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抗争学園  作者: 三太華雄
一章
27/40

フェイク

「ばっっっかじゃないの⁉︎」


 会議の開始早々、部屋中に怒鳴り声が響く。案の定、今日のことで飛葉さんからキツイ叱責を受けていた。完全にこちらが悪いので僕と横田君は反省の意を示すしかない。

 ……と言っても僕は言われているわけじゃ無い。


 やはりここでも組長の肩書きが働き、僕に関しては何も咎められず、ただ困った表情で「つぎは相談して欲しい」という言われて終わったが、その代わり僕の分も含めて横田君がこっ酷く怒られている。

どちらかというと、そちらの方が罪悪感を感じて辛い。


「まあ、いいじゃねぇか、結局問題なかったんだし。」

「い・い・わ・け・ないでしょ!この抗争の真っ只、フィギュアを買うために街に繰り出すって、下手すりゃそんなしょーもない理由で組が終わってたかもしれないのよ?わかってるの⁉︎」

「はい、おっしゃる通りです……誠に申し訳ございませんでした。」


 若田部君が庇護してくれるがもちろん、そんなのじゃ飛葉さんの怒りは収まらない。

横田君が怒られ、頭を下げるたびに僕も上座で膝に手を乗せ、反省の弁を呟いていた。


「でも、まあそれくらいにしときなさいな、じゃないと話、進まないわよ。」


 ツンコさんに窘められると、飛葉さんは不本意ながらも渋々話を進めた


「はぁ……仕方ないわね、じゃあ少し話がずれたけど、改めて会議を始めるわ。Gとの戦争が始まって一週間、全員揃っての会議は一週間ぶりだから一度今までのおさらいを兼ねて、作戦班で話していた内容を伝えて行くわ。」


そう言うと飛葉さんはこの一週間の内容を書き残したホワイトボードを使いながら、作戦班のしていた話の内容を順を追って、一通り説明していく。


「まず、私たちの目標としているのはF組とG組の分断、それに関して作戦班はこの一週間の戦闘や諜報で得たG組やF組に関するありとあらゆる情報を集め議論してきました。そしてわかったことが二つあります。それが、GとFとの間に金銭のやりとりがあった可能性と、そして相手の行動パターンです。」

「行動パターン?」


その言葉に青山くんが首をかしげる。


「そう、戦闘班の話によるとこの一週間彼らの行動は、F組が足止め、G組が良子を襲うのワンパターンだった。手を組んでいるのを隠している事を利用した戦略ね。」

「あぁ、そういわれれば!」

「衝撃の……事実⁉︎」

――え?気づいてなかったの?


その行動パターンを随時報告していた、喜田さんと秋山さんがそれを聞いて深く感心している。


「で、次にその行動についてなんだけど、なぜその行動しかとらないのか。それについて話し合った結果、向こうがそれしかしてこないのはそれしかできないから……つまり、あの行動は何かを制限された事によるものという結論に至ったわ。」

「つまり、どういうことだ?」

「恐らく、彼らの攻撃パターンを見切ったんだね、飛葉さんは」


――……本当に考えるの方は駄目なんだね戦闘班。


若田部くんと青山くんのやり取りを聞いて心の中で呟く。


「そして、その制限となっているのがF組がこちらに手を出せないという事。なぜ手が出せないのか?それはこちらと同様で、同盟の公表していない事によるものよ。彼等はF組との同盟に関しては一切口にしていない、つまり、現時点では同盟を組んでいるとは言い切れないから私達に手を出す理由がないのよ。そしてその同盟関係を隠す理由について、そこで出てくるのが先ほど言った、金銭のやりとり。彼等は金目的で同盟を組んだ事を他クラスに知られたくない、だから同盟の事を公表しない……ここまでが一昨日までの見解ね。」


 一通りの話を終えると飛葉さんが一度ホワイトボードから目を離し、こちらに視線を向け、みんなの様子を伺う。


「でもそれなら答えは出てるんじゃねえの?F組は金が必要だったから同盟を結んだって。差し詰め香取との契約金で問題が発生したとか」


話を聞き終えた片瀬君が質問する。


「それにしては少し不自然すぎるのよ、元々金のやり取りのがわかったのは、F組の身なりが急に良くなったからだし、もし資金がないならそんなことにお金は使わないでしょ。」

「じゃあ、他に理由があると?」


 今度は、先程怒られた横田君が質問する。


「そう、だから私はこの二日間、F組のある人物を重点的に調査していたの。」

「ある人物?」

「ええ、その人物は……こいつよ。」


 そう言うと飛葉さんがホワイトボードにその人物の名前を書き足す


「……F組の御堂澄香よ」


 ――御堂澄香……確かF組の若頭をやっていた人だったっけ?

 会議で一度会っているが確かに女王気質で下に付く人には見えない人だった印象だ。


「実は御堂澄香には以前からとある噂がささやかれているのよ。」

「とある噂?」

「そう、それはクーデターよ」

「クーデター⁉」


 その言葉にその場が少しざわついた

 

――クーデター……確か、下の人が謀反を起こして組織を乗っ取ることだっけ?


 漫画やドラマでしか聞いたことのない言葉にいまいちピンとこない


「若頭の御堂澄香と組長である新島翼、元々は別の人物が組長をやっていたんだけど、私たちと同じく全面抗争で停学になってね、今は新島が組長をしているんだけど、現状は御堂澄香が組の主導権を握っていて、その件に関してF組内では新島派と御堂派の派閥ができてしまっているの。」

「あ、その話は割と聞いたことあるわね。」

「うん、僕も聞いたことあるよ。」


 ツンコさんや青山君が反応する、どうやら学校では有名な話のようだ


「そしてそのことを踏まえて、一度今までの手にした情報と御堂の周りをこの二日間で洗いざらい調べ上げてみたの」

「で、結果は?」


 若田部君に問いかけに飛葉さんがニヤリと笑う。


「ビンゴよ、今までGとFの接触している人物は御堂派の者達だったわ、偶然にしては不自然よね?大事な同盟の話を全て御堂一派だけがするなんて、そう考えた私は一つの仮説を考えてみたの、もし、金銭のやりとりが新島たちを騙すことに使われたフェイクで、実は御堂たちとの間で別の話が持ち上がっているのでは?と」

「あ⁉」

「じゃあ、F組の真の目的は……」

「恐らく、クーデターに関する事よ。新島たちには金銭関係で手を結んだ、そう言っておいて本当の関係はクーデターの手伝いって事じゃないかしら?」


 先程より大きなざわつきが起こる。


「でも香取は気づいていないのか?」

「当然気づいているでしょ、でも彼女の契約はF組との契約だから口出しせずに傍観してるのでしょう。どちらよF組だからどちらが勝とうが問題ないでしょうし」

「でもそれなら、向こうが手を出してこない理由は?」

「それは恐らく、金銭関係だと考えている新島が香取から聞いた助言を聞いての対策ね、その件に関して御堂たちあえて口出ししないってところかしら?変に口出しして同盟破棄とか言う話が出たりしても困るしね。」

「な、なるほど、それなら納得がいく。」

「なら、その事を新島派に伝えれば……」

「少なからずとも内部に動揺が与えられるはずよ。」


 その言葉にその場が盛り上がりを見せる。やっと掴み始めた勝機に皆が笑みを浮かべ始めていた。

 ただ……


――……なんだろう、この違和感。

 

 さっきの考えにすごく違和感を感じている自分がいる。

 話では確かに全て合点が行く、でも……


 「あの、少しいいですか?」

 

 盛り上がり始めているこの場でそのことを言うべきか、戸惑っていると別の方から声が聞こえた。

 その場に目を向けると百瀬さんだった。


「どうしたのアヤメ?」

「確かにその考えなら合点が行きます、でも本当にそれを鵜呑みにしてもいいのでしょうか?」

「それって?」

「御堂さんのクーデターの噂です。前に組長さんが言っていた言葉が気になって」

「言葉って、前に言っていた事ってもしかして新島がヘタレを演じてるってやつ?」


清川さんがそう尋ねると百瀬さんが頷く。

 それは以前僕が会議で言ったことだ、そしてそれこそ僕の違和感の理由でもあった。


 前に僕は一度新島君と御堂さんには組長会議で会っている、しかしその印象は皆の言ってる話とは少し違うものだった。新島君は御堂さんの傀儡、そう聞かされていたが僕はそれは彼の偽っている姿だと感じていた。そしてその感じから新島君が御堂さんにクーデターを起こされるとは思えなかった。


「はい、だからその、御堂さんのクーデターの噂も鵜呑みにしていいのかなっと思いまして」

「それは……」

「で、でも、その話は何の根拠もなかったことだし、僕の思い過ごしだって可能性も……」

「……でも現にG組が怪しいという組長さんの予想は、見事に当たっていましたし組長さんの話もおろそかにはできないと思います。」

「……うーん、そうなると話が見えてこなくなるわね……」


 盛り上がっていた会議室に小さな沈黙が訪れる。もしかして過去の自分の発言でこの場をかき乱してしまったのではないか?そんな不安に駆られる中、意外な人物が沈黙を破った。


「あるよ……今の話で……両方が納得する答えが」


 口を開いたのは普段からもあまり話すことのない鷺沼英子さんだった。


「鷺沼、どういうことだ?」

「京香の考えと……アヤメの言い分……両方が通じる答えがあるよ……」


 そう言うと鷺沼さんはゆっくりとホワイトボードのに書かれてある文字を指さした。


「F組の標的は……G組」


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