第135話:崩壊のちょっと前
【人公アルシ視点】
「わかんねー……」
夏休み。さすがに成績表を見て危機感を抱いていたボクは課題に取り組んでいた。ただ何を書いてあるのかさっぱりわからない。特に物理と数学があり得ない。せめて日本語で書いてくれ。
「クソ! こういう時にカホルがいるべきだろうか……」
そのカホルも最近は九王と一緒にいることが多いし。ボクのカホルだぞ。誰にも渡す気はない。カホルだけがボクの全てだ。
「そうだ。カホルに教えて貰おう」
そうだ。それがいい。カホルなら頭いいし。ボクに優しく勉強を教えてくれるだろう。
『カホル。ちょっといい?』
SNSでカホルにコンタクトをとる。こういう時のためにカホルだろ。
『何か?』
『勉強教えてくれない?』
『お断りします』
なんでだよ! ボクが勉強で困ってるんだぞ? 助けるのが幼馴染じゃねーの?
『お詫びに今度デートしてあげるから』
『謹んでごめんなさい』
だからなんでだよ。チラリと浮かぶのは九王の顔。まさか、ね。いくら九王でもボクのカホルに手を出すとは考えにくい。大丈夫……だよな?
『お願いします。カホル様。お礼はしますので』
『とは言われても』
いいから。ボクに勉強を教えてくれ。
『このままだとボクは課題出来ないんだけど』
『自業自得じゃないかな?』
『だから心を入れ替えて……』
『ああ、そういうの間に合ってるんで』
ボクが間に合ってねーんだよ! わかれ! それくらい!
『デートしてあげるからさ』
『冗談じゃないです』
クソがーっ! カホルがこんなに非情な人間だなんて思わなかったよ!
「クソ! 止め! ゲームするか!」
ネトゲの世界ではボクは求められている。ボクは必要な人間なんだ。きっとみんな待ってる。そうして現実逃避気味にボクはネトゲにのめり込んだ。ボクに挨拶を周回を提案してくるギルドメンバーにボクも快諾する。そうして次の日の朝までゲームに没頭するのだった。
*****
【九王アクヤ視点】
「ふう」
そうして課題への取り組みが一段落。さて、どうしてくれよう。
「アクヤ様。コーヒーは要りますか?」
カホルがニコッと微笑んでくる。
「緑茶を頼む」
なので俺もリクエストする。コーヒーよりお茶の気分だ。いつものマンション。いつもの部屋。いつもの勉強。
「では淹れてきますね」
ルンとカホルがキッチンに出向く。俺もそれを追いかけた。コヲリは仕事だしホムラは寝こけている。ちなみに今日はマキノはいない。
「勉強も面白いですね」
「だなー。やればやるほど成果がついてくるっていいよな」
「アクヤ様はそうやって頭良くなったんですか?」
「否定も難しい」
実際にその側面もある。緑茶を飲んでホッと一息。
「アクヤ様ってやっぱり国立首都大学に……」
「今のところはなー」
別に大学に行ったからどうのでもないんだけど。どうせなら行ってみたいじゃん。大学。
「カホルは何処の大学狙ってるの?」
「一応。アクヤ様と同じところを。さすがに医学部は無理ですけど」
「じゃあ一緒のキャンパスに行けたらいいね」
「はい。真剣に。そう思います」
「じゃあ勉強しなきゃ」
「教えてくださいますか?」
「そりゃね。何でも聞いて」
緑茶を飲みながら俺はそう言う。カホルがいい大学に行くというのはボクにとってもとても嬉しいことだ。カホルって結局親の会社に入るんだろうか? 九王グループが出資しているから別に間違った選択とも思わないんだけど。
「アクヤ様の機嫌次第では、私の家族は会社を追われますしね」
それは……まぁそうだが。
「だから私はアクヤ様を誰より恐れているんですよ」
不条理なことをするつもりはないんだけど。ソレを言っても意味がないということはわかっても。でもなぁ。たしかに株式はこっちが握っているから何を言ってもカホルには心の安寧には繋がらないんだろうけど。ままならないなぁ。
*****
【花崎カホル視点】
『カホル。ちょっといい?』
SNSでアルシから連絡が来た。迷惑だから止めてほしいんだけど。
『何か?』
『勉強教えてくれない?』
『お断りします』
どうせ成績表が最悪だったとかそんなオチだろう。まともに授業も聞いていないと、夏休みの課題も満足に解けない。
『お詫びに今度デートしてあげるから』
『謹んでごめんなさい』
夏休みはアクヤ様とデートするという最高に楽しみな予定が詰まっている。アルシに割く時間はない。
『お願いします。カホル様。お礼はしますので』
『とは言われても』
アルシから何を引き出せるだろう。近過去であの一件もあるし。正直な話迷惑以外の何者でもない。
『このままだとボクは課題出来ないんだけど』
『自業自得じゃないかな?』
『だから心を入れ替えて……』
『ああ、そういうの間に合ってるんで』
都合のいいことを並べ立てて、今更助けてくださいはないんだよ。
『デートしてあげるからさ』
『冗談じゃないです』
とはいえだ。このままアルシに付き纏われるのも、それはそれで。とするとどこかで分からせないといけないのかもしれない。そんな場面に遭遇するのはなかなか難しいんだけど。意図的に作るならアリか?
「とするとー」
色々と考える。
「でもまずはアクヤ様と花火大会だよー」
浴衣は何着ていこうかな。アクヤ様だったら、何を着ても褒めてくれそうだけど。
「カホル~。勉強しようぜー」
アクヤ様が訪ねてくる。夏休みの模試に向けて準備は万端にしておきたいのだろう。三年生の範囲は私もフォローしているけど、理解度で言えばアクヤ様が一段上。一段どころじゃないけど。でも勉強するのは賛成だ。私も聞きたいところあったし。




