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中央学園の無個性剣士  作者: 龍華
18/18

17話 無個性剣士と麗騎士とメイドと

ー午前2時 ノーザンス リューズ邸ー


「さぁ、間もなく殿下がご到着される。そろそろ着替えてきなさい」

 絢爛な椅子に腰掛け、片手にグラスを持った男が少女に言い放つ。

 満面の笑みを浮かべる男に対して、少女の顔はひどく暗いものだった。

「そんな顔をするなシーク。昼間じゃ人目がつくから、わざわざこんな深夜にご足労をいただくのだぞ?そんな顔では失礼だと思わんのか?」

「…もうしわけございません」

「ハァ…まぁよい。くれぐれも殿下のご機嫌を損なわぬようにな…あぁ、そうか男と夜を共にするのは初めてで恥じらっておるのだな?どうせこれからは夫婦になるんだ。くだらん恥じらいは捨てろ」

 男は下卑た笑い声を部屋に響かせる。

 少女の目からは静かに涙がこぼれ落ちていた。

「もういい。連れて行け」

 男の命令に従い数名の侍女に連れられて少女は部屋から出て行った。

「ククク…これで私も…」

 静かな部屋に男の笑い声が響き続けていた。


ー午前3時 リューズ邸付近ー

 ノンストップでザックが飛ばしてくれたおかげで、かなり早く着くことができた。

 すこし離れた先には恐ろしく巨大な門と大勢の警備の人間が配備されたリューズ邸がそびえ立っている。

「しっかし、さすが王族お抱えの騎士貴族の家だなぁ。おなじ貴族でも、俺の家とはデカさも警備の厳重さも桁違いだ」

「…たぶん、違う。普段からこんな警備じゃないと思う」

 洞察力がずば抜けている仙はいち早く見抜いていたが、よく見ると警備をしている人間の半分以上が他の警備とは明らかに異なる服装をしていた。

 そして、その服には王家の紋章が縫い付けられていた。

 つまり…

「今、第3王子が来ている…と」

「…そういうこと」

「おいおいマジかよ!それってだいぶやべぇじゃねーか!」

 これは俺も予想していなかった。

 まさか、明日を控えて王城を離れるとは、想像もしなかった。

 これはかなりの誤算だ。

 第3王子が来ているということは、つまり、あの黒コートの男もおそらく…。

「どうする?こっそり裏口とかから忍び込もうかと思っていたけど、あの様子じゃ中も相当だぞ?」

 予想外の事態に俺が頭を悩ませていると、仙が懐から何かを取り出し、そっとザックに差し出した。

「ん?白神?なんだこれは?」

 ザックの手にはピエロお面があった。

「…これつければ大丈夫。バレない」

「おいおい、それってつまり…?」

「…正面からGO」

 まっすぐに立てられた親指。

 顔が引きつるザック。

「おい仙!いくらなんでもそれは…」

「ったく、しゃーねーな」

 ザックはすっと立ち上がるとお面を着け、マインドを顕現させた。

「待て!いくらなんでもお前一人じゃ無茶だ!あの数を相手にどうする!?」

「心配いらねーよ。俺だってあれ以来強くなるために特訓してたんだ。前みたいに簡単に捕まるようなヘマはしねぇよ!」

「でも!」

「なぁ、親友よ。俺のこと信じられねぇか?」

 今までに見たことのないくらい、ザックの表情は自信に溢れていた。

 今のザックなら…もしかしたら…。

「…全く」

「あぁ、不安でしかない」

「おい!今の流れは、こうかっこよく生き残れよ!とか言うとこだろ!」

「すまん。まぁ、でも、そうだなー


 とりあえず、頑張れ」


「あーぁ、しまらねぇなぁ。ま、いいか。あのバカ女騎士、連れて帰ってこいよ」

「任せとけ!」

 

 ザックが颯爽と走り出し、それと同時に俺と仙も素早くザックとは反対方向に走り出した。

 背中の方から銃声と大勢の人の声が響き出す。


「どこかに使用人用の裏口とかがあるはずだ!まずはそれを探すぞ!」

「…大丈夫。前に父さんの付き添いで1度だけ来たことがある。構造は把握してる」

「さすが仙だな!頼りになる」

 あまり表情には出ていないが、褒められて仙は少し嬉しそうだった。

 というか、それなら警備にばれないように潜入するルートとかもあったんじゃ…いや、ザックのために考えないでおこう。


 仙にそのままついていくと、あっさりと裏口にたどり着いた。

 だが、やはりしっかりと施錠はされており、簡単には開けそうにもない。

「…下がって」

 仙の手に日本刀が顕現する。

「おい、まさか…」

 案の定、目にも留まらぬ速さで扉はバラバラに砕け散った。

「…これで入れる」

「いや、そうだけど…ここ一応人様のお家なんだし…」

「…緊急事態。しょうがない」

 結局、脳筋かよ…。



ー午前3時 リューズ邸 シークの部屋ー


「とてもお綺麗ですお嬢様」

 豪華絢爛な衣装。セットされた髪。綺麗に施されたメイク。

 この姿を見て見惚れない男などこの世には存在しないと言えるほどの美しいその姿の少女は、姿に似つかわしくない、とても悲しげな表情をしていた。

 

 普通は、これから会う、自分の大切な男性のことを想像して、心を踊らせたりするものなんだろうか?

 せっかく綺麗な服なのに残念だったな。もっといい女の人に着てもらえたらよかったのに。


「きっと、殿下も気に入ってくださるはずです…」

「そう…だな」

 重く冷たい静寂が部屋に流れる。

 こういうの、普通はめでたいことなんだろう。

 私も、そういうものだと思っていた。

 幼い頃より仕えてくれた侍女達も、きっとこんな形は望んでいなかっただろうに…。

「お嬢様…そろそろお時間です」

「わかった」

 私の足はこんなに重かっただろうか。いつもの部屋の扉のはずなのに、まるで地獄への入り口のようだ。

 ゆっくりと扉に手をかける。

 

 気がつけば、私のドレスの裾を侍女が小さく掴んでいた。

 彼女は、一番昔から私に仕えてくれていた、私にとっては姉のような存在だった。

 小さな腕は小刻みに震えており、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 その手をそっと取り、彼女の体を抱き寄せる。

「今までありがとう」

 私のその声についに彼女の溜まっていたものが決壊してしまい、とめどなく涙が流れ続ける。

「…お嬢様ー申し訳ございません…」

 泣き続ける彼女からそっと離れ、私は部屋の扉を開けた。

 これが、私の運命なのだ。

 生まれたときからきっと決まっていたのだ。

 でもー

 もしもー

 わがままを許されるならばー


「助けて…」




  



 

 とりあえず、屋敷には入れたものの、やはり外の騒ぎのせいで、中もエライ騒ぎになっている。

「まずいな、これは急がねぇと…仙!シークの部屋はどこだ⁉︎」

「…あっち」

 指差す方向に全力で走りだす。

 勢いよく飛び出したものの、角を曲がった先には、いかにも警備といった男達とばったり遭遇。

「貴様達!一体どこからー」

 男達のセリフが言い終わる間もなく、仙の華麗な攻撃で男達の意識は刈り取られる。

「さすがだな。助かった!」

 しかし、この調子ではまずいな。

 この騒ぎではバレずに動くのも至難の技。

 かといって、バレないようにこそこそ動いていては時間が…。

「…健。急がないと」

「仕方ねぇ…。こうなったら会う奴全員のしてくしかー」


「あなた達!」


 まずい!

 うだうだしているうちに、新手が来てしまった。

 目の前には綺麗なメイドさん。

 大声を出されて人を呼ばれたらお終いだ。

 メイドさんには悪いけどー

「仙!」

 俺の声に合わせて仙が切りかかろうとした。が、仙はそのメイドの顔を見るなり攻撃を止めた。

「…あなたは、シークの」

「あなたは、東和の領主様のご息女さまであらせられますね」

「仙、この人は?」

「…シークの専属メイドの人。私も何度かあったことがある」

「白神様。一体…」

「…シークを助けに来た」

「そうだ!俺たちはシークを助けに来た!悪いけど時間がないんだ!もし人を呼んだりするつもりならー」

「あなたは、お嬢様のご学友であらせられますか?」

「そうだ!俺は…俺はシークの友達だ!」

「そうですか…お嬢様のために…ご安心ください。私は騒ぎ立てたりはいたしません」

「見逃すってことですか?」

「左様でございます。その代わり、お願いがあります」

 唐突に彼女は地に頭を伏せた。

「どうか!お嬢様をお救いください!」

「え?」

「私は、何もできませんでした。こんなこと、頼むのは間違っているとは重々承知の上です。ですが!私は、あんな顔のお嬢様をこれ以上はみていられません!どうかお願いします!相手が誰なのかもわかっております!それがどれほど危険なことなのかもわかっております!それでも!どうかー」

 懇願する彼女の声は震えていた。

 きっと彼女が一番悔しかったに違いない。一番長いことそばで見てきたシークを止められず。

「頭をあげてください」

 俺は腰を下ろし、彼女の肩に手を添える。

「言われなくてもそのつもりです!絶対にシークを連れ戻します!」

 顔を上げた彼女の目は真っ赤で、鼻も垂らしていたが、その目は輝いているようにみえた。

「ありがとうございます!お嬢様をどうかお願いします!」

「あぁ!行くぞ仙!」


「お待ちください!」

 

 俺と仙が勢い良く走り出した直後、彼女の声に呼び止められた。

「そのお姿ではあまりに目立ちすぎます」

 確かに、俺たちの姿はこの屋敷では目立ちすぎる。

「私にいい案がございます!こちらへ!」







 目の前には大きな扉。

 大事な客人が泊まる用の宿泊室だ。

 扉の横には黒服の男が厳重な表情で立っている。

 震える手をギュッと握りしめ、大きなドアを数回ノックする。


「入れ」


 扉越しに男の声が響く。

 しゃがれた男の声だ。

 重たい扉をゆっくりと開ける。


 その部屋は屋敷でも特に広い部屋だ。

 部屋の壁にはロウソクが揺らめき、一面に豪華な装飾が施されている。

「来たか」

 暗闇に目が慣れてきて、火に当てられた顔がようやく浮かび上がる。

 丸い体に金髪。いかにもといった出で立ちの男が、部屋に用意されたベッドの真ん中に座っている。

「もっと近うよれ」

「はい」

 男の声に従い、ベッドの側まで寄る。

「おぉ!なんと美しい姿だ!さすが余の妻となる女だ!さぁ!もっと近くで姿を見せてくれ」

 私は大きなベッドに体をのせる。膝這いで男の側まで行った瞬間、腕を掴まれ、そのまま引き寄せられる。

「あぁ…なんと美しい!」

 男の手が顔を撫でる。

 私は耐える。

 男が髪を撫で、匂いを嗅ぐ。

「いい香りだ。余の好みをよくわかっている」

 お前のためじゃない。

 そんな言葉も嚙み殺す。

「なんだ?余に愛されることが不服か?もっと喜ばんか!」

 男が声を荒げ、髪を強引に引かれる。

「申し訳ございません。あまりの幸福に言葉がでませんでした」

「そうかそうか!お主も愛い奴よのぉ…では!」

 男の鼻息が急に荒くなったと思うと、男の手が私の胸を鷲掴みにした。

「こんないやらしいかっこをしよって!初夜から大胆なやつよの!」

 雑に揉みしだかれ、全身に鳥肌が立つのを実感する。

 あぁ、そうだ、私はこれから、この男の慰み者として、生きていくのだった。

 そう実感した途端、涙がこぼれた。

「何を泣いておる?」

「…いえー」

「そうか!余のあまりのテクに悦に浸っておるのだな」

 男の手が頭を撫でる。

 この男に私の初めては奪われるのか…あぁ、こんなことなら、いっそ告白してきた学園の男達にでも捧げていた方がマシだったのかもな。

 私も、普通の恋とかしてみたかったものだな。

 ああいった告白は何度も受けてきたが、一度くらいは受けてもよかったかもしれない。

 でも、せっかくなら多少は骨のある男が。

 そうだな型無なら少しは見所が…顔はまぁ、特徴もない普通はやつではあるが、あいつの根性はなかなか…

 

 なんて、こんなときだからこそ、叶わない想いを馳せてしまう。

 あいつなら、こんな時でも助けてくれたのだろうか。

 私のそんな想いも、男の声で引き戻される。


「さ、そろそろ誓いの口づけといこうかの…」

 男の口が眼前に近づく。

 その瞬間を覚悟しギュッと目を瞑った。

 目からは涙がこぼれ落ち、もう、ほんの数ミリまで男の唇が近づいた。


  その時だった



「なんだ貴様らは!」

「グワァ!」


 部屋の外が急に騒がしくなり、部屋の前にいた男達であろう者たちの断末魔が響き渡った。


「なにごとだ!」

 たまらず、ほんの数ミリまで迫った顔を離し、私に覆いかぶさっていた男が立ち上がった。


 そして、次の瞬間、部屋の巨大な扉が一瞬輝いたかと思ったら、粉々に砕け散った。


「あーぁ、知らねーぞ。弁償すげぇぞ?」

「…緊急事態。しょうがない」


 聞き慣れた声。

 普段と変わらない、気の抜けた声と、眠そうな声。

 

 だが、


 あぁ、こんなことがあるのだろうか。

 

 まだ光で姿が見えないが、誰かはわかっている。


 まさか、本当に来てくれるなんて…。


 また私の目から涙がこぼれる。

 でも、この涙はさっきの涙じゃない。


 この涙はー。


「まったく、なんて顔してんだよシーク」

「…助けに来た」


 ーこの涙は、嬉しい涙だ!


「なんてかっこだよ。せっかくの綺麗な衣装が台無しだぜ?」


 まだ、涙で少し景色が霞むが、光にも目が慣れ、やっと二人の姿がはっきりと見え始めた。

 そこには、普段見慣れた二人がー



 メイド姿で立っていた。






「お前こそなんて格好をしている!!!!!」

失踪したと思っていた方は素直に名乗り出なさい。

残念続きます。

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