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私には、勇者と旅をしてきた数年がある

 勇者がとんずらして、早数ヶ月。なぜか私は『聖なる魔法を使える女勇者』として各地に噂が広まってしまっていた。そして現在、目の前に魔王からの使者が私を倒しにやって来ていた。


「勇者! 今日こそお前の最後だ!」


「……くどい。聞き飽きた。たまには他のこと言って。レパートリーを増やしてから出直してこい」


「はあ!? なに余裕ぶっこいてんだよ!」


 モンスターは私の言葉に腹を立てたのか、青筋をたてて襲いかかってくる。私はため息を吐き、指を一度だけ鳴らす。すると黒い球体が数個モンスターの回りに現れ、囲むように動く。それを見たモンスターはげらげらと馬鹿にするように笑い出した。


「なんだあ? この小さい球体は!」


「こんなんで俺らが殺れると思ってんのかよ! ウケるわあ」


 私はモンスターの言葉や笑い声など気にせず、ただ人差し指を動かし黒い球体をモンスターに当てる。


 瞬間――。


「ぐっ……! ぐ、わああああ!」


 黒い球体がモンスターを包み込む。そして球体は小さくなり、ぱんっと弾けその姿を消した。


 ……はあ。毎回毎回、よく飽きずに来るものだ。私は疲れた。それもこれも全ては、あの馬鹿のせいだ。一日も早くあの馬鹿を見つけ出してこの役目から解放されたい。それから聖なる魔法ってなんなんだ。私が使っているのは、ただの黒魔法だ。もう、尾ひれに背びれに大きな嘘がくっついて一人歩きしてしまっている。これで他の四人の選ばれし勇者に出会ったら……間違いなく気まずい雰囲気が漂うだろう。まあ、それだけならいい。ただなんの前触れもなく攻撃などされたら、ただではすまない。主に相手が。


 こう見えて彼とパーティーを組んでいた間に、私のレベルはマックスの九十九なのだ。下手したら魔王だって倒せるかもしれない。だがしかし私は魔王を倒しに行かない。


「行かないっていうか、行けないだけなんだけど……」


 つい、声に出してしまった。


 そう、行けないのだ。魔王を倒せるだけの力があったって……勇者がいないから駄目なの。


「……」


 あれは勇者がとんずらしてから数日後のこと。とんずらした勇者の代わりに、あくまで魔法使いとして魔王を討つと決め一人で向かった。そのために険しい山脈を越え、鬱蒼とした森を越え、多くのモンスターと戦い……やっとの思いでたどり着いたそこに魔王城――なんてそれらしき建物など、どこにもなかった。理由は簡単だ。主役である勇者がパーティーにいなかったからである。なので本当は起こるはずだったであろうイベントが、勇者不在のせいで起きなかったのである。その事実を知った時の私は、嵐のごとく呟き続けた。「勇者。絶対に見つける。意地でも見つける。覚悟してなさいよ」と。そしてなにより魔王城があるところまで行った私の苦労と労力を返せ。勇者の馬鹿野郎。


 ……とまあ、いろいろ思うわけだが。私の本当の目的はただ一つ。この世界を恐怖から救うため、魔王を討つこと。だから私は、必ず勇者を見つけ出しあそこへ連れて行く。


 そう、必ず――。

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