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第四十九話 謎の組織のはじまり


『星野、大丈夫なの?』

 明日乃が心配して様子を聴いていた。


(まあ、彼女達と自分じゃ戦車とこんにゃくくらいの差があるから仕方がないか)

『聴いていたと思うけれど、けっこうタイトなやりとりで正直、疲れたよ。そっちはナノマシンとかどうなったんだい?』


『現在、山瀬、榊原、鶴見の場所とかについてはリアルタイムで掌握してるよ。今、山瀬は中庭でしばらく止まっていたあと車で帰宅中。榊原と鶴見は旧校舎の階段のところとか二階とかを行ったり来たりしてる。何かやったの?』


 山瀬が中庭にしばらくいたという事は、上手く仕掛けを拾ってくれたに違いない。

 恐らく山瀬の中での海人の評価は、科学に興味はあるが出来の悪い陰湿な生徒というレベルまで落ちてくれたはずだ。

 他人に悪い印象をわざと残す努力というのは海人も生まれて初めての経験だったがどうにかなった。


「とはいえ、ワザとじゃなくて普通に印象悪いだろなぁ僕は」


『えっ、なんか言った?』


「あー、なんか独り言だから気にしなくていいよ」





 家に帰ると、先に帰っていた二人が心配して玄関の廊下で待っていた。


「お疲れ様。なかなかの攻防だったね。まずは、お茶して落ち着いてから基地で分析にしない? こっちも聞いてて疲れたから」と明日乃は肩の力が抜けて笑っているのに対して姫子は「なんかお兄のやっていることがイマイチよく分からないんだよね……部室に集合でもよかったんじゃない? それに中庭に埋めたのは何で何の目的があるの?」と立ち話を廊下でし始めた。

 明日乃がリビングのドアを開けて「そういうのをお茶しながら聞けばいいじゃない、ほら」 


 ソファに座っているとなにやら香りのいいお茶を出してきた。


「リラックスできるようにラベンダーにしてみたよ。飲んでもタイムリープは出来ないから安心して飲んでね」


 地下基地を作る時にしこたまSFを観まくっていたせいか、ちょこちょこ小ネタをはさむ様になったのを聴いていて(これは僕のせいだな)と反省しながらラベンダーティーを飲んだ。

 三人並んでソファに座っていると絵的には海人が両手に華状態なのだが内容としては浮かれハーレムみたいなホンワカした状態とはかけ離れている。


「それでお兄。順番に説明してもらっていい? 山瀬がお兄に疑念をもったのをどうしたのかを教えて欲しいんだけれど」


「んー。簡単に言うと宇宙科学研究倶楽部そのものを山瀬に意識してもらいたくないってのがあってさ。クラブだ部室だって話になると、それは誰がいてどこにあるってことから認識阻害と紐づけされてしまうだろ? 別に今回のことや座敷ちゃんがいることを知っていたわけじゃないんだけれど、顧問を山田先生にしてもらったのは良かったよ。科学系の林先生や米沢先生が顧問じゃクラブの存在も知られる可能性があるし名簿から怪しまれたかもしれない」


 すると姫子がニヤついた目で「山田先生としては問題児を他の先生に任せるわけにはいかないし、自分のところで封印するつもりだったんじゃなぁい? お姉に監視させてさ」と実に辛辣な感想を挟んできた。


「でも、結果オーライになっちゃったよな」


 だが、明日乃は海人に向き直って海人の行動の弱点をついてきた。

「それで、山瀬は星野が旧校舎に出入りしている理由には言及していないみたいだけれど、そこは納得しているみたい?」


「そこを言われると弱いんだよ。だから、関心を僕個人よりも重要度が高そうなものに移してもらう必要があったんだ」


「でもでも、お兄。それと階段の一階の床がブカブカなのって何の関係があるの?」


 分からないという顔の姫子に海人は明快に答えた。

「ああ、何の関係もないよ」


「ないの?」


「ないねぇ。関係があると山瀬が勝手に思い込むのは自由だろ?」


 姫子としては、ますます分からなくなってきた。

「んーん。ねぇ、どうして山瀬は勝手に変な思い込みをするって考えたの?」


「そうだなあ……姫子はシャリシャリくんアイスとイチゴショートは、どっちが好きだ?」


 間髪入れずに「イチゴショート!」と返ってきた。


「だよな。ある日、シャリシャリくんアイスを食べようとしたら無くなってたとするよ。そうしたら誰が食べたんだろって思うよな? その時、僕が冷蔵庫にイチゴショート買っておいたから食べていいよと言ったらどうなる?」


「わーい! って食べる」


「さらに、そのイチゴショートに、元気をくれていつもありがとうってメモがついていたら?」


「美味しいのと一緒に感動する!」


「だよな? で、シャリシャリくんアイスは誰が食べたんだ?」


「あ……」


「あーあ! 星野が中庭に埋めた物の役割ってそういうこと? で、なんて書いて埋めたの?」

 明日乃も中庭にメモを入れたパスケースの件については、いまいち分かっていなかったらしい。


「他の先生の悪口も何枚か入れておいたんだが山瀬については、旧校舎の一階の階段登り口の床がブカブカして危ないのを何回言えば見るんだ、バカって書いておいた」


 数秒の沈黙のあと——ぷっと吹き出した。


「星野、天才!」


「だから、もしあの後、僕らが部室に集まる動きをすると、本当にあいつが様子を見に来た場合、部室の隠ぺいのヒントを与えてしまう。だから、部室に集合はダメだったんだよ。それと……」


 感心したように海人を見ていた姫子だったが、まだ何かあるらしいことにさらに驚いていた。

「お兄、そこまで考えていたんだ? それなのに、まだあるの?」


 海人は座り直すと仕上げの話をはじめる。

「僕は明日、また山瀬の悪口を書いた紙を今日、埋めたパスケースに入れに行く。恐らくパスケースは掘り起こされているだろう。僕はそれを見て愕然として、山瀬から逃げるように行動すれば山瀬に近づかない構造が成立する」


 それを聞いて明日乃が目を丸くした。

「囮捜査の逆ってこと? 自分がどうでもいい別な事件の犯人のフリをするわけ?」


「そうさ。僕が奴の金庫の中を見た疑惑が完全に払しょくできていなかったとしても奴が捜査した結果、僕の秘密っぽいものを見つけたことで一応のケリがついたと解釈されやすくなっている。そしてパスケースの中身のことで気まずさから近づかなくなったという事実が、星野海人をどうでもいい奴にまで格下げするというわけさ」


 女子二人が海人の慎重さを超えた狡猾さに驚きを隠せないでいた。


「星野ってさ。なんていうか、悪いかもしれない奴には容赦ないのね」という明日乃に「いやぁ、僕なりに必死なだけだよ。ただの高校生だからね」と軽く返す。

 それに続けて「お兄が山瀬側の人じゃなくて本当によかった」と漏らすと明日乃も頷いた。




 三十分後、三人は地下施設の司令室にいた。やることが山積してきたので、明日乃が軽く作ってくれたサンドイッチを食べながらの相談である。


「まずは、苦労して撮った金庫の中身からだけれど僕のも含めて画像を検証しようか。ダブっている資料はAIに一本化させて解像度を上げてもらえばいい。さて、どうかな?」


 海人のスマホに通信ケーブルを挿すと司令室中央の大型ディスプレイにマイクロマシンやナノマシンからの映像も表示されるが、やがて十枚程の静止画像に集約され真上からのアングルに修正されたものが出てきた。

 何か筆記体をイメージする文字にみえるものが書いてある。


「これ、何処の文字だろう? アラビア文字かな?」


 海人には全く読めないが明日乃と姫子には分かるようだ。

「紙に印字されたものは……定期観測、サンプルの単位変化なし、新たな観測対象、単位変化なしみたいなことだと思う……前に見たのと同じことが書いてあるだけみたい。あ、でも一枚だけ違うのがある。えっと……」


 揃えて書いてあるので、海人にも何かの表だということだけは分かった。


「なんか名前のリストね。意味は分からないけれど、そのまま発音するとカミオーハジメィ……どうも人の名前みたいね。サーサーキーィリョタア、ズズギィヨコ、ターウラダイイチ、えっ⁈」


「あっ、ホントだ! これ、田浦くんだ。田浦くんの名前がある!」


 衝撃だった。

 自分達の日常を守る為に最低限の情報を共有しただけであった田浦を巻き込んでしまったのかもしれない事実に海人は愕然とした。


「それ! 何の記録か分かるか⁉」


 明日乃は慌てる海人の顔を見て、声を落とした。

「 ——落ち着いて。ログの書式からして使用記録を残してるだけ。田浦くんが何をされたかまでは書かれていない」


「せめて何のリストかだけでもわからないか?」


「他の写真から何をしようとしているのかを探るしかなさそうね。ちょっと待ってね……こっちは、どうも何かの装置のマニュアルみたい。あの銀の箱のものっぽいよ。さすがに

詳しくない言語だし専門用語っぽいから、どう読めば……供給とか抽出みたいな単語があるけれど」


「他に何かないか。些細な事でもいいから」


 手がかりをなんとかしたい海人だったが、彼から見ても同じような模様の文字が並んでいることは理解できた。

 そんな中、机の引き出しを開けた時に写した写真で引き出しの奥の方が少し写っている。

 拡大してみるとファイルの背表紙に文字がみえる。


「これ、なんて書いてあるか読めるか?」


「あっ、読める。タイトルなんだろうね。対象者って意味の字だよ」


 なにかピンときた。

「対象者……さっきのリストと繋がっているのなら、つまり対象は人間なんだということになるね」


 姫子が声を上げた。

「うわー……お兄、それって良くない想像しか出来ないんだけれど」


 これには明日乃も海人も渋い顔になった。


「だから、学校を選んだのね。しかも、誰でもいいというわけでもなさそう。誰でもいいなら、何処でもいいはずだもの」


「だとすれば、人間を対象にする程には技術が進んできているが、まだ限られた条件での実験を始めた段階なのか。それで長期観察が可能な場所でのサンプル探しをしていたわけか……くそっ‼」


 一時的に頭に血が上っている海人を冷静に戻す為に明日乃はこれまでに起こったことから自分なりに考えをまとめて話し始めた。


「待って、順番に並べてみようよ。第一怪獣と第二怪獣は、同じ技術で同じ組織のもの。そして必ず出現した怪獣のそばに何者かがいる。そこにはベータ線の反応があって、みいさと高校からの発信もあったことから調査の結果、山瀬が浮かび上がってきた。それとは別に亀梨駅前での怪物事件もあるけれど、あれは山瀬とは違う組織のものである可能性が極めて高いってところまでいい?」


 こういう話になると姫子は聞き専になるしかない。

 姉のまとめに困り顔で聞いている姫子。

 その横で、落ち着きを取り戻した海人が(らしさ)を発揮し始める。


「ごめん、二人とも。もう大丈夫だよ。明日乃、確かにそういう経緯だね。でも、その中に山瀬が使う能力のヒントが幾つも隠れていたのが振り返ると分かってきたんだ」


 えっ⁉ と驚くも凄く嬉しそうだ。

 明日乃が分からない・出来ないことを海人がやったり言うことが明日乃にはたまらなく嬉しいことらしい。


「星野、続けて続けて!」と話の内容がハードなはずなのにおねだりし始める。


「なんか調子狂うな。ま、いっか。明日乃、亀町での第一怪獣が現れた後に二人で調査に行っただろ。あの時のことを思い出して欲しいんだけれど」


「ああ、わたしがここに来たばかりの時の話だぁ! お姉がお兄をお姫様抱っこしていったんだよね!」

と嬉々として話す姫子に「姫子、そこほじくり返すなよ……」とバツが悪そうに答える。


「そうじゃなくてだなぁ、あの時、高い体温の指揮しているっぽい奴と体温が低い手下っぽいのがいただろ。奴らがアジトにしていた廃ビルまでの移動速度が妙に速かっただろ」


 明日乃は、ハッとした。あの時の速い移動こそ理科準備室へ急ぐ山瀬の動きだと思い出した。


「その後、自衛隊員と警察官たちの封鎖線を、姿を消すわけでもなく通り過ぎたよな。あれは認識阻害ではなくてキミは暗示に近いものだと説明してくれた。それで鶴見や榊原が洗脳紛いに操られているわけだけれど、そんなことを容易にできる能力なら、別な使い方をされている可能性はないかな?」


 そう言われて人差し指を小さくクルクル回しながら考えていたようだが、その指がピタッと止まると明日乃は険しい表情を見せた。


「星野、もし山瀬が高度な催眠術モドキを使えるなら、例えば先生たちをもっと手下にするとか、いろいろやっていると思うの。でも、実際には生徒が2人のみ。だから、あのリストは山瀬のバックにいる奴が催眠術モドキをかけるためのリストなのかも」


「だが、それでも人体実験の被験者リストの可能性はかなり高いだろうな。明日乃の推測が正しいなら、田浦に山瀬への指示役が接触を試みるはず……ということか……。つまり、夏休み明けで、再び山瀬が田浦に近づく機会が出た時が勝負だな。さて、それならそれで、こっちにも考えがあるぞ」


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