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路地裏にはいつも面倒事が転がっている模様です

毎度のことながらとろとろ更新です。感想・誤字脱字などありましたらお願いいたします。

今回はちょっと今までより長め&流血表現ありです。苦手な方ご注意ください。



 

 

 それから一か月。

 早い。本当に早いものだ。


 

 ドルトナンド家ではお嬢様を中心に何かが起ころうとしている。今までにない変革といったところか。

 それを語り出すときりがないのでやめておくが、これから面倒なことになるのは必至だ。


 

 ただ、それでもあの店の菓子が・・・その、癖になってしまったのは認めるしかない。

 こんなにも忙しい、というのに、なんとか時間を見つけては通ってしまっている。

 ドルトナンド本家でのあの事件は思い出したくない。お嬢様の目の前であの女と口論。

 ばらされなかったのはいいものの、自分の甘党が知られればそれをネタにお嬢様に更なる逃亡を許してしまう気がする。甘いものを餌にいいように扱われてしまう気がする。だから切実にばれてほしくない。


 ・・・菓子は嫌いではないのだ。ただし彼女は自分としては否。そこは変わらない。


 

 今日も店に行こうとその足を動かしている。トゥーランドは薬草を買ってかえる帰りであった。

 ドルトナンド家御用達のきまぐれ薬師は、国々の密林をめぐりあるき薬草を集めてくる。それが今日は王都にきているということで自分の顔合わせも兼ねて、トゥーランド自ら出てきたのだ。









 

 

 

 

 

 トゥーランドは今日も少し不機嫌に、ただ滲みだす期待を隠しきれずに路地裏を歩いていた。

 やはり変わらず汚い道。

 来る度に自分が少し片づけているにも関わらず!と彼は顔を顰めた。

 が、この界隈の店主たちが、なぜか定期的に荷物が丁寧に重ねあげられることを不気味がっている事を知る由もない。

 今日も今日とて道端に転がる木箱を拾い、別の木箱の上に重ねた。

 こうして王都路地裏七不思議は今日も更新された。

 ちなみに後の六個については不明である。



 

 

 ぱん、と手についたほこりをはたき、さぁいくかと彼が顔を上げたとき。


 

 がしゃん!


 

 ガラス物の割れる音が響いた。


 


 


 路地裏だ。

 それは痴話喧嘩なり怪しい取り立てなりあるだろう。それには首を突っ込まないのが得策だ。


 

 しかしなぜかその時は胸騒ぎがした。

 だから彼は珍しく、その足を前に進めたのだ。



 

 

「―――!―――っ!」



 

 誰かの言い争う声だ。声の種類からして男か。



 

「うる―――!あんた――ぅ!」



 

 っ!

 こ、の声。

 少し語尾が粘っこい特殊なしゃべり方。

 



 

 なぜか視界が一気に真っ赤になった気がした。

 はっはっと自分の呼吸音が急に大きくなる。

 駆け足でいつもの道を進んでいくが、なぜが遠く感じる。焦っていたからか荷物に躓いたが、なんとか立て直して最後の角を曲がった。




 

 

 そこにいたのは、やはり彼女だった。

 いつものようにエプロンをつけたままで、腕を組んで店の前で仁王立ちしている。しかしいつもと違うのは、周りを二人の男たちに囲まれていることだ。

 店を守る様にして立つ彼女の瞳は燃えるように煌き、周りの男たちを威嚇している。

 彼女の視線が、一瞬自分にとまり―ほんの僅かに目を見開く。


 

 

 しかし直ぐに彼女は視線をそらし、まるでトゥーランドを見なかったかのように周りの男たちを見据えた。


 


 

 思考が、とまった。



 

 なぜです。



 

 なぜ、わたしをみていながら。

 



 わたしに。

 



 まるでトゥーランドは縫いつけられたかのようにそこから動けなかった。先程動いた足は、嘘のように固まっていた。

 思考することすらできず、ただ視線をうけることを期待するかのように彼女を見つめていた。

 自分でも訳がわからないまま。




 

 

 

 そんな彼をほっておいたまま、事態は進んでいく。

 彼女は真ん中の男を睨みつけ、声をあげる。


 

「だから、今は店の時間じゃないし、その仕事は受けない。帰って頂戴!」

「なにいってんだよ!前の仕事の報酬弾んでやったろうが!」

「前は前よ!それにあの仕事なら妥当な報酬だったわ!」

「ナマいってんじゃねぇよ、調子のってんじゃねぇ!ここで剥いてやってもいいんだぞっ黒猫っ!」


 

 がっと男が彼女の腕をつかみ、体を引っ張り上げた。


 

 彼女の細い体が、男に引き寄せられてー


 

 自分がしっかりと覚えているのはそこまでだ。


 

 彼女が自分を無視したことか。

 男の言葉にか。

 それとも、彼女が危険だったからか。


 

 主以外には無関心だったはずなのにー


 

 一瞬だけそう思ったが、すぐに脳内は怒りで染め上げられた。

 ばさり、と薬草のはいった袋が落ちた音を聞いたか聞かずかのうちに彼は駆け出した。

 音を聞いて振り返った手前の男を無視して、彼女を掴んだままの男に向かっていく。

 右手を引き、勢いに任せて男の顔にぶち込んだ。


 

「ぶっ・・・く!」


 

 拳の下で鼻の骨が折れる感触。

 振り向きかけた男は彼女を掴んだままで利き手を使うことができず、もろに正面からトゥーランドの拳を受け止めることになった。ぐらりと傾いた男の腕から彼女が滑り落ちるのを素早く抱きかかえる。

 あっけにとられていた手前の男が正気を取り戻し、拳を振り上げた。トゥーランドは右手でファルナールを抱えたまま、体を捻り男の拳を寸でで避ける。

 咳きこむファルナールから手を離し、ちっと舌打ちして再び拳を振り上げた男の腕をつかんだ。そのままぐるりと体を回転させ背負い投げる。


 

「ぐ、うわっ!」


 

 ずどん!とレンガ造の道に男は叩きつけられ、背骨が嫌な音をたてた。そのまま掴んだ手首を逆に捻りあげると、嫌な音とともに男が絶叫した。

 腰にさした剣を抜かせないための処置だ、悪く思うな。

 足元で男が手首を押えて声を上げ続ける。背骨に相当なダメージを負って転がることもかなわぬようだ。

 そんな男の醜悪な姿を冷たく見据えて、トゥーランドが立ち上がる。

 と同時に背筋を駆け上がった悪寒に従って体を右に逸らした。その瞬間に頬を撫でるナイフ。


 

「・・・鼻を折っただけでは足りませんでしたか」

「てめぇ・・・ふざけてんじゃねぇぞ」

「ふざけているのはどっちですか。女性に対して」


 

 トゥーランドの言葉を聞いて、ぼたぼたと鼻から血を流す男がはっと笑った。


 

「お前、その女が何か分かって言ってんのか?騎士道精神ってやつならお呼びじゃねぇよ。ただな・・・ここまでされて帰しはしねぇけどなっ!!」


 

 言葉と同時に男はナイフを振り回す。


 

「っ!」


 

 相手がナイフをもっているとしても、とトゥーランドは身を屈めた。

 しかし迎撃態勢に入った彼に、向かおうとしていた男の動きが急に止まった。


 

「?!」

「っぐぁ・・・?!」

 



 茫然と自分の脇腹を見る男。

 そこに刺さるのは男のそれよりも細い短剣。

 はぁはぁと息を荒げるファルナールが、短剣を投げたままの姿勢でそこにいた。

 トゥーランドはいたるところから血を流す男に、今度こそダウンの一撃をお見舞いした。

 






 

 

「この男たち、当分起きないでしょう。私が自衛団に引き渡しておきます」


 

 トゥーランドが男たちを縛る間、ファルナールはその場に気難しい顔のまま立っていた。

 仕事を終えたトゥーランドは、立ち上がり、振り向く。

 その顔には抑えきれない怒気が籠っていた。

 ファルナールでさえ、その眉をぴくりと揺らし、その顔色をどことなく悪くするほどに。



 

 

「何をしているんです・・・」

「・・・」

「あんなのに囲まれて・・・。しかもなぜ私がいるのに気づいていながら」

 



 

 そこでトゥーランドは言葉を飲み込んだ。

 そのまま彼女の腕をぐい、と引っ張る。



 

「っう!」

「やはり怪我をしているんですね、直ぐに手当てを」

「っ離しなさい!」



 

 痛む腕だというのにそれを引っ張るファルナールの顔は、痛みからか歪んでいた。

 その顔を見た途端、トゥーランドの怒りが爆発した。



 

 

「虚勢をはってる場合ではないでしょうが!!」


 

「っ?!」


 

「貴女女性です!自分の身を大切になさい!」


 

 言い返そうとしてか彼女は口を開いた。

 しかしはっとしたように眼を見開くと、やや茫然としていたが、僅かに苦笑を零した。


 

「・・・全く」

「なんですか」

「なんでもないわ、・・・なんでも」

「・・・とにかく治療しましょう、すぐに」

「分かってるわ。逃げたりしないからこの手、話してもらえる?」



 

 

 いつもの間延びした口調でなく、彼女は微苦笑していた。








 


ありがとうございました!


本編がさくさく進まない今日この頃。

こちらの話、大丈夫でしょうか。時系列的には本編超えちゃったよ。

あとこれはファンタジーじゃないなーとか思ったので今更ジャンル変更いたしました。



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