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05 吸血鬼、冒険者ギルドへ行く

 神々しい太陽は、慈愛に満ちたオレンジ色に変わり、地平線の彼方へと消えていった。

 反対の空には、禍々(まがまが)しい月の輝きが目立ち始める。


 よし、食事の時間だ。


 ところが街へ入ろうとすると。


 ゴツン!


「痛っ!」


 今度は鼻をぶつけてしまった。

 血が出ている。もったいないから、ペロリとなめる。


 ふたりの門番は、いぶかしんでいるみたいだ。


 あー、招かれていないからダメなのか。街の主人はどこにいる?

 しかし村では、家以外は問題なく入れたのになぜだ?


 周りを見ると、高い壁が続いている。

 村にも低いのがあったけど、たしか破壊されている箇所が多かった。


「それじゃ、叩き割ればいいのね」


 門から少し離れた場所へ行った。

 私の野望を邪魔した罪は重い。

 死んで償ってもらう。

 指の骨を鳴らし、忌々(いまいま)しい壁をぶん殴る。


 ヴォキィッ!


「手がー! 手がー!」


 絶対折れた。

 のたうちまわってしまう。


「どうしたんだお嬢ちゃん?」


「魔物に襲われたんか?」


 門番の男たちがやって来た。


「血……血を……吸わせて……」


 ひとりに背負わされた。

 なかなか痛みが引かず、彼の首を噛みつく力は出なかった。


「出血がひどいな」


「冒険者ギルドへ連れて行こう。回復魔法を使える奴がいるはずだ」


 すっかり忘れていた。

 招かれていない建物は、どんな攻撃も通らないことに。他の魔族であれば難なく取り除けるが、吸血鬼は無理なのだ。

 だから最弱と呼ばれる。


 おんぶされたまま、門をくぐることができた。

 やったぜ。


 入ってしまえば、もうこちらのもの。いつでも破壊できる。覚悟してほしい。


 たくさんの人間がいる。

 美味しそう。一年間は食事に困らないだろう。


 フフフ。

 門番のおかげで空腹を満たせそうだ。

 お礼に、苦しまないように吸いつくしてあげよう。



 ◆



 どこかの建物に入る。

 中も人間が多い。


「おーい! 姉ちゃん姉ちゃん」


「はーい」


 奥から女がやってきた。

 三つ編みにメガネ。


 ――メガネ?


 腹が立つ。


「この嬢ちゃん見てやってくれ。怪我してんだ。エアリーはいるか?」


「ここにいるぞー」


「すぐに診てくれや。魔物にやられたみてーだ。金は……ここのギルド持ちな」


「ちょっと困りますよ。って冗談です。はい、持ち場に帰って帰って」


「じゃな嬢ちゃん。安心しな、メアリー大先生にかかりゃ毒だって浄化できりゃ。なんせ王立魔法学校主席だからよ」


 イスに座らされた。彼は出ていってしまった。

 代わってふたりの女がやって来る。

 メガネはカウンター越し、もうひとりは真横に腰を落とす。


「はいちょっとごめんね。どれどれ」


 トンガリ帽子をかぶったメアリーと呼ばれた女に、身体を調べられた。

 メガネの女は、コップを置いた。


「はいどうぞ。熱いから気をつけてね」


 ウインクをされる。

 美味しそう、ふたりが。


「魔物に襲われたって言ってたけど、大丈夫なの?」


「いや……傷ひとつないよ、この子」


「へえ、さすがだね。いつの間に無詠唱覚えたの?」


「いやだから何もしてないよ。無傷だったみたい」


 トンガリ帽子に焦りの色が目立つ。

 メガネも、こっちにやって来た。


「だってあのおじさんが、血相かいて来たのよ。……君ちょっとごめんなさいね」


 また調べられる。


 ちょっと待って。

 私、さっきから子ども扱いされてない?

 何で、百年も生きていないような小娘に、そのようなことをされなければいけないのか。


 彼女の手を振りほどいて、席を立った。

 髪を払って腕組みをする。


「背が低いのは認めるけど、あなたたちとそんなに変わらないじゃない……せいぜい拳ひとつ……いえ……三つ分くらいね」


 大きかった声が徐々に小さくなってしまった。情けない。


 まあいい。

 恥をかかせた償いをさせよう。

 死によって、フフ。


 ガシャアァァァン!


 突然、物が壊れる音が響いた。

 ドアは外れてしまっていた。

 四人が現れる。


「この役立たずが! どうしてくれるんだい!」


「も、も、申し訳ございません」


「あーあ。全部無駄になっちゃったじゃないのよ」


「ホント、コイツサイテーだね」


 ふたりの顔はこわばっていく。

 メアリーが手を引っ張る。


「君は裏口から出て。案内するから」


「はなしなさい」


 もうひとりも口を開く。


「君は知らないだろうけど、あのパーティーはちょっと問題があるの」


 ここから出るのは皆殺しにしてからだ、と言おうとしたら、四人のひとりに邪魔された。


「ちょっと受付! クエストはしくじったよ! コイツのせいでね!」


 目元口元にしわの目立つ女が怒鳴った。そして謝っていた少女を、こちら側に蹴り飛ばす。


 ガシャアァァァン!


 カウンターに激突して床に倒れた。


「あっ?」


 その子は銀髪だった。私と違って、うなじの辺りまでしかない。

 頭から生えた耳はピンと立っていて、おしりからは長い尻尾が出ている。


 獣人、それも人狼というヤツか。

 育て親から聞かされたことがあったけど、実際に見るのは初めてだ。


 彼女は、鎧を着ていたから騎士だろう。

 髪と同じ銀色のそれらは、肩、胸、ひじから先と、ひざから下を守っている。

 しかしフランツと違って、こちらはかなりの薄着だった。

 小さすぎる上着と短パン。だから、おへそと太ももが丸出し。

 小さな身体に、大きなマントをはおっている。



 ……美味しそう。



 メアリーは怒鳴った。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」


「アンタと話してんじゃないよ! おい受付のド田舎女! さっさと報酬出しな!」


「シャルロットです。申し訳ございませんが、クエスト達成できてない以上、一モベロンも出せません」


 おばさんは剣を抜いた。


「ふざけんじゃないわよ! こっちは丸三日、働いてんだぞ!」


「それはそれ。これはこれです。まあ、あえて報酬と言えばクララさんに治療をすることでしょうか。メアリー」


「へっへっへ。ガッテン承知」


「止めな! そんな能無しに贅沢なことしてんじゃないよ!」


「ボランティアですよ、ボランティア。奥様」


「で、答えを聞こうかい。あたしは何百万モベロン貰えるんだい?」


「ありません」


「これで最後だよ。金を、出・し・な」


「駄目です」


 おばさんが斬りかかった。

 すると、銀髪少女が止めに入る。


「いけません――」


 ブシュッ!


 斬られて血が噴き出した。

 もったいない。


「きゃあ!」


 側にいるふたりの女が悲鳴を上げた。

 逆に中年女と仲間は楽しそうにしている。


「いっけない、ついに殺っちまった」


「あーあ、ストレス発散アイテムがダメになったー」


「今度はもっとマシなのを買おうよ」


 シャルロットが銀髪を押さえて、メアリーが杖を振るう。


「汝を締め付ける痛みよ。慈愛の女神の元、安息の光を照らせ」


 杖と銀髪は輝いた。

 メアリーは泣いている。

 シャルロットは首を振る。


「……死んでる」


「そんな……」


 中年女と若い女ふたりが笑い出す。


「さすがのエリート様も死者蘇生は使えねぇってか」


「あれは神様ぐらいすごくないと無理だよ」


「もう引退したほうがいいんじゃない。超エリートちゃん」


 周りにいた男たちが、中年女の方に文句を言う。


「うっさいんだよ! 何なら全員束になってかかってきな! Sランク冒険者のあたしに勝てる自信があるならね!」


 静かになった。


 私は、シャルロットが用意してくれたコップを持つ。すっかり冷めている。もったいないから一口飲んだ。美味しい。だから残りも飲む。


 すると喉が渇いた。

 銀髪少女に近づく。


「ちょっと君」


 内臓を骨を、ばっさり斬られていた。真っ二つにならないのが不思議だ。

 氷のように冷たい。


 ――そして。

 ――首輪だ。


 魔王城のことを思い出す。忌々(いまいま)しい。


 ペロリとなめる。


「苦っ」


 時間がたちすぎたか。

 でもなめ続ける。食べ物を粗末にしてはいけない。それに空腹は最高の調味料だ。


「ねえ君、もう止めなさいって――あれ?」


「どうしたのメアリー、あっ」


 銀髪の脈が動きだし暖かくなった。


「そんな、詠唱をしないで治療を? しかも死者蘇生?」


「き、君。いったい何者なの?」


「私は――」


「アンタ! あたしの部下になりな!」


 振り向くと、中年女は喜んでいた。より一層しわが目立つ。

 立ち上がって髪を払う。


「は? 家来にしてくださいお願いします絶世の美少女オプトゼチ様の間違いでしょ? お・ば・あ・さ・ん」

読んで頂いて、誠にありがとうございました。

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「続きが気になる」

「主人公オプトゼチはこれから何をするの?」


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