開戦
沖原の声が抗争の開戦の合図となると、窓から顔を出す人も続々と増え始め、瞬く間に廊下は観客席と化した。
その人数は宣戦布告の時とは比べ物にならず、あっという間に中庭が見える窓はギャラリーで埋め尽くされた。
B組とG組、どちらかが勝つかで賭けをするもの、この戦いで互いの実力を見極めようとするもの、ただ純粋に余興として楽しむもの、それぞれ見る理由は様々だ。
そしてそのギャラリーの中には組の幹部たちも揃っていた。
C組では九条が椅子を用意しコーヒーを片手に寛ぎながら傍観し、隣では宇佐美が高級そうなビデオカメラをセットしていた。
F組も同じくカメラを用意しながら次に戦うことになるであろう両クラスの行く末を全員で傍観していた。
――
そしてそんな中、E組にも両者を見守る一人の男子の姿があった。
オールバックにした黒い髪に、高級そうな黒いスーツを着、眼にはサングラスを付けた黒ずくめの男子。
無表情で中庭の情景を見守るその姿はまるで映画で出てくるエージェントのような姿だった。
そしてその男に一人の男子が声をかける。
「なんだ森?やっぱりB組が気になってんのか?」
不意の自分の名を呼んだ声に反応し、後ろを向く、だが相手の姿を確認した後、森は無言で再び窓の外に目を向けた。
「……屑か。」
「ゴミだよ!五ー味ー!」
お決まりのフリに思わずツッコミを入れると五味は一度咳を入れ、改めて仕切り直す。
「まあ気にならないわけなよな?元クラスメイトとしては。」
「……気にならないといえば嘘になる、だが、それはあくまでただの興味本位程度だ、別に特別な情がある訳でもない。」
「あ、そう。で?お前としてはどちらが勝つと思う?」
五味の質問に森はしばらく考え込んだ後、自分の考えを解説し始める。
「……安西が調べた話ではB組は藤澤を取り入れ数を増やし人数は十六人、一方Gは新たに増えた停学者と藤澤が寝返りにより二十四人……今やその人数差は八まで縮まった……ただ、B組は百瀬や清川といった戦力としてみれない奴らが複数人いる。そして更にB組はそれぞれ一人一人が役割を担っており、全員が前衛に出る訳ではない、一方G組はそんな役割分担などはなく、沖原以外の全員が前衛に出るだろう。そうなってくると幾ら個々が優秀だとしてもB組が勝つのは現時点ではまだ難しいだろうな。」
「なかなか手厳しいねぇ。」
「だが、B組の個々の強さは本物だ、そして団結力もある。それが抗争という戦いでどう生かされるかが勝負になるだろう。だがやはり最後は……」
そう言いかけると森は武器を手にする生徒の中、一人の少し場違いな雰囲気の男子に目を向ける。
「……両組の組長がカギを握ることになるだろう」
――
抗争が開始されるとまず初めに両クラスは中庭の中央にある校長の銅像の前に集められる。
そして抗争の監視役の教師が全員が集まっているのを確認すると、銅像を境に二手に分かれた状態で開始される。
抗争の範囲はそれぞれのクラスがある本校舎内以外の学校の敷地内で、その範囲内ならどこにいても問題はない。
僕達はギャラリーが注目する中、中庭の中央に待機し、G組が揃うのをじっと待つ。
校舎の中から奇抜な髪型よG組の人達が武器を手に持ちながらぞろぞろと集まってくる光景はまるで世紀末を見ている様だった。
そして生徒が全員出揃うと、教師が生徒の確認をする。
ちなみに、転校初日に起きた抗争ではまだ僕の存在が教師達にうまく伝わってなかったため、スルーされたらしい。
教師があらかじめ渡されてある名簿を見ながらB組の人数を確認していると一人の生徒の前で足が止まる。
「ん?藤澤は確か……」
「はい、昨日の縄張り襲撃の一件で昨日よりB組に移籍することになりました。」
「ほう……」
藤澤さんがこちらにいるのが意外だったのか教師が思わず関心の声を漏らす。そしてすぐに確認を再開する。
「……よし、全員いるな。では両者、それぞれの配置につけ。」
教師の言葉に従い両クラス、中庭の端にまで移動する。そしてそれを確認すると
「では始め!」
教師の開戦の言葉と共に戦いの火蓋が切って落とされた。
――
抗争が始まると、すぐさま銃撃戦が始まる。
だがこれはあくまで両者ともに威嚇射撃であり、まだ相手との距離があるためお互い当たる気配はない。
「さあ、作戦開始よ!組長とアヤメは例の隠れ場へ、ツンコ達も途中まで付き添ってあげて」
「了解」
飛葉さんの指示に従い、僕は手はず通り百瀬さんと一緒にあらかじめ見つけておいた隠れ場へ向かう為、中庭の外へと向かう、そして途中まで同じ方向へ行くツンコさんと鷺沼さんも同行する。
「四辻の奴が中庭の外へ出たぞ!追え!」
僕たちの存在に気づいた相手が退路を塞ごうと外へ続く渡廊下に先回りをしようとする。しかしそこにB組の頼もしき二人が立ちはだかる。
「おっと、いきなり、大将の首をとろうなんぞ甘めんじゃねえか?」
「ちっ、若田部に片瀬か、今のお前らに用はねぇ!そこをどけぇ」
「退くのはてめえらだよ。」
そう言って若田部君と、片瀬君が相手にバットとゴルフクラブを突き付ける。
「ち、てめえら、手貸せや!」
男の合図に複数の組員が集まってくる。
「へ、七人か、上等だ!おっしゃ、行くぞ片瀬!」
「おうよ!」
二人が声を掛け合うと目の前の敵へと突撃する。
「じゃあ、私たちも手はず通り行動開始よ、良子と紀子、三羽ガラスは健二たちと一緒に相手を迎撃、私達三人は指示を出しながら後衛でサポートをするわ、横青コンビは他の奴らを放っておいて沖原を探して!」
「了解、任された!」
指示を仰ぐとそれぞれが行動を開始する。
「さあ、私たちも行くわよ」
「うん」
ツンコさんの言葉に頷くと、僕たちは戦場と化した中庭を後にした。




