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CODE:HEXA  作者: 青出 風太
137/140

CODE:HEXA File5‐25 剪定し薄青

―ヘキサ―


 放たれた弾丸。六花は足元に飛び込んだソレを反射的に本能で躱した。


(見えなかった……くッ)


 油断していたのか。それとも彼の素行を見て撃ってくるという考えに至らなかったのか。オクタは確かに彼の持つ銃について言及していた。


 聞いていなかったわけではない。では、何故――――。


「意外だったな。君が僕に声をかけるなんて」


 彼は弱々しい口調だが、確かにそう口にした。


「な、何がです」


「君は……変わったね。いや、僕は君と会ったことはないよ?報告書で読んだ程度のことしか君のことは知らない――」


 そう、彼と言葉を交わすのはこれが初めてだった。


「――けど、もっと冷徹な殺戮マシーンだと思っていたよ。きっと前までなら裏切り者に声をかけることなく後ろから刺してただろう。何があったって言うんだい?」


「……」


 六花は彼の言葉に押し黙る。


『うるさい!この、裏切り者……!』


 過去の自分が蘇る。何も言い返せず、視線を敵から逸らしてしまった。


「君も疑問に思ってるんだ。こんなやり方。でも、変わる気はない。なら、僕を放っておいてくれ!」


 彼は涙を浮かべつつ激昂し、引き金を引く。


 六花はハッと身を引いた。


 右の肩口に飛んできた弾丸を避ける。


(次……!?)


 六花は1発目を避けたと同時に微弱な殺気を感じ取り視線を戻す。


 その瞬間、既にリーストは2発目を放つため銃口を六花に向けて動かしていた。


(頭に……!)


 撃たれる。そう思うのが早いか、身体が動くのが早いか。


 六花は無意識のうちに1発目を避けるために使った動きを利用して地面を蹴り、大きく後ろへ跳んだ。そして、2発目が放たれる。




 六花の方が一歩早かったが――


(避け……ッ)


 避け切れない。そう理解した瞬間視界の端から光が飛び込んだ。


 2人の間を横切るように空から差し込んだ光は地面に着弾してプスプスと煙を上げる。


(ラーレ!)


 橋の向かい側、対岸のマンションからの狙撃。暗闇の中放たれた弾丸を撃ち落とす荒技。


 ラーレの経験とセンスによってなされた神業であった。


 しかし、六花はリーストの放つ弾丸を躱すことに頭が支配されていた。ここが橋の上であることを忘れていた。咄嗟のことでその力をうまく制御できていなかったのだ。


 ――飛びすぎた。


 咄嗟に地面を蹴った脚は六花の身体を橋の欄干を超えてその外へ。


「――っ!」


 声にならない声をあげながら片手を橋に伸ばすが、その手は空を切る。






「――六花!!」


 六花の伸ばした腕をオクタが掴む。


「私には構わず……師匠!平気です!」


「師匠ってまさか!?オクタ!あの?」


 リーストは慌てて銃を両手で構え直す。


「離してください。私は大丈夫です!!!」


「……いいから黙ってろ……今引き上げる……!」


 オクタの表情は街灯を背にしていて見えなかったが、いつになく必死な声がした。


「ずいぶんと余裕……ですね」


 リーストは自分が圧倒的に優位であることはわかっていた。


 オクタは六花の手を掴んでいて、欄干から離れられない。片手は空いているが、リーストに構っている余裕はなさそうだ。


 だというのに、リーストは額に冷や汗を浮かべていた。目の前にいるのは組織でも1、2を争う戦闘員。


 1人で特殊部隊1つ分などとケチなことは言わない。彼は単身で軍1つを相手取れるとすら評されるほどの男だ。


 ライースが彼のことを持ち出す時は成功が確約されていた。それほどまでに1人で全てを兼ね備えている工作員だった。




 そんな彼が目の前の“敵”には目もくれず、教え子の手を取り必死に助けようとしている。


 今までリーストが集めた彼の情報はどんな敵を倒して来たか、どれだけの死地から生還したか、そしてどれだけの人間を殺し、救ったか。


 組織にある彼の情報は戦闘によって彼の残した功績だけ。それしか知らないリーストには目の前に起こっていることがいかに異常で、異質に映ったことか。


 それでも、目の前にいる彼から発せられる気迫と空気は圧倒的だった。


 この状況。真っ向勝負で勝てないのは当たり前。しかし、今、仕掛けても戦闘員ではないリーストには勝てる未来が見えなかった。


 勝てないと頭がそう言っていた。震える手で、リーストは銃をオクタに向けた次の瞬間銃口を掠めるように弾丸が飛び込んだ。


「っ……くそっ!」


 地面に転がった銃を回収し、リーストはその場から走り去る。が、彼はどこか、心の底で安堵していた。








 六花は何とか橋の縁に足をつけ、橋の上に戻ってきた。


「……良かった」


 オクタは六花を引き上げるとその場に座り込んだ。


「すみません。飛び出したりして……」


「いや、良い。俺も事前に話してないことがあったし。すまなかった」


 オクタは謝りながら六花の頭に手を伸ばす。


「……本当に良かった」


 しばらくの間、六花は彼の手を払いのけることもなく、道端に座り込んでただただじっと俯いていた。


〈これって……黙って見てた方がいいかな?〉

〈そう思うなら何でしゃべるんだよ〉


 六花は不意に聞こえたリコリスの声に驚き飛び上がる。


「って!リ、リーストは!?」


 明らかに裏返った声をあげた六花に続き、オクタも腰を上げる。


「そうだな、探すか」






〈――――――その必要はありません〉


 六花の耳に無機質な男の声が届く。それはオクタにも聞こえたのだろう。六花の視線の先には険しい表情をしたオクタがいた。


「アストか」


「アスト……?」


 オクタの口にした言葉。それは“枝”を意味するコード。


「司令部の人間が何の用だ」


〈事情があり、一時的に移動を命じられました〉


「どういうことですか」


 六花は疑問を投げかける。チームの移動や即席でチームを組むことがないわけではない。


 それでもこんなタイミングで?しかもどのチームも仕事を抱えていたはずだ。


 だからこそ六花たちのチームが代わりに組織の裏切り者を調査することになったのだから。


〈言葉の通りです。ここから先は我々、“綱紀粛正部隊”が引き受けます〉

今回も読んでいただきありがとうございます。


感想など頂けると嬉しいです。

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