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04 女騎士は「くっ殺せ」と言った

「くっ……こ、殺せ」


 フランツは意識を取り戻した。

 私は笑みを作る。


「ええ、もちろん殺すわ。安心して」


 人差し指を唇に当てて続けた。


「でも……ゆっくり楽しませてもらうわよ、フフ」


「クソ! 悪魔め」


 指をしゃぶる。爪が伸びすぎたな。

 近づいて、フランツの首筋を触る。


「ひ、一思いに殺れ!」


 手についた血をペロリとなめた。

 自分の身体が、しぼんだ草に水をあげたように元気になっていく。


「フッフフフ、やはり美少女の血は美味しいわ」


「何だと? あっ!」


 ようやく服が破けていることに気づいたみたいだ。

 急激に顔が赤色へと変わっていく。


「ち、ち、違う! 違う! これは断じて違う!」


 両手でおおい隠す。


「とぼけなくていいのよ。女の子同士の秘密にしましょ」


「もう生きてはいけん。殺してくれ。どのみちこの傷では助からん」


 全身血塗れだ。右足がおかしな方向を向いている。


「貴様は勝ったのだ。私を殺す権利がある――って何をする!」


「動かないで」


 ズボンを脱がし、右足を触る。


「くっ」


「泣かないのね、偉いわ」


「馬鹿にするな! っておい!」


 骨折しているであろう箇所をペロリとなめた。


「きゃあ!」


「あら、ずいぶんとカワイイ声を出せるのね。さっきまでの凛々しさはどこへやら……ほら、じっとしてなさい」


「や、止めろ! きゃあ!」


 次にもう片方の脚も同じことをした。

 それも終え、視線を上げると白いパンツが目に入った。

 指でポチっと押してやる。


「きゃああああああ!」


「あら、素敵な恋人でもいたのかしら? ごめんなさいね、フフフ」


「ハァハァ……さ、さっきも言っただろう。私は戦いに生きて戦いに死すだ。異性など不要」


「恋愛を結婚前提と考えているのかしら? 真面目すぎて重いわね」


 次にお腹の傷をなめる。

 ついでに、おへそのくぼみもだ。


「ひゃっ! き、きゃあ! き、きもちい!」


 顔を見る。

 緩んでいたそれを、慌てて無表情に戻そうとした。しかし引きつっている。


 胸は無視して両方の腕をなめる。

 少しキツい香りがしたので、顔を背け手を押さえて咳をする。


「あなた……腋が臭いわよ」


「な? そんな馬鹿な!」


「そのニオイで、多くの男をたぶらかしてきたのね」


「そ、そ、そ、そんなことは絶対しない!」


「ふん。私のこと身持ちの悪い女と言ったお返しよ」


「す、すまない」


 首を触る。


「フフ、この頸動脈(けいどうみゃく)を切り裂いたら、どれだけの量の血と悲鳴が出るのかしらね? フフフ」

 

「くっ、さっさと殺せばいいだろ」


「嫌よ。それじゃ、すぐに死んでしまってつまらないじゃない」


「貴様は悪だ! 外道だ! 地獄へ堕ちろ!」


「フフ、最高の褒め言葉だわ」


 フランツの青い瞳に、やはり私は映っていなかった。

 吸血鬼は、鏡や水面に姿が現れない。だからどんな顔をしているのか分からないのだ。


 まあ彼女は、容姿をけなしたりはしなかった。


 ほんのり紅い唇に白い歯がのぞく。


 キスをした。


「んんんんん?」


「ごちそうさま。なかなか楽しめたわ」


「貴様! な? 痛くない?」


「フフ。吸血鬼の唾液にはね、回復魔法と同じ効果があるのよ。なめれば大抵の傷は癒えるわ。でもそれだけじゃ内臓は無理。だからキスで体内に送りこんであげたわ」


「くっ、私は貴様の傀儡(くぐつ)になるのか」


「どうして?」


「吸血鬼に襲われた者は、家来として永久に血肉を食らうと教わった」


 その顔はつらそうだった。


「心配はいらないわ。それは吸血した場合よ。しかも中途半端に吸い残した時ね」


「くっ」


「信じていないみたいね。好きになさい。まあ本当に傀儡になったのなら上手に使って、あ・げ・る」


 何も言わなくなった。

 木にもたれている彼女を、しばらく見つめた。


「そうね。私の命を奪えば、吸血鬼の呪いとでもいうような物から、解放できるんじゃないかしら」


 座ったまま呆気にとられている。


「殺し合いの続きをしましょう」


「うむ、そうだな。まだ負けたわけではない」


「フフ、往生際が悪いのは嫌いじゃないわ」


「真の強さを見せてやる――うわ!」


「きゃっ?」


 フランツは立ち上がろうとすると、足を滑らせた。

 私は押し倒されてしまった。


「す、すまん!」


「んんんんんんんんんんんん!!」


 早く退きなさい。

 巨大な胸に押し潰されて息ができないでしょ。


「大丈夫か?」


「あなたも大変ね。そんな物をふたつもぶら下げていたんじゃ、さぞ歩くのも辛いでしょ?」


「分かるか? 苦労が絶えんよ。男に生まれていれば、どれだけ良かったか」


 腹が立つわ。


 フランツは、木の影に置いていたカバンから、新しいさらしを取り出した。


 それをきゅっと締めると、あら不思議。あんなに出っ張っていた胸が真っ平らになりました。


「これで貴様と同じ体型だ」


「――は? 私にはちゃんと、ふくらみがあるわよ」


 できるだけ低く殺意をこめて言った。


 すると姿勢を正し頭を下げてきた。


「すまなかった。村人を殺害したのは貴様ではない。疑ったことを謝罪する」


「何を根拠にそんなこと言えるのよ」


「過程はどうであれ、貴様は私を助けた。無抵抗な者を殺めるような悪ではない」


「もっと早く来ていたら私が殺していたわ。だって邪悪な吸血鬼ですもの」


「いや……貴様からは正義を感じた」


 鳥肌が立つようなことを言われたから、殴りかかろうとした。しかし背を向けられたので止める。


「犯した罪は、受けた屈辱の数々と考えよう。しかしやはり吸血鬼を野放しにはできん。次に会ったら殺す」


「……そうね。あなたの血はとても美味しかったわ。今吸いつくしたら、つまらないわね……」



 フランツが立ち去ってから、しばらくの間、巨木にもたれかかった。

 腕組みをして、口笛を吹きながら見上げる。


 まだ空は明るい。


 結局誰も来なかった。

 だから私から探しに行く。

 どこかに集落はないか。


 そして見つけた。


 森の外に街があった。

 人間の声が多く聞こえる。


 ゴクリッ!


 まだ日は照っている。

 目的地まで光を遮る物は無かった。

 いいさ我慢しよう。


「残りの人生を楽しみなさい。夜になった時があなたたちの最後よ。フフフ」

読んで頂いて、誠にありがとうございました。

「面白い」

「続きが気になる」

「主人公オプトゼチはこれから何をするの?」


と思いましたら

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