの。だから協力して。聞きたいことがあるならなんでも答えてあげるし、私にできることがあるなら、できる限りやってあげる。」
聞きたいことは山ほどある。
「聞きたいことか。とりあえずまだ俺は君の名前を知らないから、教えてほしい。」
「そういえばまだ自己紹介してなかったね。私はシエラ。生まれはここじゃないけど、今はここに住んでる。」
「シエラね。ありがとう。あと、俺は自分のこと以外何にも覚えてないから、この世界のことについて、後はシエラに協力って言うけど、俺は何をすればいいのか教えてほしい。」
「この世界についてって言っても、別に普通の世界だけど。この街は貧しいけど、国の中心部は栄えてる。私はあんまり得意じゃないけど、魔法が得意な魔法使いなんかもいる。他にも剣が得意なやつとかもね。そういうやつらはパーティ組んでギルドに出されてる依頼をこなしたり色々やってるよ。あと、協力してくれるなら、朔は私についてきてくれればそれだけで良い。」
やはりこの世界は元居た世界ではないのだと確信した。それにしても協力することの内容がただついていくだけという点が引っかかる。だが、今まで縛られて生きてきたのだ。解放された今、自由に旅するのも楽しそうだ。何か危険があれば逃げればいいのだ。
「わかった。じゃあ協力するよ。」
「やった!やっと…」
シエラはそこまで言うと、咳払いをし、
「じゃあまずは隣国の、エルセリオン聖王国を目指そう。お金は今まで貯めてきたから、しばらくはスムーズに旅できるはず。夜が明ける前に、早く出発しよう。」
金の入った袋、ナイフ、地図等、必要なものをリュックサックのような手作りらしい鞄に詰め始めた。そして最後に傷のついた古そうな本を一冊入れ、振り返り、
「さ、早く行こう。」
「うん。俺は何も持ってないけど大丈夫?」
「必要なものは途中の街でそろえればいいでしょ。」
俺とシエラは再び夜の闇に向けて一歩踏み出した。
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俺とシエラはできる限り人目のない道を足早に歩き、街を出た。街を出るとシエラはようやく口を開いた。
「ここから少し歩くと小さな町があるから、そこで何か買おう。朔も武器の一つくらい持ってた方がいいでしょ。」
「武器って言ったって俺は戦ったりできないよ?」
「見かけだけでも威嚇程度にはなるでしょ。それに、そこで買うのは仮で、エルセリオンに行けば大聖堂で持ってる力や魔法なら属性とか、色々わかるの。」
とはいっても今のところ俺に何か特別な力が宿った感触はない。
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しばらくして、シエラの言っていた小さな町にたどり着いた。
「ここは、ベルンハイム。そんなに大きな町じゃないけど、いろんな店があるから旅の準備にはピッタリ。」
「いい雰囲気の町だね。」
ベルンハイムに着く少し前に上り始めた日の光が家や店の屋根を照らす。先程までいた貧民街とは違い、暖かな雰囲気の町であった。
「まずは武器を買いに行こう。ナイフでいいでしょ?」
「なんでもいいよ。安いやつでいい。持ってても使えないし。」
俺とシエラは歩き、朝早くから開店の準備をしている武器屋に行った。すると、シエラは俺に向けて握った手を出し、銀のコインを5枚渡した。
「はい。これだけあれば足りるでしょ?私はこんな格好で旅するわけにいかないから、服を買ってくるから。あとでこの武器屋の前で合流ね。」
「わかったよ。」
一人残された俺は、「足りるでしょって言われても知らないんだけどなぁ。」といい、せっせと開店準備をしている武器屋の店主に、
「もう開きますか?」
と尋ねたが、店主はこちらをちらりと見ただけで、何も言わなかった。仕方なく近くのベンチで座ってしばらく待っていると、店主が準備を終え、店の中に入っていった。俺はベンチから立ち上がり、武器屋に入った。そして、値札を見たが、自分が今いくら持っていて、これがいくらなのかさっぱりわからなかった。
「すみません。これで買える、使いやすい武器ってありますか?」
俺はシエラから渡された小銭のようなコインを店主に見せた。
「端に置いてあるナイフならどれでも買える。」
不愛想な店主の口調に少しビクビクしながらも、店主の指した方に置いてあるナイフの中で、軽くて一番持ちやすい物を選んだ。そして、それを店主に渡した。
「クローネ銅貨50枚だ。」
「この銀色のやつ何枚で足りますか?」
店主は顔にハテナを浮かべながら、
「1枚だ。このナイフはすぐ乱暴に使えばすぐ折れる。もう一本持っていけ。それでちょうど銀貨1枚だ。」
「ありがとうございます。」
俺は銀貨を一枚支払い、ナイフを置いてあるところからもう一本同じナイフを持ち、店を出た。
店を出ると、シエラはすでに買った服を着て、ベンチに座っていた。俺の姿を見つけて、シエラはベンチから立ち上がり、俺の方に向けて歩いてきた。
「何してたの?遅すぎ。」
「ごめん。文字もなにもかもわからなくて。」
シエラはため息をつきながら、
「まあいいよ。とりあえず朝ご飯を食べよう。旅の初日だし、なんも考えず食べたいものを食べよう。」
「うん。何があるんだろう。」
「朔が遅すぎるから色々見て回ってたけど、カフェとかもあったよ。」
「じゃあそこにしようか。」
俺は余った銀貨4枚をシエラに返そうと、ポケットに手を入れた。
「持ってていいよ。必要なものがあれば自分で買えるでしょ?」
「ありがとう。旅の合間でいいから、軽く文字とか数字とか教えてくれたら嬉しい。なんもわかんないから。」
「いいよ。私もわかんないの多いけど、生活できるくらいには教えてあげる。」
俺とシエラはカフェに向かって歩き始めた。




