私は勇者ではない
何よりも先に、言っておかなくてはならないことがある。
それは――私が魔法使いだということだ。
このことを覚えて、引き続き私の話を聞いてほしい。
魔王が魔族を従え人間界にやって来て、早数千年。私たち人間は勇者を筆頭に魔法使いなど多種多様な職業のもと、魔王を討つため旅をしている。ここで重要なのが、勇者の数が世界で五人だけということだ。そう。勇者になれるのは、選ばれた人間だけ。そして私は、その内の一人とパーティーを組んでいるただの魔法使いである。
あ、これ大切だから。忘れちゃ駄目なやつだから。だから忘れずにちゃんと覚えておいてほしい。
「長く生きているけれど初めてだわ! 女性の勇者様に会えるのは!」
興奮したように、私の手をがっしりと握る老齢の女性。
「いや、あのっ……わた」
私の困惑した声と言葉は、女性には聞こえなかったらしい。彼女は、きゃっきゃっと他の住民たちと盛り上がっている。
……辛い。なぜこの状況になった。私は、断じて勇者ではない。ただのしがない魔法使いである。なのでそんなにもきらきらとした純粋な瞳で見ないで頂きたい。
「それじゃあ勇者様。あとは任せたぜ」
爽やかな笑みで私の肩をぽんっと叩く、一人の青年。
あ、そうだ。こうなった経緯を私は思い出したぞ。この馬鹿のせいだ。町に着いて、宿を探そうと辺りを見回していた矢先に……この男は「俺は発掘家になってくる!」と言い出し、町の中心で「きゃー! ここに女勇者様がいるわよー! きゃーきゃー!!」と言い始めた。一瞬、疲れでおかしくなったのかと思って固まったわ。まあ、すぐに違うことに気づいたけどね。だって顔がとっても楽しそうだったもの。だから勇者が本気で言ってるってわかった。
「……」
でもね……なにがきゃーきゃーだ。やめろ、やめてくれ。おまえは男だろうが。それに私が勇者になれるわけないだろう。
勇者、おまえが主役だ。間違えるな。主役が別の職業に就いてみろ。そのまま作品が主役に合わせて変わるんだよ、普通は。だけどなぜか今回は風景も人物も変化しない。つまり何が言いたいかというと、私は脇役でモブだということだ。その私に主役代理という重荷を背負わせるな。馬鹿野郎。
「あら? この勇者様、なんだか目が死んでいってるわ」
そりゃあ目が死んでいってしまいますよ。突然、本物の勇者に意味のわからないことを叫ばれたんだよ。そしてその声と言葉に引き寄せられるようにやって来たあなた方住民に囲まれ続けているんだぞ、私は。それに本物の勇者がにやにやともにまにまとも言える、何とも腹立たしい顔で私を見ているんだ。目が死んでいくのは仕方ないだろう。
私は、何度でも言う。
私は、勇者ではない。魔法使いだ――。
「あの、みなさん! 勇者様は長旅、そしてモンスターたちと戦い続けて疲れているんです! 休ませて頂けませんか?」
おいこら。勇者。お前、人の口を塞いで勝手なことを言うんじゃない。
「んー! んんっ!」
「静かに。バレるだろ」
本当のことを知ってもらうために、話そうと必死になってるんだよ。それより誰も私の口が塞がれていることに突っ込みはなしですか。
……ああ、そうですか。よくあるご都合主義的なシステムが働いているわけですか。なるほどなるほど。なんて納得するかあああああ。この大馬鹿。離せ、離すんだ。
「うっ! ふむふふふ!! ふー!」
「まあ、大変! 勇者様の疲れがピークだわ!」
「それは大変だ! ぜひ私の宿へどうぞ! ほら、みんな! 勇者様のお通りだぞ!!」
「わたしたちがつれてくー!!」
「つれてくー!」
勇者の言葉に宿屋を営んでいるらしいおじさんが反応し、おじさんの子供らしい小さな子たちが私の手を掴み宿へ案内するために歩き出した。それに合わせ、勇者が私から離れる。
「あとは頼んだぜ。魔法使い」
勇者はそう私の耳元で囁き、人混みに紛れてとんずらしやがった。
あの野郎、次会ったときは覚えておけよ。




