決着
――……外した?
精一杯の力で引いた引き金であったが、目の前にはわれたサングラスの破片で瞼を切り眼から血を流す沖原君がいるだけだった。
――あ、やばっ……
はずしたことを悔やむ暇もなく僕の顔に振りぬかれた拳が届く。
「組長さん!」
殴り飛ばされ奥の機材に体をぶつけると痛みにそのまま蹲る。
背中には当たった機材の痛みが鼻にはツーンとした強烈な痛みと共に鼻水の様にタラタラと鼻血が流れる。
――そうだ、これが痛み……
かつて当たり前のように受けていたこの痛み、ひどく懐かしく感じる。
「よお、四辻ぃ、よくもやってくれたな。カタギの分際でよ!」
今度はお腹に何度も容赦のない蹴りが入り、その強い衝撃に噎せ返る。
「この俺をここまでコケにしたんだ、覚悟はできてんだろうな!」
最後に思いっきり踏みつけられると僕は、倒れたまま痙攣をおこして震えていた。
――は、早く、逃げないと。
昔のように耐えればいいのではない、このままやられてしまえば僕のクラスがまた危険に落ちるのだ。
沖原君が僕から離れた隙に立とうと必死で体に力を入れるが、なかなか起き上がれない。
そしてそうしてる間に再び僕の目の前に沖原くんが立つ。
……手には鉄パイプの様なものを持って。
「さて、どこから壊してやろうか?手を使えなくするか?それとも二度と立てなくしてやろうか?
それとも……」
鉄パイプを、股間の部分に突き付ける。
「こっちの方を使えなくしてやろうか?まあ、こっちは使う相手もいないから問題ないか?、ヒャハハハハ」
沖原君が下品な声で笑った後 手に持つその鉄パイプを振り上げる。
「さて、ならまずはその腕を……」
「ま、待ってください!」
パイプを振り下ろそうした直前で、百瀬さんが物陰から立ち上がる。
「お、百瀬じゃねえか?やっぱいたのか」
「も、百瀬さん……」
――出てきちゃだめだ。
そう言いたいが痛みで声が出せない。
「お願いです、なんでもしますからどうか組長さんだけは助けてください!」
百瀬さんが、鉄パイプを振り下ろそうとする沖原君に対し深く深く頭を下げる。
「ほう?なんでも。」
そしてその言葉に沖原くんは不気味な笑みを浮かべて聞き返す。
「ハハハ、そうか、なら服を脱げ、勿論下着も全部だ。」
「な⁉」
「だ、ダメ、百、瀬さん……」
かろうじて声が出るようになったが、まだ弱弱しく、僕の言葉は百瀬さんには届かない。
百瀬さんは一瞬の動揺を見せるも、沖原くんの指示に従い一つずつ脱いでいく。
「ハハハ!いいねぇ、やっぱりそそる体してんじゃねぇか!」
肌が見えてくるにつれ、百瀬さんは恥らいにより脱ぐ動きも鈍くなる。
沖原くんはそんな様子も楽しんでいる様で催促はしない。
――な、何とかしないと……
沖原くんは完全に油断している。今がチャンスだ。
幸い、百瀬さんが時間を稼いでくれたおかげで体がある程度動けるまでになった。
――だけど、どうする?
一応手元にはまだ銃はあるが、あの距離で外した僕がこんなボロボロの状態でまともに狙えるわけがない。そしてはずしたら今度こそ終わりだ。
――撃つなら絶対外さない距離で撃たないと……
色々と考えているうちに、気がつけば百瀬さんは全ての服を脱ぎ終え、胸と恥部を、手で隠して立っている。
「ハハハ、じゃあ、脱ぎ終わったところで愛しの組長さんに見せつけてやろうぜ。」
沖原くんもニヤニヤと笑いながらベルトに手をかけ緩め始める。
――なにか、何かではないか?
辺りを見回し使えそうなものを探す、するとふとポケットに何かが入ってることに気づく。
――これはたしか鷺沼さんから藁人形……
開戦前にもらった鷺沼さんの藁人形、お守りみたいなものだと思って特に気にも留めてなかったが、よく見れば藁人形にしては重く、体の部分が太くて不自然だ。
僕は物音を立てないようにそっと藁人形を取り出し調べる。
――……これは!
よくみれば、人形の首の部分にピンのようなものが刺さっていて、首に巻かれた赤い紐を引っ張るとピンを引き抜けるようになっている。
――もしかしたら……
……僕はとある決断をすると一か八かの賭けに出る。
「ヒャハハハハ、さあ、一緒に楽しもうぜ。」
沖原君が百瀬さんの胸に触れたところで呼び止める。
「沖原ぁ!」
「ああん?」
名前を呼ばれ沖原君がこちらを振り向いた瞬間、僕は藁人形の紐を引っ張り、沖原君に投げつけると同時に耳を塞いで目を瞑る。
「な⁉」
投げつけた藁人形が、床に落ち小さな爆発を起こすと、それと共に強い光が発し、目の前の沖原君を襲った。
「ぐわ!」
僕が考えていた通りその藁人形は、どうやら鷺沼さん手製の閃光弾だったようで、光と音に感覚を奪われた沖原君が怯むと僕は最後に力を振り絞り、沖原君に突撃するとそのまま沖原君を押し倒す。
「よ、四辻てめえ……」
沖原君が抵抗を見せるが、僕は無我夢中で銃を取り出し沖原君の腕に突き付ける。
「おい、バカ!やめろ!」
――この距離なら外さない!
何か言おうとする沖原君を無視して引き金を引く。
すると激しい衝撃と共にこの体育館倉庫にパァンっと大きな銃声が鳴り響いた。
「ぎゃああああああああ!」
銃声の音と共に沖原君の悲鳴もまた響いた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……。」
僕はゆっくりと突き付けた拳銃を離す。
ゼロ距離から撃たれた腕は赤く腫れ上がり、沖原君はその受けた痛みに涙を流しながら打ち上げられた魚の様にピクピクと痙攣を起こしていた。
この腫れあがりから見て、骨折は確実だろう。
「終わった……」
僕は銃を下ろし大きく息を吐くと、体育館倉庫の何もない天井を見上げた……。
――……本当にそうなのだろうか
安心しきまっていると、僕の中でそんな言葉が頭を過ぎる。
――本当にこれで終わりなのだろうか?
確かに沖原君は重傷を負った事で決着はついた。
本人も折れた腕の痛みでもがき苦しんでおり、とても抵抗してくる様子はない。
しかし他の人達はまだこの事を知っておらず、沖原君が、もう片方の腕で攻撃してこない保証はない。
――……
僕は腫れ上がった腕とは逆の腕を見て唾を飲み込むと、一度下した銃を反対側の腕に突き付ける。
「は?おい待て!やめ――」
パァン!
再び銃声と悲鳴が倉庫に響く。
「ハァ……ハァ……まだだ。」
――もし走って逃げられたりでもしたら
次は足に突き付け引き金を引く。
パァン!パァン!
「……まだ……まだだ……」
――もしこの声で仲間を呼ばれたら……
次は喉元に銃を突きつける。
「お願いだ、もう、やめて――」
僕はそのまま引き金を引く――
「駄目ぇー!」
……と、最後の引き金を引こうとしたところで後ろから百瀬さんが飛びついてくる。
「え?百……瀬さん?」
「もういいんです、もう戦いは終わったんです。」
僕は飛びついてきた百瀬さんを見る。
百瀬さんは自分の裸体を隠すことなく、ただ僕を止めようと後ろから腕をまわしてひたすら泣き続けていた。
「……終わった?」
そしてその言葉に僕は沖原君に目を向ける。
気が付けば沖原君は涙と鼻水を垂れ流しながら泡を吹いて気絶していた。
――あ、そっか。もうとっくに終わってたんだ。
僕は終わったあとも、一人敵意のない人相手をひたすら攻撃し続けてたんだ。
……僕の心は真っ黒だ。




