後編
翌朝ーー
昨晩は、遥が『別れのスキル』を発動させてくれたおかげで、ブスどもと別々の部屋で眠ることができた。
ゆっくり眠れたこともあって、俺は素晴らしい作戦を思いついていた。
「遥、出会いのスキルを発動させて、魔王に会わせてくれ。リンを1秒でも早く助けたいんだ」
「わかりました。魔王がやって来る出会いのスキルを発動します!」
遥がそう言って、スキルを発動すると、上空からビュッと、リンが降り立った。
「リ、リーン!」
俺に恐れをなして、魔王はリンを解放して逃げたのか? 俺はリンのもとに駆け寄り、強く抱きしめる。
「裏切り者め!」
リンが俺を突き飛ばす。
「リ、リン? どうしたんだ?」
「テンくんが、リン以外の女と楽しそうにしているから、女神ルナに連れ来るように命じたのよ。リンの『服従と反逆のスキル』を使って」
「それで、今はリンさんが魔王になってしまったのですか?」
遥がとんでもないことを言い出す。
「遥、何をバカなことを言っているんだ。リンが魔王になるわけないだろ」
「テン様、お言葉ですが、リンさんの頭から生えている立派な2本の角。もともとのビジュアルと合わさり十分、魔王に見えます」
本当だ。リンの頭から魔王らしい角が生えている。
リンに会えた喜びが爆発して気づかなかった。
「フフフッ。そうよ、今はリンが魔王なの。『反逆のスキル』を発動させて、モンスターたちに魔王を倒させたのよ」
「そんな。誰よりも心優しかったリンが魔王になるなんて」
「リンを裏切ったテンくんが悪いのよ。それに、リンは本当は心優しくないわ。ブスだから、せめて人に好かれるために良い人を演じていただけよ」
「でも、私たちはリンさんのおかげで命を助けられました。心から感謝しています」
遥がそう言うと、楓と渚とスカーレットも頷く。
「だったら、命の恩人であるリンに攻撃なんてできないわよね?」
「それとこれは別だわ。リンさんが魔王なら、手加減なしで戦わせていただきますわ」
楓がきっぱりと言う。
「な、なんですって! 命の恩人を相手になんてことを……」
予想外の展開に、リンがうろたえる。
「魔王は倒されるプログラムのほうがやはり美しいです。私も戦いを挑みます」
と渚が言えば、
「もちろんワテも戦うぞ。殺し屋の血がさっきからうずいている」
とスカーレットも言う。
「おのれ、『服従のスキル』を発動してくれるわ!」
リンの瞳がピカッと光る。
「アハハハハッ。これで、お前たちはリンのしもべよ」
リンが高らかに笑う。
「残念でした。とっくに私が『自由のスキル』を発動していたので、リンさんの『服従のスキル』は効きません」
渚がそう言って笑みを浮かべる。
「今度はこっちの番ですわ。『ストレスのスキル』を発動しまーす!」
楓がスキルを発動すると、
「ワテは『蓄積のスキル』を発動するぞ!」
とスカーレットが連携プレイを見せる。
ストレスが急激に蓄積してしまったリンが、ドサッと座り込む。
「どうせ、リンみたいなブスには良いことなんてないのよ」
とボソボソと言う。
どうやら、鬱状態になってしまったようだ。
「リン! 今助けるからな! 『再生のスキル』を発動!」
すると、リンの壊れた心が修復される。
「危ない、危ない。リンとしたことが負けてしまうところでした。服従のスキルが効かないのなら、『反逆のスキル』を発動してやる!」
リンがスキルを発動すると、
「楓さんに、魔王を助ける『宿題のスキル』を発動します」
と渚が言い、さらには、
「ワテは楓に『排除のスキル』を発動するぞ」
とスカーレットも、楓にスキルを発動する。
「アハハハハッ。『自由のスキル』を発動してもらっていて、かえって好都合だわ。反逆の自由が与えられて、効果覿面ね」
「私、リンさんに喜ばれるために、モンスターたちに『ストレスのスキル』を発動して、いつも以上に暴れさせてきまーす!」
楓は猛ダッシュで村から出て行ってしまう。
「リンどうしてこんなことを……」
「だから、これが本当のリンなんだってば」
「そうじゃなくて、リンが『反逆のスキル』を発動させたから、俺はリンを攻撃しないといけないじゃないか……」
「えっ、テンくん、ちょっと待って!」
俺はリンに、サヨナラと手を振り、
「チクショウ! 『破壊のスキル』を発動すればいいんだろ!」
とリンに向かって拳を向けた。
リンは跡形もなく消え去った。
「はい、俺、最強ー!」
リンの『反逆のスキル』が消えると、一気に悲しみに襲われる。
「リーーーン!」
悲しみにくれる俺を遥が抱きしめる。
「どうして助けてくれなかったんだよ。遥が『別れのスキル』を発動させて、リンを遠ざけてくれたら良かったのに」
「私もリンさんみたいに、テン様から愛されたくなってしまいました。ごめんなさい。それに、テン様には『再生のスキル』もありますから、テン様自身でリンさんを助けることができます」
そうだった! 恋人を破壊したショックで忘れていた。俺には『再生のスキル』があるではないか!
すると、女神ルナが姿を現し、
「みなさんのスキルを回収しますねー。魔王を倒してくれてありがとう。これで、“邪”もなくなり、この世界の住人たちが愛に怯えることもなくなります」
と俺たちに与えたスキルを回収してしまう。
そして、モンスターたちに追われて、楓が猛ダッシュで戻って来た。
俺は村人から剣を奪うと、モンスターたちを一瞬で切り刻む。
「はい、俺、最強ー!」
スキルなどなくても俺は強い。
魔王だったリンを倒し、この異世界を支配する覇者となったのだから。
そして、覇者になって気づいたことがあった。
リンははっきり言って超絶ブスだった。
それに比べてここにいる、遥、楓、渚、スカーレットの巨乳4人組は絶世の美女だ。
「遥、楓、渚、スカーレット。お前たちを、俺の妃にしてやる」
「はい!」
4人同時に俺に抱きつく。巨乳で圧迫されて苦しくなるが、幸せな苦しみだ。
今晩は眠れそうもないな。
B専で損していた分を、一晩で取り戻してやるぜっ!