連鎖する悲劇(2)
新しい武器を入手しても、いつも真っ先に試させるのは最も信頼を置いているシュタイヤーだし、大切な相談や商売上の問題点なども問いかける相手はこの黒衣の青年に決まっている。
「わたしはシュタイヤーほど、ガリル・ザウァーの役にたてないから……」
「それはお前が……だから」
珍しくシュタイヤーが口ごもった。
彼が言葉を濁した所は、さしものアミにも想像がつく。
お前が考えなしだからという、お決まりの台詞が続くに決まっている。
「わたしの脳味噌は筋肉でできてるのかってラドムが言ってた。そういうの、脳筋っていうんだって。あの子、かわいいのに時々すごく口が悪い」
「脳筋だと。あのガキ、アーミーにそんな悪口を……」
「仕方ないんだ。わたしが強いのは確かだから……」
「いや、アーミー。そういう意味ではないぞ? うん……」
小首を傾げる妹分に、シュタイヤーは言葉を濁した。
──わたしは誰よりも強いって思ってたのに。なのに……。
小さな呟きが夜の静けさを打つ。
「なのに、ガリル・ザウァーを守れなかった。この義手はガリル・ザウァーを守るためにあるものなのに……」
少女はがっくり肩を落とす。
すっかりしょげてしまった。
元来、病的なまでに感情の浮き沈みの激しい子だ。
ガリルの症状は安定している。
ナイフを抜いて止血を施した。
だが早目に病院に連れて行かなければなるまい。
ロムもそうだ。爆撃に巻きこまれた怪我は大したことなかったが、精神的にひどくショックを受けているのが分かる。
そして、ロムの母親をはじめ他の仲間たちについては絶望的だと言わざるを得ない。
爆撃を喰らい、瓦礫の下敷きになったのだ。生存は望めまい。
ならばせめて一刻も早くあの土くれの下から彼らを解放してやりたいと思うのだが、空襲警戒中のこの暗闇ではそれもままならない。
その説明を、彼女はおとなしく聞いていた。
「あの小僧もお前のことを心配していたぞ」
チラリ。アミは兄のような存在の男を見上げた。
どうやらスイッチが入ってしまったらしい。
彼をはるかに凌ぐ陰気な調子に更に拍車がかかる。
「ラドムが心配なんかするもんか。わたしは頭も悪い。どうせ脳筋だ。十歳の子にもバカにされる始末……」
たしか十四歳だと声高に主張していた筈だが……。
シュタイヤーは呟きかけ、結局黙った。
小僧の年齢などささいな問題だ。
「あの子は怒ってるんだ。わたしがユージン・ストナーを殺したから」
──わたしだって分かってるよ。人殺しはよくないって。でも、しょうがない時もあるよね。
「お、おい、アーミー?」
「わたしだって、本当は平和に暮らしたいんだ」
どこまでも深く潜ってしまった彼女を引き上げようと、男は何とか言葉を探す。
──困っている人を助けたい。みんなで平和に暮らしたい。
元来白々しく聞こえる筈のそんな台詞も、この少女が言うと切実な願いに聞こえるから不思議だ。
それが彼女の心からの望みなのだと分かるから。
「アーミー……」
いじけて指先で地面の砂をいじっている少女の前に、シュタイヤーは腰を落として座った。
「アーミー、そんなことを言っていたら他人に利用されて死ぬだけだ」
彼女の気持ちは分かる。
だが、時代を見よ。情勢を読め。
今はそんなことを言っている時ではない。
「これを……」
俯いたアミの狭い視界に、突然入ってきたシュタイヤーの手。
握られているのは黒い小さなものだった。
「なに?」
反射的に受け取って、彼女はようやくそれが短銃であると知る。
「シュタイヤー、わたしは銃は……」
押し返した手は、しかし意外な程強い男の力で阻まれた。
「射撃が下手なお前でもお守り程度にはなるだろう。持っていろ」
「でも……」
卓越した身体能力と、鋼鉄の腕から繰り出す圧倒的な破壊力での肉弾戦を得意とする少女は、飛び道具を嫌っていた。
扱いが難しく、手入れも面倒臭い。
しかも狙い通りに撃てた例がない。
やっぱりシュタイヤーが持っていろという言葉を、間近の黒い眸が制した。
強い目線には逆らい難い力がある。
「わ、わかった」
渋々アミはホルダー付き銃を腿に巻く。
ズシリとした重みに不快そうに顔を顰めた。
「シュタイヤー、どうかしたか?」
黒の視線が逸らされず、ずっと自分に注がれていることに気付いて少女は訝む表情を作った。
「どこかつらいか? 痛いか?」
「いや……」
男はようやく視線を逸らせた。
「アーミー。この銃はお前を守る。絶対に手放すな」
不可思議な表情で頷く彼女の前に、シュタイヤーは立ち上がった。
「決してオレから離れるな。いいな、アーミー」
この夜初めて、少女は微かに笑った。
「当たり前だ。わたしはずっとガリル・ザウァーとシュタイヤーのそばにいる。他に行くとこなんてない」
しかしその言葉は僅か数時間後、あっけなく裏切られることとなる──。
悲劇は悪夢のように連鎖する。
※ ※ ※




