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CODE:HEXA  作者: 青出 風太
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CODE:HEXA File5‐14 剪定し薄青

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「本当か相沢君!」


 相沢は怒声にも近い大声に耳を痛めながらも、そんなことは表に出さずいつもの精悍な表情で「はい」と答える。


「この中に本件の犯人、少なくとも関係者がいると見て間違いないかと」


 相沢の視線の先には愉快犯事件の捜査本部長、長尾(ながお)大輔(だいすけ)がいた。


 齢50を超える歴戦の刑事で大柄な見た目に反して心優しく、それでいて豪快で細かいことを気にしない大らかな人物だ。あまり交渉や隠し事には向かないが、人望を集めやすく、信頼されやすい人柄をしている。


 捜査が始まってすでに1週間。ほとんど何の進捗もなく、帰らない刑事も出てきた中、彼は欠かさずネクタイをキッチリと結んでいる。そういう刑事だ。


「おお!ついに奴の尻尾を掴んだか!よくやったぞ相沢君!」


「いえ、これは小田と直野駅前の川田巡査たちの手柄ですよ」


「そうか……!いや!小田君もありがとう!おかげで事件解決に一歩近づいた」


「そ、そんな」


 小田は照れくさそうに笑う。


「さっそくその5人を調べよう!」




 長尾の号令で捜査に当たっていた刑事たちは一時的に召集され、相沢と小田の掴んだ証拠について共有がなされた。


 本部長は始めに一言、重大な証拠を掴んだとだけ言うと相沢と小田にバトンが回ってきた。


 2人は本部となっている大会議室の前。事件の捜査に当たっている刑事たちと向かい合う形で立っていた。


 小田からすれば向かいに座っている刑事たちは自分よりも長く刑事をやっているいわば大先輩たちだ。中には相沢ですら先輩と仰ぐようなベテランの刑事もいる。


 小田はチラリと隣を見る。今回の防犯カメラ映像の功績は間違いなく相沢によるものだった。彼は頑なに自分の手柄であることを認めようとはしなかったが、捜査の本筋から外されやる気をなくしていた小田を焚き付けたのも、捜査を引っ張っていたのも相沢だ。


 彼を知る者なら彼の手柄であることを疑う者はいない。圧倒的な推理力と、洞察力。本庁の切り札と称されるほどの刑事。それが「相沢(あいざわ) (つとむ)」という男だ。


 そんな相沢が今回の事件をどう捉えているのか小田は興味津々だった。


 発見者ということで小田も前に出てはいるが、今回の説明は相沢に一任されているところを見るに長尾からの信頼も相当なものだろう。


 相沢は小田の様子に気づくと淡々と、しかし確かな威力を持って説明を始めた。






 初めは半信半疑だった刑事たちも、2人がドライブレコーダーの映像にたどり着いた経緯や防犯カメラの映像が改竄されていたことなどを知ると目をカッと見開いた。


 室内の空気が変わったのを誰もが感じた。憎き犯人に繋がる確度の高い情報。誰もが長年待ち望んでいた事件解決の糸口。小田はなんと形容して良いのか分からなかったが、これが「殺気立つ」という事なのかと思った。


 警察が殺気立つという言葉を使うのは適切ではないだろう。しかし、それほどにあの“愉快犯”の起こした事件は凄惨で刑事たちの脳裏に焼きついていた。


 そして何より大きいのは5人の背丈や外見が分かっていることだった。濃い霧の中、どんな人間を探せば良いのかすらわからないまま20年近く捜査を続けてきた彼らにとってこの映像は喉から手が出るほど欲していたものだ。


 相沢はそんな彼らに負けない迫力で事件に関する己の見解を語っている。


 小田は隣に並ぶ相沢を見て、自分はまだまだなのだと痛感した。


(まだ、先輩のように自信を持って話すことはできないけど……でも!)


 小田は隣に並ぶ相沢の声を聞き、決意を固めた。


(絶対!自分たちで愉快犯を捕まえるんだ!)








「え、それはどういう?」


 決意を固めた数分後、小田の口から漏れたのは気の抜けた間抜けな言葉だった。


「君たちには引き続き逃走経路を当たってもらいたいと思ってね」


「そんな!あれは――」


 苦労して見つけた事件解決の糸口。その捜査から外される。そう思った瞬間に声が出ていた。しかし、小田が本部長に抗議の声を上げたその時だ。相沢が止めに入った。


「先輩?」


 相沢は小田には応えず、すぐに本部長に言葉をかけた。


「何か事情が?」


 カメラに映る5人。彼らが事件の重要参考人であることは疑いようもない。ましてや、彼らを見つけた2人をその捜査から外すなど通常では考えられない。


 相沢も会議が終わり次第あの5人を当たろうと考えていたのだ。


「いや、ここだけの話なのだが」


 本部長、長尾は声を顰め2人に届くギリギリの声で話し始めた。


「事件現場から微量の土が採取された」


「土?」


 小田は豆鉄砲を喰らった鳩のように目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。


「声が大きい……!コホン。以前見つかった下足痕に付着していたのだよ。それについて鑑識と科捜研がようやく答えを出した」


「土……ですか」


「あぁ」


 長尾曰く、現場で発見された下足痕には微かに土が付着していたと言う。それ自体には何の不思議もないのだが、問題はその成分だった。日常、街中を歩いているだけでは付着しない成分が含まれており、数名の鑑識と刑事でその捜査にあたっていたようだ。


 そして、相沢たちがカメラの映像を見つけたのと殆ど同時に彼らもその出所を突き止めていた。


 成分の正体は特殊な炭酸ガスであった。


 近年エアコンなどに使用される冷媒は単一冷媒という一種類の冷媒ガスのみが使用されるものが主流だが、今回検出されたものは混合冷媒という複数の冷媒ガスが決められた割合で混ぜ合わされたものが水に溶けだしたものであった。


 交換や、メンテナンス面で混合は単一に勝る利点を産まないため単一のものが国内に広く流通しているのだが、混合冷媒を使う企業もいくつか残っている。


 今回検出された混合冷媒である炭酸ガスを使用する企業の室外機を利用している区画が都内にも複数箇所存在しており、そこから犯人の手がかりが得られる可能性は捨てきれないと言うのが本部の意見だった。


「すまないが、君たちにはそっちの応援を頼みたいんだ。こちらは犯人の根城を探るような捜査になるだろう。若くて力のある者に頼みたいんだ」


 長尾は相沢と小田の後ろに視線を向ける。2人も釣られて後ろを振り返る。この事件の発端はもう20年近く前になる。


 警察が把握している最初の事件からこの捜査に加わっているメンバーはもう50を超えており、中には60を超えるものもいる。


 そんな刑事があの犯人と戦闘になればあっという間に命を落としてしまうかもしれない。


「そんなところに2人を向かわせるのは非常に心苦しいのだが……頼まれてはくれないだろうか」

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