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下の下には俺(した)がいる  作者: サクラソウ
3章『落ちこぼれ魔術師の魔術大会』
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44『邂逅』

「さて、と」


 頷き背を向け駆けだした奏を確認し、そう呟く鬼灯は周囲を見回す。

 観客の多くはすでに避難し、残りはあとわずか。もう少しすれば全員がフィールドから出て行くだろう。

 とりあえずは一安心と肩の力を抜きかけた鬼灯は、まだまだ山場はこれからだと気を張り直した。


 押し寄せる魔獣の数は多い。パッと見ただけで二〇体近くにも上るそれらは、どれも低く見積もって脅威度C。贔屓目に見ればBに到達しているかもしれない。

 少なくとも並の魔術師であれば対応できる数でも質でもなく、大魔術師でも目にすれば顔をしかめるだろう。かくいう鬼灯もその例に漏れず、苦虫をかみつぶしたような表情をするばかりである。


 もう一度周囲を見回し、取り残された観客がいないことを確かめる。

 つい数十分前まで人で溢れかえり、混乱に包まれていた京都ドームのフィールドは、鬼灯のみを残した閑散とした有様だ。展開した結界に身体を押し付ける魔獣の叫び声だけが反響する場は、ずっといれば気がおかしくなりそうだ。


 だからというわけではないが、鬼灯はいつまでもこうしているつもりはない。


 地についた腕を離すと、魔力の供給が途切れた結界はそれまで注がれていたエネルギーを使い果たしすぐに霧散する。

 蓋が外されたことにより、抑え込まれていた魔獣たちが堰を切ったようになだれ込んできた。


 押し寄せるのは翼を持つことなどにより飛行能力を持った魔獣たち。天井のない部分から一塊に突入いてくるそれらに対し、鬼灯が取る行動はシンプルだ。


「――雷撃(tonitrui)


 詠唱。

 膨れ上がった膨大な魔力が即座に魔術陣を通して方向性を与えられ、極太の雷光となって魔獣の群れに突き刺さる。

 瞬きすら許さない刹那で走り抜けた雷は、地を震わせる轟音を伴った破壊の権化だ。


 響のものとは文字通り次元が違う。空気中に放たれたにもかかわらず、充分以上の威力を保つ出力のすさまじさたるや、一般人が見たなら卒倒もの。多少魔術に通じていても、自らとの格の差を痛感し膝をつくだろう。


 魔獣たちは、突撃した瞬間放たれた雷撃(tonitrui)に対して何ら有効的な対応をすることができなかった。

 数体は反応すらできずにその身を雷に焼き焦がされ、数体は正面に防壁を張ることでやり過ごそうとし、想定以上の威力の前に、その防御ごと貫かれた。

 生き残ったのは、直前で回避という選択肢を取ることを選んだものだけだ。獣特有の本能で危機を感じた数体が身をひるがえし、雷撃(tonitrui)の射程範囲から逃れる。


 焼かれていく同胞を尻目に、無傷で生還した魔獣たち。――だが、それとて数十秒だけ寿命を延ばしたに過ぎない。


雷撃(tonitrui)


 再度の攻撃。

 なぜ魔術陣が焼き切れないのかと不思議になるほどの魔力が注ぎ込まれた一撃は、一つの魔術陣から放射線状に同時に放出される。

 その威力、枝分かれした雷光の一つをとっても家が吹き飛ぶレベル。


 散開した魔獣たちも、予測不能な軌道を描く雷を続けて避けることは叶わない。連続で流れる雷筋に貫かれては感電し、内臓まで焼き尽くされて生命維持ができなくなる。

 落下し土煙を上げる魔獣たち。怪鳥など、最初に処理した魔獣はすでに魔力が霧散し、消失している中、京都ドームのフィールドは新たな死体を歓迎する。


 すべてを落としきるまでに数分。ただひたすらに雷撃(tonitrui)を放っていた鬼灯は、上空に敵影が見えなくなったのを確認すると一息ついた。


「疲れた……」


 あれだけの数、まともにやり合ったところで負けることはないだろうが、多大な労力であることに違いはない。莫大な鬼灯の魔力も、そうなれば半分を切るだろう。

 今回最小限の力で処理できたのは、バカ真面目に一塊で突っ込んできた一団をまとめて攻撃できたのが大きい。もとよりそんな作戦を建てていたわけではないが、上手いこといったのは幸いだった。


「つぅか、すぐ戻るとか言ってたあいつは遅せぇしな」


 九尾の狐――玉藻の背に乗り、他の現場に向かった若き大魔術師を思い鬼灯は愚痴を垂れる。

 現場までは数分。脅威度Bであれば、壮馬でも五、六分で浄化できるはずだ。騒ぎが起こってからすでに一五分ほど経過している現在、戻ってこないというのは不自然だった。


 ――もっとも、戻ってくるのが遅いところで鬼灯には何の不都合もない。


 すでに襲撃してきた魔獣は討伐済み。戦闘にしても一人の方が気楽だ。

 そう割り切った鬼灯は、壮馬が遅れている理由に思いを馳せ――考える間までもないことだと断じる。


 ナンパであればいいだろうが、とてもそうではないだろう。そもそも、これだけの魔獣の襲撃、いくら大気中の魔力濃度が濃かったとて、自然に起こるわけがない。

 しかも、発生した魔獣はほぼすべて、この京都ドームに向かって押し寄せてきているのだ。


 となれば――。


「まあ、そんなこと考えなくても分かってるんだけどよ……」


 もとから分かっていた結果を反芻するのはやめ、鬼灯は別のことを思考する。

 避難した観客や学生たちは無事だろうか。一応すべての魔獣は屠ったつもりだが、知らないところで見逃しているかもしれない。それが逃げる人々を襲えばひとたまりもないだろう。

 この場の後処理を優先するか、それとも様子を見に行くのを先にすべきか思考する鬼灯は、


































「――ご苦労だね、ホオズキ」
































 ――突如、どこからともなく投げかけられた声が、意識に入り込むのを感じた。



次は日曜です。

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