20.
他人事のようにそれを見ていた。
「…………?」
街からの轟音は聞こえている。
巨大な植物が暴れている。
──それは、魂を啜られた人間の成れの果て。命の部分に手を付けられなかったが故に、欠けた自分の中身を取り返そうと暴れた無辜の民。
魔法という概念が無ければ、それは活動する事のない「生きた死体」で止まっていたのだろうが。『徽』が流布し管理しようとしていたそれは、「生きたい」という願いに過剰に反応していた。
ただ残された命を補完する為に、手当り次第に魂を取り込もうとする異形。
魔法を知らしめる事をしなければ、きっとこんな状態にはならなかった。或いは、そもそも彼女が今日まで生きていなければ、この様な惨事には繋がっていなかった。
彼女は、いつか来るであろう惨劇を予見していた。
正確には、六千年後に自身が消えるという事は、その時期に大惨事が起こるであろうと思っていたのだ。
だから、少しずつ魔法を「管理」できるように計らっていた。自分が見つけてしまった技術であるが故に、そこには責任を取ろうとしていた。
敢えて魔法を流布し、その上で危険性を取り除きつつ、制御された範囲で誰もが使えるようにする。
安泰だろう、と思っていた。事実、この五百年は安泰だった。
ずっと続くと、思っていたのだ。
現実はどうだ。ただ一人の傲慢さがどうしようもない地獄を呼んだ。
近くに散らばる肉塊も、そもそも『徽』が中途半端に救おうとしなければ、きっと此処に居なかった。『徽』が今日まで生きていなければ、彼の被害者などあり得なかった。
残り、六千年。
この状況を前に、未だその結果だけは確約されている。
──恐ろしい事に、騒動は少しずつ収まっている。
轟音の頻度が減っている。唯の人間にあんなものが対処できるわけなど無いだろう。
であれば、誰が動いているのかなど明白だ。
「『剣』、か」
立ち上がろうとする。
──何故?
無意味で、無価値で、変化は無いのに?
『結果』を変える手立てが、ここに残っていないのに?
へたり込む。
答えを出せない。何も考えず動けるほど、無思慮にはなれなかった。
選んだのは、この状況に対する静観。
──否。選ぶ事ができなかった「結果」が、静観なのか。
一時間も経っただろうか。街から聞こえる音は殆ど止まっていた。
やはり、彼は凄まじい。この状況を解決するだけの力があるのか。それを迷い無く振るう事ができるのか。
頬が緩む。そんな人なら、私の結果を変えてくれたって良いのに、と。
まだ、本心は傲慢に満ちていた。彼の苦悩を考える事を放棄していた事実に、人知れず『徽』は頬を噛む。
頼る資格など、まだ自身に残っているのか?
思考の隙間。唐突に、人の姿が眼前に飛び込む。
それは凄まじい速度で、彼女に体ごとぶつかってきた。吹き飛ばされ仰向けにされる。砂埃。滲む視界。
剣。
植物を抑えきった『剣』が、『徽』に覆い被さるように、銀色の剣を構えていた。




