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26 吸血鬼、泣いてしまう

「君たち、私が来たからにはもう安心だ」


「あの、ちょっと待ってください」


「おお、誰じゃか知らぬが、心強い助っ人じゃわい」


 私は髪を払って、ドラゴン娘の首を掴む。


「な、何をするか! はなさぬか!」


「それ以上来ないで。この子がどうなってもいいの?」


 男装騎士は立ち止まってくれた。

 私をさらににらみつける。


「貴様……何と卑怯な……」


「フフフ、最高の褒め言葉だわ」


 すると、隣にいたクララも続いた。


「そうです。ご主人様、最低です」


「あ、あなたね。どっちの味方なの?」


「もちろんご主人様です。ですが人質なんて悪人のすることです」


「だから私は邪悪な吸血鬼だって言ってるでしょ」


「その子を解放してはもらえませんか?」


「嫌よ」


「見損ないました」


 クララからこのように思われるのは、本来喜ばしいことのはずだ。


 だけど実際は全然嬉しくない。


 彼女の表情は、怒りの中に悲しみがあるように感じられた。


 もう永遠に手をつなげないのかもしれない。

 もう二度とキスをさせてもらえないのかもしれない。


 嫌だ。

 そんなのは絶対イヤ!


「く、クララ――」


「ふん」


 そっぽ向かれた。

 心臓をえぐられたような痛みが走る。


 ドラゴンから言われた。


「おい! 何を落ちこんでおるか! さっさと妾を放さんか」


「黙りなさい! これもこれも全部あなたの――」


 ヴァシュルルイイィィィィン!


 フランツの一撃をかわした。

 ちょっとよそ見すると、すぐ目の前まで来るんだから。


「ほら、あげるわよ」


「――!?」


「ば、バカモン!」


 二撃目を入れようとするフランツに、ドラゴンを投げ渡した。

 斬りかかるのを止めたところへ、私は回し蹴りを繰り出す。


 ヴァゴオオオォォォォォン!


 フランツはドラゴンを掴み、背中で攻撃を受けた。


 ドガガシャアアアァァァァン!


 ふたりは壁に吹っ飛ばされた。

 とどめをさそうとすると、クララが立ち塞がった。


「邪魔よ、どきなさい」


「嫌です。もうやめてください」


「安心なさい。すぐに終わるわ」


「あの人たち、別に悪い人だとは思えません」


「善人とか悪人とか、そんなのどうでもいいの。殺すかどうかは、私に気に入れられるか、入れられないか、のどちらかよ」


「だ、駄目です!」


 槍を構えられた。

 まさか、こんなに早くクララと殺し合うことになるとは。


 いつか来るとは思っていた。

 だけどそれは今日じゃない。


「獣人の娘よ。君は下がっていたまえ」


 瓦礫をどけて、フランツが立ち上がった。

 ほこりがついているだけで、傷は見えなかった。

 ドラゴンは彼女にしがみついている。


「君も離れてはくれないか。これでは戦えない」


「待ってくれ。人間のお主ではあやつは倒せん。ここは妾に任せよ」


「はっはっは。心配はいらん。私は強いからな」


 口に人差し指を当てて笑ってあげた。


「あら、頼もしい人。私にやられたこと忘れたのかしら?」


「ふん。せいぜい過去の栄光にすがっていればいいさ」


「てっきり、ゴブリンに犯されたんだとばかり思っていたわ」


「ほう、貴様が心配してくれるとはな。あいにくあの程度の連中など、半日もかからなかったよ」


「いいわ。私が代わりに辱しめてあげる」


「お、おい! それは聞き捨てならんぞ! やはり妾に任せよ」


「いいえ、わたしも加勢します」


 クララが敵に回った。


 完全に私が悪者扱いだ。

 嬉しいはずなのに、あまり嬉しくない。


「その申し出、痛み入る。しかし私は騎士だ。正々堂々一対一で戦わせてほしい」


「立派です。分かりました」


「中々骨のある男子じゃわい。気に入った」


「えーと、あの。オリビアさん、でしたっけ? どうぞわたしのそばへ」


「おう、すまんの」


「――どうした吸血鬼? 泣いているのか?」


「はあ?」


 顔を触ると、涙が流れていた。

 その瞬間、一気にあふれ出てきてしまった。


「ああ、うう、ひっく、うああああ」


 力が抜けていく。

 その場に、ひざを落とした。


「うわああん! えええんうう、わあああん!」


 まさかこの年で泣き叫ぶなんて思いもしなかった。


 気がつくと、フランツがそばまで来ていた。

 呼吸を整え、にらみつけた。


「くっ、殺しなさい!」


「断る。無抵抗の者を傷つけるなど、騎士道精神に反する」


「……バカ。勝てばいいのよ」


「ご主人様」


 クララが差しのべてくれた手を、反射的に掴んでしまった。

 彼女とはもう敵対しているはずなのに、私は甘えてしまったのだ。

 情けない。


 抱きつかれて、頭を撫でられた。


「ご主人様、大丈夫ですか?」


「何よ! あいつらの味方になったくせに」


「おふたりは、わたしたちの仲間です」


「冗談じゃないわ」


「憎まれ口を叩けるなら問題ないな。どうする、続けるか?」


「やめておくわ、今はね」


 立ち上がった。


「で、あなたはなぜここに」


「ふむ、ゴブリンの討伐を終えたあと、この山に魔王軍が現れたと聞いてな。しかし何も手がかりはなく、洞窟に入ったら出られなくなった」


「ああそうだった。オリビア、早く私たちを出しなさい」


 彼女は困った表情をしていた。


「す、すまん。さっきからやっておるのじゃが、うまくいかんのじゃ」


「じゃあ、あなたを殺せばいいのかしら?」


「ま、待て! この母体は、もう妾の支配下から抜けてしもうたようじゃ」


 彼女は奥を指差した。


「こやつの心臓を叩けば、肉体は崩壊するはずじゃ」


 私は殺意をこめてにらみつけた。

 オリビアは、両手をつき出してバタバタと振った。


「ほ、本当じゃ。ついてまいれ」

お読み頂いて、誠にありがとうございました。


面白いと思われましたら、下にある☆☆☆☆☆から、星5とブックマークをつけて頂けると大変嬉しいです。


つまらないと思われた場合でも、出来たらで構いませんので星1をつけて頂けると大変助かります。


身勝手なお願いですけど、どうぞ何とぞよろしくお願いします。

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