目論み
「それで、ノコノコとやられて帰ってきたって訳か?」
G組のメンツが集まる会議室で、顔中痣だらけの組員達の報告を聞くと、沖原は不機嫌そうにタバコを加える。
「ああ、やっぱあいつらヤベェわ、今まで喧嘩してきた奴らとは訳が違うぜ」
「ガッハッハ、そうでなきゃ困るぜ、宣戦布告早々終わっちまったらつまらんからな。」
不機嫌な沖原とは別に上機嫌に荒げた声で笑う平田。
参謀である藤澤は不満げな顔をする。
「だ、だから言ったじゃないか、喜田良子は全面抗争での活躍で今じゃ学校内でも一目置かれている存在だって――」
「うるせーな、知るかよそんなこと!女如きがあんなに強いなんて思わねぇだろうが!」
組員達の逆ギレに藤澤はぐっと唇を噛みしめる。
G組は何かと女性を見下す傾向があるため、藤澤はあらかじめ喜田の危険性を説いていた。
しかし、藤澤はこういう意見を聞いてもらえないことが多々ある。
元々真面目な性格の藤澤は、組員からはあまり良く思われていなかった。
「で、今後はどうするよ?」
「戦闘に関しては平田に任せる。悪いが俺はこれから御堂を会う予定だから抜けさせてもらうぞ。」
そう伝えると沖原は席を立ち、そのまま扉へと向かう。
「例の件の話か?」
「そう言うことだ。」
それだけで話が通じたのか、平田はニヤリと笑う。
沖原が数名の組員を引き連れて会議室を出て行った後、藤澤が改めて話を戻す。
「え……と、じゃあ、次こそは香取さんの言っていた――」
「はあ?なに言ってやがる、相手はもう一度喜田とか言う女だ!」
「え!でも――」
「でももへったくれもねぇ!女なんかにに、やられっぱなしで終わってたまるか!標的は喜田とか言う女だ!いいな?」
平田の言葉に他の組員が大きく返事をする。
何を言っても聞き入ってもらえないこの状況下を、藤澤は拳をグッと握って堪えていた。
――
沖原が広間に行くと、そこには数名の男子を率いた御堂がキセルを片手にソファーで寛いだいた。
沖原もそばに組員を待機させ、向かい側にあるもう一つのソファーに座る。
「待たせたな。」
「フフ、構わないさ。」
二人が軽く挨拶を交わすと、沖原は懐から封筒を取り出し、御堂に渡す。
そして、御堂はその場で中身を確認した。
「三万か……少しみみっちい金額だけど、まあカモフラージュとしては丁度いいわね。」
「ただ突っ立ってるだけだったんだから贅沢言うなよ、お前らが手を出してくれるなら金は弾むぜ。」
「それは仕方ないだろ?一応Fと、Gが手を組んでることは周りには言ってないことになってんだから。うちの奴らは無駄にプライドが高いからね、金で手を組んだなんて他の連中には知られたくないのさ。」
悪びれる様子もなく、話す御堂の言い分に沖原は少し苛立ちを見せる。
沖原はそれだけが理由とは思っていなかった。他にも何か理由がある……そう踏んでいるが、根拠がない以上沖原はその事を口にしない。
「フン……まあいい。だがいざという時は頼むぜ、互い、いい関係を保つためにも、な」
「……そうさね、じゃあ、用は済んだからとっとと帰らせてもらうよ、あまり長居すると香取に変に勘付かれちゃうしね。」
雑談もなく、淡々と要件を済ませると御堂は金の入った封筒を手に持ち、その場を後にした。
「……カモフラージュって、何の事だ?」
先ほどの会話を聞いていた組員が沖原に尋ねる。
「俺たちはF組と、金で手を組んでいる……と言うことになっているが、それはあくまで新島と一部のF組のやつの欺くフェイク。本当は御堂がクーデターを起こす時に力を貸してやるって約束だ。」
「なるほど、F組も内部はゴタゴタしてるんだな」
「だからこそ信用できる。互いに利益があれば裏切りもなくなるからな、世の中ギブアンドテイクさ」
――
B組会議室
「という訳で、今回の戦闘の関しては以上よ」
「……まさか、こちらが手を出さないことを利用して足止めに使うとはね……相手がバカじゃなかったら危なかったかも」
「ほんとだよね〜」
今日の戦闘の報告を聞いた作戦班がそれぞれ感想を口にする。
「戦闘班はどうする?、集団戦闘に長けた人に組み直す?」
「ううん、その必要はないわ、今の現状がベストだから、それよりも……」
飛葉さんがホワイトポードに今回まとめた内容を改めて見直す。
「今回の件でわかったことは、こちらから手を出さない限りF組が手を出してこないことくらいか、はっきり言ってこれだけじゃ何にもわからないわね。」
飛葉さんが大きく溜息を吐くとつられて皆んなも溜息を吐く。
今日の小競り合いも、結果的にはなんとかなったけど、かなり危なかったらしい。それなのにほとんど情報がないとなるとため息も吐きたくなってしまう。
「嘆いていても何も始まりません!それしか情報がないならその情報に関して検討してみましょう!まずはなぜ手を出してこないのか、そこから考えてみましょう!」
百瀬さんが力強くお淑やかに鼓舞をかける。
なんとか組の力になろうと積極的に発言しようとするその姿に皆、思わず笑みがこぼれる。
「そうね、あやめの言う通りね。じゃあ、まずどうして、F組は手を出してこないのか?」
「普通に考えれば、戦う理由がないからよね。Gと手を組んでることをは公表してないみたいだし。」
ツンコさんの言葉に皆んなが頷く。
今僕達はG組と敵対はしているがF組とは敵対していない。
協力関係にある組なら戦う理由はあるが、向こうはあくまで、同盟を組んでいることは口にしていない。
見れば明らかだろうが、それでも証拠たるものがない限りは言いがかりにすぎない。
「ならどうして公表しないのでしょう?」
「単にGと組んでるのが恥ずかしいからとか?」
「ああ、それ結構あるかも!」
「いや……それは無いんじゃないかな?G組の人達も公表してないのは知ってるだから、そんな理由で公表しないなら向こうが怒っちゃうよ」
そう言われると皆があ〜、と口を揃えて納得する。
「……とりあえずまずはそこらへんから探るべきね。セナ、明日からF組の動向をチェックしていくわよ。」
「オッケー。」




