千年も万年も
こうして、私たちの世界の<神>は死んだ。
だけど私もドゥケも、その事実を誰にも伝えなかった。
だって、<善神バーディナム>の存在を心の支えにしてる人はこの世界にはたくさんいるから。バーディナムが死んだなんて言ったところで、ほとんどの人は信じないだろうし、もし下手に信じてしまったら、パニックになるかもしれなかったから。
それに、バーディナムが死んでも、世界にはそんなに大きな変化はなかった。
当然か。<バーディナムの加護>って、結局はほとんど魔王と戦う時にしか関係のないものだったし。
つくづく思う。バーディナムって、魔王って、一体、何だったんだろう。
正直言って、私には分からない。ドゥケにも、神妖精族たちにも分からないそうだし。
ただ、カッセルが言ってた。
「バーディナムは、かつてこの世界を支配していた種族の末裔で、僕たち人間がそれにとって代わろうとしたことに嫉妬して自らを<神>と称して君臨しようとしただけの哀れな怪物だよ」
って。
それが本当かどうかは私には分からない。ただ、『そうかもしれないな』とは思った。たとえそうだとしても、何もおかしくないなって。
「カッセル…バーディナムが死んで、私たちはこれからどうしたらいいの? 私たちは生きていけるの……?」
問い掛けた私に、彼は、「ふ…」と柔らかく微笑んで、
「今までと同じだよ。僕たちは別に、完全にバーディナムに生かされてたわけじゃない。自分たちの足で歩いて、自分たちの力でこれからも生きて行けばいいだけだよ。バーディナムがこの世界を本当に支配できていたのは、はるか昔のことだから」
と諭すように言った。
「あなたは、これからどうするの…?」
再度問い掛けた私に対しては、カッセルは背中を向けてふりむこともなく<ティタニア>の方に向かって歩いていきながら呟くように応える。
「僕も彼女ももうゆっくり休みたいんだ。生半可なことでは死ぬことも許されずに生き続けるのにはもう疲れたんだよ」
「生き続けるって……?」
「君たちにもいずれ分るよ。ドラゴンクラスの相手か、魔王と戦うくらいしか死ぬ方法のない僕たちの人生がどんなものかっていうのもね……
僕は千年生きた…人間にとっての千年がどれほどのものか、君たちもこれから存分に味わうがいい」
「千…年……!?」
カッセルがどうしてあんなにいろんなことを知ってたのか、分かった気がした。
そうだね。千年も生きてたら、いろんなことも分かってくるよね。
最後にカッセルは、
「君は素敵な女性だよ。だからほんの少しだけ心が揺らいでしまった。ティタニアに詫びを入れなくちゃ。これから万年は二人きりで過ごすとしよう」
と、振り向かずに手をあげながらそう言ったんだ。
膝をつき、差し出した手にカッセルを乗せ、ティタニアはそれをとても大事そうに胸に抱えて体を丸めて地面に伏せた。するとその体がたちまち緑に覆われ、見る間に小さな<山>になったのだった。




