アンドロイド
私たちは、ある世界に来ていた。そこはとても近代的で、私がいた地球よりも遥かに高性能なもので溢れかえっていた。びゅんびゅんと風を切り走行しているのは、地球にあった車に似ているものだった。でもずっとシャープな形をしていて、何よりも物凄いスピードを出しているのに、どの車も衝突していないのが凄かった。
建物もずっと近代的で、それは空さえも包むほどに高かった。落下してきそうだと不安にもなったが、この近代的な街でそれはないだろうとすぐに安堵した。
歩いていると、あることに気がついた。皆、妙に綺麗だ。なんというか、人間味のない人たちなんだ。肌は皆透き通るように白くて、目はぱっちり開いていて、色も青くて綺麗だ。髪もさらさらしていて、皆茶髪に染めている。
「現在大流行中のブラウンヘアは、簡単に変更することができます」
ふと、そんなアナウンスが流れ、見上げると、大きなパネルに、またもや同じような若い女性が、にっこり微笑みながら“かつら”の宣伝をしていた。
みんなかつらなんだろうか。にしても、おかしい。
老人だとかが一切見当たらない。赤ちゃんもいない。子供はいたが、背の低い、フリルでお人形のように着飾っているような、違和感のある子供ばかりだった。
それに男も著しく少ない。おかしい。何かがおかしい。
そう思いながら、私はシーヴァの袖を掴み、不審気味に宿へ向かった。
***
宿にいたのもやっぱり少女だった。薄ピンクの髪をした、張り付いたような笑顔で応答する彼女に、私はやはり不信感を抱く。
「何泊のご予定でしょうか?」
「み……」
シーヴァがそう言いかけたところで、私の視線に感づいたのか、
「一日で」
そう訂正した。
夜、私は寝転がりながら、武器の整備をするシーヴァに思い切って聞いてみる。
「なんか、この世界おかしくない?」
「そうだろうか」
「だって若い女の子ばっかだよ!?」
「そう変でもないだろう。今まで一世界に一人間しか住んでいないという事例もあったのだからな」
むしろ大人数のほうが退屈せずに済むだろう? 梔子と同い年が多いから、話も合うだろうし。そんな親父臭いことを言われたら、私はこの部屋にいたたまれなくなってしまうじゃないか。
「どこへ行く」
「便所だよ、おっさん」
***
暗い廊下を歩いていると、人間がいた。よく見ると私達が受付をしてもらっていた、あの薄ピンクの髪をした女の子だった。でも様子がおかしい。体の周りにおかしな白いものが浮遊している。私の不信感が最高潮に達したところで、目があった。
「あ」
「ひっ」
刹那、白いものが床へはらりと落ちる。私は逃げ出そうとする。
「あっ、待ってください!」
「えっ」
待てと言われて待つものがあるかー!と言うべきところだと思うのだが、私は立ち止まった。
“声”が昼とは全く違う。あの無機質な声ではなく、人間味のある、感情のこもった、抑揚のある声だ。
「あ、あの、人間の方……なんですか?」
「え、あ、ま、まあ、人間やらせて貰ってますけど」
「えっ! 本当ですか!? じゃあ式神って知ってますか!?」
「式神って……紙みたいなのを操るやつだよね?」
「そうです! さっき私が操ってたのも式神なんです!」
そう言うと、彼女のまわりではらはらと散った式神が起き上がり、彼女めがけてゆっくりと集まっていく。そして先ほどのように彼女のまわりを包み込む。
「えへへ、私、陰陽術好きなんです」
「へぇ、凄いね」
「……おかしいですよね、人間じゃない、AIなのに」
「え……えー……あい?」
「はい。AIです」
彼女から話を聞いた。
この世界には元々、俗にいう“クローン”が住んでいた。しかし爆発的な科学の進歩で、クローンの生活に科学が身近になる。すると、もっと美しくなりたいと思うクローンが現れた。自分はかわいい女の子になりたいと思うクローンが現れた。死にたくないというクローンが現れた。
そこで科学者たちが思いついたのが、最先端アンドロイドに脳を移植するという方法だった。これで全てが叶った。かわいくも、性さえもまたぎ、不死身になれる。
世界中が歓喜に包まれた。しかしアンドロイドには致命的なミスがあった。脳が眠っている間、アンドロイド本体の意思が目覚め、働くらしい。しかしアンドロイドの身体は疲れを感じることを知らず、それに気づかない。
「私、脳に凄く迷惑してるんです」
だから明日、皆で夜、お互いの脳みそを抜き取ろうって、街中のアンドロイドたちと話していたんです。
あなたが明日行ってしまうと聞いて安心しました。きっと脳が目覚めて、悲鳴でいっぱいになるでしょうから。
寝る前にこんな話をしてしまってごめんなさい。お部屋までお送りしますわ。
「お、帰ってきたか」
「シーヴァ」
「何だ」
「おしっこいけなくなった」
***
宿を出る。薄ピンクの少女とシーヴァが話をしている。無機質な瞳。無機質な口調。
シーヴァよりもずっとロボットっぽいな、と思いながら、私たちはこの世界をあとにする。
宿を出る時、振り向くと薄ピンクの少女がうっすら笑っていた――気がする。
「……ねえ、もし私が超絶美人になってたらどうする? 頭は相変わらずでさ」
「お前はそのままの方が可愛い」
シーヴァの無骨な手が、私の平凡な頭を撫でる。




