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25 吸血鬼と人狼、襲われる

「きゃああああ!」


「クララァァァ!」


 私たちは再び真っ逆さまになった。


 先ほどまで平らだった地面は、急斜面にそして崖へと変わったからだ。


 進む先は真っ暗で何も見えない。

 だからすごく不安だ。


「しっかり掴まってなさい」


「はい!」


 歯を食いしばり、暗黒の世界をにらみつける。

 それに光で切り裂くのは、クララの笑顔だ。


「私がオプトゼチよ! ここの支配者になる美少女の名前だ!」


 ヴァーハッハッハッハッハッハハハハハハ!


 笑い声のような風に吹き上げられた。

 おかげで体勢を立て直し、着地することができた。


 そこは明るい。

 周りは、岩が突き出ていて、でこぼこした道が続いている。

 見上げると、入り口付近は何も見えなかった。


 落ちる直前、衣類は無意識に全て回収していた。


 私たちは歩き出した。

 クララは鼻を押さえている。


「具合が悪いの?」


「いえ。ただちょっと臭いんです」


「私は平気だけど。あ、ごめんなさい。あなたは鼻がよかったわね」


 近くの岩に座った。

 それは、やわらかかった。


「きゃあ!」


 ふたり同時に悲鳴を上げた。

 岩は変形をした。まるでヘビみたいに。それも何匹も。


 私たちは、それらに拘束されてしまった。


「ご、ご主人様……」


「クララ? や、やだっ!」


 触手は、身体のあちらこちらを縛り、ぬねぬねして気持ち悪い。


「だ、だめ! 変なとこ触らないで!」


 服の隙間からヘビが入りこむ。


「ああああ!」


 恥ずかしい悲鳴を上げてしまった。

 クララは必死に耐えているようだ。

 真っ赤な顔を見ると、心臓が激しく動いた。


「やっ。ぎゃっ。ぎゃぎぃぃぃ……」


「クララ! しっかりしなさ――そこはダメ!」


 私の大切な場所を、数匹のヘビは好き勝手に暴れられた。


「……くっ」


「きゃあ! ひゃひぃぃ! はぁはぁ……あぐっ!」


「や、やだやだやだ、ダメ、だ、だめぇぇぇ!」


「……ご主人様」


 彼女は、なぜか嬉しそうな表情をしていた。

 涙を流しながら言われた。


「ご主人様の今の顔、とってもかわいいです」


「こんな時に何言ってるのよ! ――ひゃん」


 クララは荒い口呼吸をしている。


 ゴクリッ!


 よく見ると、よだれまで流れていた。

 もう一度、彼女とキスしたい。

 抱きしめたい。

 においを嗅ぎたい。


 そのためには、このヘビたちに消えてもらわなければいけない。


「ハァハァ……遊びはここまでよ!」


 息を止め、身をかがめた。

 そして、一気に吐き出す。


 私の身体から、黒い光線がいくつも現れる。

 それに当たったヘビは、溶けてしまった。


 私たちは、ようやく解放された。


「はぁはぁ」


「ハァハァ」


「ご、ご主人様。だ、大丈夫ですか?」


「ハァハァ……え、ええ。あなたこそ平気なの?」


「はい!」


 クララの笑顔は、本当に心強い。

 私は、彼女に寄り添った。


 目を閉じてくれた。

 私も続いた。


 そして……キスをする。

 互いの舌をからませる。


 身体中を、触り触られた。


 私は、彼女から離れた。


「ご主人様?」


「フフ、続きはまた後でね。のぞきは感心しないわね! 出てきなさい!」


 暗闇から一匹のドラゴンが現れた。

 今までのより、一回り大きい。


「ふん、汚ならしい。よくも妾の前でつまらぬ物を見せつけてくれたな!」


「しゃ、喋った?」


「何よ、嫉妬してるの?」


「んなわけがあるか、バカモン!」


 そして火の玉を出した。


 バシイイイインンンン!


「馬鹿な! 妾の攻撃を弾き飛ばしただと!」


「無駄よ、あなたでは私には勝てない」


 しゃがれた声が荒くなった。


「ふぉっふぉっふぉ。貴様か! 妾の使い魔を殺したのは?」


「へえ。それじゃあ、あなたが親玉ってことかしら?」


「いかにも。妾こそ三百年を生きる偉大なる龍。その名もオリビアじゃ!」


 急に楽しそうになった。

 でもそれは私も同じ。


「じゃあ、あなたを殺せばクエストは終わりね」


「愚か者が。ここは妾の腹じゃぞ」


「ええ! そうなんですか! どうしましょう。このままでは、わたしたち、オリビアさんの養分にされてしまいます」


「落ち着きなさい。フン、閉じこめられた時点でだいたい予想していたわ」


「すごいです! さすがはご主人様です!」


「ふぉっふぉっふぉ。先ほどは中々良い物を見せてもらったぞい」


 怒りが噴き出しそうになった。

 そしてオリビアに一瞬で近づいた。


「ば、馬鹿な! 何て速さじゃ!」


「あなたが遅いだけよ」


 首を掴んで、ブンブン振り回し、壁に投げつけた。

 さらに何発も殴り、爪で切り裂いた。


「ぎゃあああああああ!」


「これで終わりよ」


 はがれたうろこの部分に噛みついた。


 やはり不味い。

 でも続ける。

 吸いつくせば、私たちは外へ出られると思ったから。


「ば、バカモン! やめんか! や、や、やめてください、お願いします!」


 ドラゴンは小さくなっていった。


 ピキピキピキピキ。


 身体にひびが入った。


 パリイイイイイイイン!


 ドラゴンの身体は崩れてしまった。

 すると中から、幼い女の子が出てきた。

 角としっぽを生やしている。


「お、おのれ!」


「あら、かわいい。こっちは美味しそうね」


「ひっ!」


 彼女を掴んだ。


「ま、待て。頼む。見逃しくれ。この通りじゃ」


「嫌よ。私たちを辱しめたんだから、死んで償ってもらうわ」


「嫌じゃ! 妾はまだ死にとうない!」


「いい顔ね。たまらないわ」


「ご主人様、ゆるしてあげてください」


「ダメよ」


「誰か! 誰かおらぬか? 妾を助けてくれ!」


 無駄なあがきだ。殺しがいがある。

 しかし首筋に噛みつこうとした、その時だった。


「そこまでだ、吸血鬼!」


 懐かしい声だった。

 振り向くと、イケメン騎士が剣を抜いている。


「そんなまだ幼い子どもを襲うとは、やはり貴様はあの時、殺しておくべきだったな」


 金髪碧眼は相変わらず。

 あっちの方が、はるかに美味しそうだ。


「会いたかったわよ、フランツ」

お読み頂いて、誠にありがとうございました。


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