第139話:雨に唄えば
「あらー。降ってきたね」
というかソレを分かっているからデートにモールを選んだのだが。さすがに地下まで広がるモールに雨は降らないだろう。さっきからマキノとデート中。俺はタイトで体のラインが出ているマキノのエロファッションにデレデレしながらバカップル同然にデートしていた。マキノもそれを分かっているのだろう。俺におっぱいを押し付けて、俺の二の腕を刺激している。とは言っても朝三暮四の朝三回は既にさっきのレディファイトで消費しているし、俺が理性を失うことは無いわけだが。アレで一回。アレで一回。で、アレで一回。計三回。数字と帳尻は合っている。
「アクヤ。これエモくない?」
で、マキノが来たのはファッションショップ。トレンドの服装を選んでいた。プレプロ所属のグラビアアイドルなのでファッションにも当然気を使う。マキノだって動画を撮っているし、不動ミヨほどバズってはいないが、インフルエンサーとしての影響力は大きい。特に不動ミヨの最初の発見者ということでアズキちゃんを称えるネット民は多い。初期の頃はアズキのSNSで不動ミヨチャンネルに導線を作ったからな。
「ねぇ~え? この服買って?」
「いいぞ」
自分でも買えるが、俺の男を立てるために俺にオネダリする。その機微をマキノも身に着けたらしい。俺にしてみれば嬉しいことだ。女子に服を奢るのはちょっと憧れていた。まぁ今日が初めてってわけでもないんだが。
「どうせだから着替えるか?」
「そだねー。今着たい気分」
っていうか今着ている服がタイトすぎてエロさムンムンなので、爽やかな今買っている服の方がまだしもおとなしめだ。
「アクヤはどっちが好き?」
「新しく買った方だな」
「超嘘つき~♡」
畜生。バレてやがる。
「でも、この服も可愛いし。着替えてくるね。ちょっと待ってて」
「さっさーい」
ヒラヒラと手を振る。試着室で着替えて、値段の札だけとってカードで精算。俺は服を購入した。
「次は何を見よっか?」
「宝石とか良いんじゃないか?」
「指輪プレゼントしてくれるの?」
「いや? ネックレス」
「じゃああーしの好きな宝石は……」
んー、と唇に人差し指を当てて考え込むマキノに。
「小比類巻さん……ッ!」
誰とも知っている声がかかった。平凡が平凡を呼ぶような抑揚のない声。
「おや、えーと」
マキノもその人物を知っているらしいが、名前が出てこないらしい。
「山田くんだ」
「そうそう山田くんだ! あーしはちゃんとわかっていたよー」
うんうん、と空気を読むように頷くマキノに、
「人公だ! 人公アルシ!」
他称山田くん。自称人公は、自分の名前をそう呼んだ。もちろん俺は知っていたが、まぁ揶揄っただけ。
「九王。何してる? こんなところで?」
「デート」
三文字で終わった。別に他に言うこともないし。
「小比類巻さん。コイツは最低な奴だよ。離れた方がいい」
「無理っしょ」
「何故?」
「あーしがアクヤを好きだから♡」
「そいつは女と見れば見境なく手を出す奴だよ?」
「うん。知ってるっしょ」
知るな。カホルとコヲリとホムラとマキノ以外には手を出しとらんわ。四人もいる時点でどうよという話ではあるが。
「だからその女の一人に数えらえるのがとっても光栄なんだよねー」
「男が欲しいならボクがいるよ?」
「ナニのサイズは何センチ?」
「え?」
「ちなみにアクヤはぁ……」
「言うな」
俺はマキノの口をふさぐ。それは個人情報だ。
「そんな……ッ。九王と?」
「してるわけないだろ。高校生だぞ」
虚言は時に美徳となる。
「えー、アクヤ酷ーい。あーしはいつでもいいんだよ?」
「というわけで、じゃあな」
「九王……お前ッ!」
「マキノの妄言なら気にしない方がいいぞ。」
心の安寧のためならな。
「小比類巻さん。ボクは君の写真集買ったよ?」
「ありがとー。一冊でも売れると嬉しいな」
「もっと買ってもいいよ?」
「じゃあお願いね?」
「だからさ。ボクと……」
「それは無理~♪ あーしはアクヤに夢中だから♪」
「九王。そこをどけ」
「何言ってるかさっぱりだな」
「お前の妄言も聞き飽きたよ。道を譲れ……蛮勇王」
「ソレで譲ってくれると思っているのが度し難いんだが」
「アクヤ~♡ それより~♡」
マキノ。お前も自重しろ。他の男の前で俺の女ムーブをしたいのはわかるが。きっと世界中に自慢したいのだろう。自分が九王アクヤの女であると。俺もその意志は尊重するが、実際にやられると社会的に、その、な?
「じゃあまたね♪ 山田くん♪」
おそらく故意に間違ったのだろう。それだけのことを人公はしている。今更ヒロインを譲れと言われても、俺としても快諾は出来ないわけで。
「そんな奴の何がいいんだよ!」
「お金持ってるとこかなー」
身も蓋も無いな。もちろん本心じゃないことを俺は知っている。金目当ての軽い女を演出して、人公を失望させたいのだろう。それが正解かどうかはわからないが、そうすることがマキノの防衛手段であることはわかる。
「だからね。アクヤ。いいことしようね♪」
さっきしただろ。
「じゃねー。山田くん。また学校でー」
そうして俺たちはデートを再開した。
「えへへー。あーしアクヤの女空気感出せた?」
「バッチリではあったが……後が怖いな」
「そこはほら。アクヤが何とかするっしょ?」
「否定も難しいが……」
そんなわけで人公には買った写真集で執行執行してもらうとして。俺はマキノの実体を使わせてもらおう。どうせ暮れになったら充填されるし。マジで俺が転生する前の九王ってどうしていたんだ?
「摩訶不思議だなー」




