プロローグ 土曜日の夜
「こんばんはー。ソフィーです。今日も来てくれてありがとう。」
土曜日、夜八時。
配信が始まると、いつもの名前が次々と画面に並ぶ。
六年近く続けているラジオ配信。
大勢が集まる人気配信というわけではない。
でも、毎日のように来てくれる常連さんがいて、その人たちと雑談したり歌を歌ったりする、この時間が理美は好きだった。
「今日はね、はま寿司の話。」
コメント欄がすぐに動き出す。
「また食べ物(笑)」
「聞く聞く!」
「今日は、とっておきの情報教える。」
理美は笑いながら話し始めた。
「はま寿司行くなら、私は絶対九時半入店。」
「なんで?」
「十時までは朝メニューなのよ。だから九時半に入って朝メニューを食べるでしょ。」
コメントが流れる。
「うんうん。」
「で、十時になったら通常メニューに切り替わるから、そこから食べたいものを頼むの。」
「なるほど!」
「そうすると朝メニューは少し安めだし、通常メニューも楽しめるし、食べ終わる頃には十時半ぐらいだから、朝ご飯と昼ご飯兼用になるの。夜までそんなにお腹空かないわよ。」
「ソフィーらしい(笑)」
「今度やってみる!」
理美も笑う。
「わたし流石でしょ?(笑)」
雑談をしていると、一つの通知が表示された。
――JINさんが入室しました。
「JINさん、こんばんは。」
続けて、大きな応援アイテムが届く。
毎週土曜日になると、JINは必ず配信へ来る。
そして毎回、約一万ポイント分の応援をしてくれる。
「いつもありがとうございます。」
少しして、コメントが流れた。
「今回のお話も興味深かったです。」
「ありがとうございます。」
理美は笑顔で返した。
JINは、いつも丁寧だった。
配信は毎日している。
でも、JINが来るのは土曜日だけ。
それなのに、ときどき平日の配信も知っているようなコメントをすることがある。
「……不思議な人だな。」
そう思うことはあっても、それ以上気にしたことはなかった。
時計を見る。
「じゃあ、最後に一曲歌って終わります。」
理美は笑顔で画面を見た。
「今日は、JINさんも来てくれたので、この曲を歌います。」
マイクを持ち直し、静かに歌い始める。
歌が終わると、画面いっぱいに拍手のコメントが流れた。
「ありがとう。また明日ね。おやすみー。」
配信終了。
土曜日の夜は、いつものように静かに終わった。
【登場人物紹介】
■理美(配信名:ソフィー)
53歳の専業主婦。
趣味でラジオ配信を続けている。
■JIN
ソフィーの配信を応援しているリスナーの一人。
毎週土曜日の配信に必ず訪れる常連リスナー。




