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抗争学園  作者: 三太華雄
一章
25/40

行動パターン


パチ……パチ……

F組の寮にある一室から、石と石が当たる音が小さく鳴り響く。

 部屋の中はベットと机とタンスといった生活に関する最低限の物しか置いてない。


 そんな何もない部屋の主である香取霧江は、部屋の中心に置かれてある碁盤の上に無造作に並べられた碁石を、正座をしながら眺めていた。

風紀の乱れの一切ない制服と綺麗に整えられたお下げ髪と黒縁の眼鏡。

 今時の女子高生にしては珍しい地味な格好だが、その腰にはかつて忍びがつかっていたと言われるクナイという武器が付いている。


パチ……パチ……


「G組がいう事を聞かないのは想定内、そしてそれによりB組に苦戦することも想定内……しかし、私の作戦を無視する輩助ける思考など持ち合わせていない……」


パチ……パチ……


 香取が碁盤の上に淡々と碁石を置いていく。

 並べてある碁石はバラバラで、囲碁としては機能していない。


これは香取が思考を研ぎ澄ます時にする精神統一方法である。

碁石を置く時になる音が香取には心地よく感じ、心を落ち着かせ集中力を高める要因になっている。


「宣戦布告から一週間……元々この作戦は相手の人数から考えた短期向けの作戦。長引けば長引くほど、こちらの計画が気づかれやすくなる。」


パチ……パチ……


「……こうなると私たちがする行動はいかに相手を欺き、この戦争を長引かせるか……」


パチ……パチ……


「きっと今日もBの偵察が来ているはずです。皆に高価な物を所持させ、なるべく金銭的余裕があるところを見せて置きましょう、さすれば少しは相手の思考を混乱させられるでしょう。まあ、どちらにしても……」


パチン!


「私達には関係ない話。」


 最後の碁石である黒の石を天元に置き綺麗な音をたたせると、香取は一面を碁石で覆いつくされた碁盤を再び無言で見つめた。


――しかしまさか、交戦を選ぶとは……こうなる事を読んでいたのかしら?それとも、ただ仲間を犠牲にしたくなかっただけなのか……


「どちらにしろ少し興味が湧いて来ましたよ、四辻誠さん……」


――

「ホラホラどうしたぁ!G組の男ども!」

「く、この、女の分際で――ぐわぁ!」


 中庭に喜田の声と男子の悲鳴がが響き渡る。

 喜田は男勝りな口調で挑発しながら、襲いかかってくる相手を楽しそうに警棒で殴り倒していく。


G組は前と同じ方法で絡んでは、喜田だけを狙っていた。

F組も毎回まるでバスケのディフェンスをするように他のメンバーにピッタリとくっついているが、一切手は出してこない。


「不味い、一人肋を持っていかれた!」

「ちっ、今日はここまでだ、ずらかれ!」


一人の男が号令をかけると、G組のメンバーがすぐさま撤退していく。

そして、それを確認した新垣は大きく伸びをしたあと、


「今日は、ここまでだな、じゃあかいさ〜ん」


 といつものように腑抜けた声で解散宣言をすると、F組は淡々と校舎へ戻っていく。

 ここまでがここ最近の流れとなっていた……しかし


「おい待て!」


今日は去ろうとする新垣を若田部が呼び止めた。


「んぁ?」

「新垣!F組はいったい何を企んでやがる!G組と手を組むお前らの目的はなんだ!」


 若田部が威圧的な態度で問いかけると、新垣はしばらく、無言で若田部を見る、そして……


「お前、バカだな。」


と一蹴した。


「な、なんだと!」

「お前らが必死こいて嗅ぎまわってる情報を聞かれて、はい、教えますよって教える馬鹿がどこにいる。」

「う……」

「聞きだすならもうちょっと工夫したほうがいいぞ、誘導したりとかカマかけてみたりとかな、尋問の基本だぜ。」


そう言い残すと、新垣は携帯をいじりながら再び校舎へと歩き出した。


――

「……てことがあったらしいよ。」

「……」


 清川さんの報告で最後の一文を聞いた飛葉さんがしかめっづらになって固まっている。

 まあ、うちの若頭とあろう者が敵から的確なアドバイスを受けたんだから当たり前だろう。


「とりあえず、今回の話は以上かな?」


情報を伝え終えた清川さんが話を閉じる。


 抗争が始まって一週間。

 あれから僕達は、小競り合いと会議を繰り返していた。

 この一週間、G組の攻撃が来ない日は一度もなかったが、B組は未だに無事健在。

 更に喜田さんの活躍によって相手を三人停学にできた。

 理由はわからないが向こうが喜田さんしか狙って来なかったのが大きい。


 まあ、その事で、手が出せない他のメンバーはかなりフラストレーションが溜まっている人もいるみたいだけどそこは我慢してもらうしかない。


 ただ、すべてが順調という訳ではない。

 相手の行動パターンが同じという事もあり、わかった情報をまとめていくためのホワイトボードに書き込まれた内容が初期からほとんど変わっていない。

 この状況を打破するカギとなる、F組とG組との関係性の情報があまり入っていなかった。

 若田部君なんかはどうにか力になろうと相手から情報を引き出そうと頑張って見たりもするが、まあ……あまり成果は出なかったみたいだ。


だからと言って、このまま待ち続けるわけにもいかない。

 来週からは十月に入り月が変わる。

 仲間の復学を待つ僕達にとっては嬉しい事だが、逆に人数が増える前に叩いておきたい彼らには焦りも見え始めるだろう、更に向こうの停学者が出始めていることで、もしかしたらG組の動きに変化があるかもしれない。


 皮肉なことに今僕たちが無事なのは彼らの行動がワンパターンなのも大きかったりする。

多分今は油断もあっての行動なんだろうけど、もし彼らが本格的に作戦を立てて襲って来たらかなり厳しくなる。

 そうなる前にどうにか見当をつけておきたかった。


「ありがとうセナ、今日で今週は終わり、とりあえず今までのG組の情報をまとめましょう。」

「まとめるって言っても、一週間全部一緒なんでしょ?F組が抑えに回って、Gが五人がかりで襲ってくる、これしか情報はないんじゃないの?」


ツンコさんの言う通りこれ以上まとめようがない。


「そんなことわかっているわよ、けど何か考えて行かないと、向こうがいくら馬鹿でもこのままでいるわけないからね、何か少しで気づいたこととかない?」


 飛葉さんがそう尋ねるとと全員が考え込む。

 僕も頑張って考えてみるものの、大して頭が良くない僕が考えても、そんなすぐには答えは見いだせない。そもそも情報が少なすぎる。


「せめてほんの少しでも違う動きをしてくれればよかったのになぁ……」


 思わず愚痴まじりの独り言が漏れる、しかしそれに対し、言葉が返ってきた。


「……もしかしたらそれ自体にヒントがあるかもしれません。」

 

 静けさが続いていた中、百瀬さんがポツリと呟いた。


「どういうこと?」

「向こうの行動がワンパターン、一見情報がないように思えますが、それ自体が大きな情報じゃないでしょうか?」


――そう言われても全くわからない


「……なるほど、相手の行動がワンパターンなのは、それしかしてこないのじゃなくて、それしか出来ないからっていう事ね」


 飛葉さんが少し砕いて説明してくれたところで僕も理解する。

そして飛葉さんの言葉に百瀬さんが大きく頷く。


「はい、もしくは、その行動をすることに意味があるとか」

「……確かにその論点はいいかもしれないわね。」

「アヤメやるじゃん。」


 ツンコさんに褒められると百瀬さんは嬉しそうに笑った。


「彼らの行動に制限がみられるのは、やはりF組の動きよね、ここについて考えていきましょ」

「あれ?喜田さんばかり狙うことに関しては問題ないの?」


 一応向こうの行動パターンとしてはF組が抑えて、喜田さんを狙うってのがセットのはず


「ああ、その理由については簡単よ」

「簡単なの?」


僕が尋ねると全員が頷く、百瀬さんもわかってることに少し驚く。

そして飛葉さんと清川さんが口を揃えて言った。


「「相手が馬鹿だから。」」


……すごい直球な返答が帰って来た。


「G組が女を軽視してる事は、初めの小競り合いでの相手の会話からわかってるし、その事でF組と少し揉めたってのも聞いてる。」

「なら答えは差し詰め良子にやられたのが悔しかったG組の単独行動、F組は関係ないわ」


 本当にすごく簡単だ、そんで持って説得力もある。


「となるとやっぱり本題はF組は何故、手を出さないのか?と言うことだよね。」

「私達はこれを他のクラスとかに公表していないからと考えていた、その考えは間違ってないと思う……じゃあ、何故公表をしないのか、やっぱりそこが一番重要なんじゃない?」


 抗争開始時の会議でも出ていた話だ。


「でも、それに関しては情報が……」

「あ、その事なら少し話があるんだけど」


その議題が出ると清川さんが手をあげる。


「どうしたのセナ?」

「実は最近F組に偵察に行って思ったんだけど、なんかF組の一部のメンバーの身なりが少し良くなってきてるんだよねぇ」

「身なり?」


僕が問いかけると、清川さんが頷く。


「そう、別に大したものじゃないんだけど、最新の服とかだったり高価そうな指輪とかしてたりね。」


 清川さんの情報を聞くと、飛葉さんが険しい表情で少し考え込む。

 身なりくらい気にしてもいい年ごろだと思うけど、飛葉さんは少し引っかかったようだ。


「それって今回と何か関係あるの?」


 同じ考えだったツンコさんが二人に尋ねる。


「私達が学校からもらえる資金はみんな均等なの。軍資金やら雑費などやりくりが大変な中、急に高価なものを買ったりするのは少し不自然だわ、一応自分達で稼いだ金を資金にするのも許可されてるのだけど、F組が資金稼ぎをしているという話はいたことがないわ。」


 まあ確かに、バイトとかしようにも、街に行くまでに何時間もかかる、こんなところからバイトなんて出来たもんじゃない。


「もしかしたら、G組からってこと?」

「その可能性が高いよ、G組は隣町で色々とやっているからお金もあるだろうし、もしそれなら同盟を公表しないないことにも繋がるからね。」


そう言われるとツンコさんは納得したようだ、僕はそこも納得できないので更に尋ねてみる。


「どういう事?」

「前にも言ったと思うけど、私達はメンツが大事なの、金目当てで同盟を結んだなんて知られたら家の名に傷が付くわ。」


――そう言う事か

うちの学校は抗争のルール然り、とにかく変にプライドが高い。

何かこと立てるには筋を通さなければならない。

まあ、極道を育てる考えならわからなくもないが


「でも、そんなことで……ここまでするの?」


というのが本音だった。


「まあ、普通はそう思うよね、でもここは日本の裏社会を牛耳る紅蓮会よ、ほんの少しでも弱みを見せれば食われてしまう。」

「じゃあ、GとFの同盟理由は金銭関係って事?」


 今までの話の流れだとそうなるが、そこで、飛葉さんの否定が入った。


「いや……それは違うと思う、資金難ならともかく、そんな趣味娯楽に使うお金のためにわざわざ同盟なんて組まないと思うわ。」

「そう言われるとそうかもね。資金なんてあれば有利になるのになんだか、有り余って適当に使ってるみたいに感じるし、でもそうなると、それは私たちを騙すためのダミーかな?」


「それに関しては否定できないけど、私達を騙すにしては少し露骨すぎる気がするわ、私達を騙すならもっと他に……」


そこまで言うと飛葉さんの言葉が一度ピタッと止まる。


「私達を……騙す?……もしかして⁉︎」


 何かを思いついたのか、飛葉さんは勢いよくその場を立ち上がる。


「今日はここまでにしましょう、少し調べたいことがあるの、あとセナは明日私と一緒に来て。」

「え、いいけど、どこに?」

「もちろんF組寮前よ、もし私の予想が正しければ……」




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