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抗争学園  作者: 三太華雄
一章
39/40

ミス

 藤澤と平松がお互い名乗りを上げ構えると、距離を取り睨み合う。

 しかしお互い動かない状況も束の間、すぐさま平松が藤澤に攻撃を仕掛ける。


「相手の出方を伺う、なんて器用なことはできないもんでな!先手必勝で行かせてもらうぜ!


 雄たけびを上げながら平松が武器を持たない藤澤に容赦なく棍棒を振る。

 藤澤は身軽な動きで棍棒を当たる直前で躱す。


「ちっ、ちょこまか逃げやがって。」

「生憎こちらは素手なんでね、素手の戦い方には工夫がいるのさ」


武器を持たない藤澤にとっては、平松の攻撃を防ぐ手段がなく、ただひたすら躱していく。


「ハァ、ハァ、糞っ」


 藤澤がよければよけるほど、平松はムキになり力を込めてより速く棍棒を振る。

だが、重い棍棒を振り回す平松は徐々に疲れが見え始めると、動きが鈍くなる。


――よし、そろそろだ!


 ずっと回避し続けていた藤澤だが、次の一撃を避けると同時に、平松の懐に入り腹部に拳を入れる。


――ふん、そんなひ弱なパンチじゃあ俺はやられ――うっ⁉


 自分の鍛え上げられた肉体は素手なんかじゃやられない、そんな自信を持ち、防御を放棄していた平松だったが、藤澤の拳を腹部に受けた瞬間、その衝撃に呼吸が止まり、思わず前のめりになる。


「せい!」


 そして、そのまま藤澤は体を回転させ、後ろ回し蹴りをすると、回転で勢いのついた藤澤の蹴りが平松の太ももに直撃する。


「ぐはぁ!」


 その痛みに平松が思わず声をあげる。


 普通なら藤澤の拳や蹴りなど、鍛え抜かれた屈強な平松の肉体には効かないであろう、だがどんなに鍛えた体にも痛みをうける場所がある。


それは急所と呼ばれる場所である。

 藤澤の拳は腹部にある溝落ちを突き、蹴りは打撃を受けると激痛が走る太もも横を的確に突いていた。


「確かに僕には男ような腕力はない、僕の拳や蹴り君にとっては撫でているようなものかもしれない、でも僕は人の壊し方を知っている。」


藤澤はそう言って更に金的に膝を入れ、続けて顎に掌底を入れる。


「あ、がが……」


金的の受けた痛みに悶絶し、更に顎に受けた衝撃で脳が揺れる、しかしそれでも倒れまいと踏ん張る平松。しかし痛みと立ちくらみに耐えきれず膝をつくと、藤澤を一度強く睨みつけたあとフッと笑みを見せる。


「へ、なんだ……てめぇ、いい顔してんじゃねえか……初めからそんな顔つきを見せていたら、お前の下に付いていたかもしれんな……」

「……」


そう言い残したあと、トドメの一撃となる頭部へのかかと落としを受けると、平松は白眼を向け、バタリと崩れ落ちた。


――


「ひ、平松がやられた?」

「しかも、あの藤澤に⁉」


 近くで戦っていた他の組員達が藤澤の前に倒れ込んだ平松を見て激しく動揺を見せる。


「あいつやるじゃねぇか!」

「あの子も青山と同じタイプね、集団戦闘には向いてないけど個々での相手ならうちの組でもトップクラスかも。」


若頭である平松の敗北は、G組の組員に大きな影響を与えた。

そして、その期を若田部は見逃さない。


「よし、向こうが動揺してる今がチャンスだ!一気に畳み掛けるぞ!」

「「「「おう!」」」」


若田部の号令に中庭にいるB組組員たちが頷き、大きく返事をすると、怯んでいる相手に追い打ちをかけていく。


――


 ――……百瀬さんと体育館倉庫に隠れてどれくらい時間が経っただろう?


息を潜めた二人しかいないこの場所の静けさにも慣れてきたころ、その静寂を破るようにガラガラと体育館の扉が開かれる音がした。


――誰か入って来た……敵?それとも仲間?


 どちらともわからない足音がゆっくりと体育館の中へと入ってくるのがわかる。僕達は見つからないようにただひたすら息を潜めた。


足音は体育館の中を一通り歩いた後、僕達の潜む体育館倉庫の前でピタリと止まる。

そして、勢いよく倉庫の扉が開かれる。

そこに現れたのは……


――沖原君……


まるでここにいるのがわかってるように沖原君は入るとそのまま、体育館倉庫の扉に鍵をかける。


――完全にバレている?どうして?


僕が動揺しているなか、沖原くんの声が倉庫に響いた。


「四辻ぃ!いるんだろう?とっとと出てきた方が身のためだぜ?」


そういうと、沖原くんが床にポトリと何かを落とした。


――あれは……僕の生徒手帳!?


僕は慌てて胸ポケットを探る、するといつも入れてあるはずの生徒手帳がなくなっていることに気づく。


――まさか、体育館前で落とした?


心臓の鼓動が急加速する、これは完全に僕のミスだ。

そんな心境が表情に出ていたのか、百瀬さんは僕の顔を見るや、自分を責めるなと言わんばかりに僕の目を見て無言で首を横に振る。


――そうだ、落ち着け。


 沖原くんはゆっくりと倉庫の中を歩き回り、そして中を荒らしていく。

 

――ど、どうしよう


ここは決して広くはない、見つかるのは時間の問題だ。

僕はそっと懐に忍ばせた拳銃の引き金に触れる。

はっきり言ってまだ銃の扱いには慣れていない、何度か練習したが的には偶々当たるレベルだ。


――だが、やるしかない。


拳銃を取り出し構えると、物陰から沖原君を狙う。

命中率が低いなら、当たるところまで近付いて撃てばいい。

僕は詮索しながらゆっくり近づく沖原くんに狙いを定める。


――まだ……まだだ。


沖原くんが近づいてくるにつれて鼓動と、体の震えが激しくなる。

そして、沖原君は僕たちいる付近まで近付いた。


――よ、よし!今だ!


勇気を出して立ち上がると、物陰から飛び出しそのまま沖原君へと銃口を向けた。


「な!」


驚く沖原君をよそに僕は衝撃に備え、ギュッと目を瞑ると、そのまま力一杯引き金を引く。


パァン


その瞬間、静かな体育館倉庫の中で大きな発砲音が木霊した。


……僕はゆっくりと目を開け前を見る。

勢いに任せて引き金を引いた僕の拳銃から放たれた銃弾は……








そのまま沖原君のサングラスを掠め、顔の横を通過していった。


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