第130話:永遠の敗北者
【人公アルシ視点】
バカにしやがってぇぇぇ!
「アクヤくん。この前の模試だけどさー」
「……アクヤさん。……次の仕事ですけど」
「21についてなんだけどー」
「ほら。もうすぐあーしの写真集がさぁ」
昼休み。カホルとコヲリ、ホムラと小比類巻さんは九王にべったりだった。あんな奴に何を期待しているんだ。金持ちのボンボンの何もできないダメ人間だろうが。ちょっと金持ってるからって、ソレをひけらかして女を誘うとかプライドもないのか。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
同じ意見は男子生徒が全員抱いているようだったが、昨日の一件があるから手を出せないのだろう。少なくともここで九王を殴れば四人の美少女が擁護に回る。間違いなく政治的に不利。そこまでわかって手を出すバカもいない。結果、九王は調子に乗ってカホルたちとイチャイチャ。あーやだやだ。空気を読めない奴はこれだから。
『カホル。話があるんだけど』
ボクはSNSでカホルにメッセージを送る。だがスマホをポケットに入れているはずのカホルは取り出そうともしない。メッセージそのものに興味がないのか。九王と談笑していた。そんな奴よりボクの方がカホルを思っている。そもそもコヲリとホムラを侍らせているだけで軽蔑の対象だろ? カホルも目を覚ませよ。
『そんな浮気男相手にしても捨てられるだけだぞ?』
既読がつかない。明らかに学食で浮いている九王たち。そりゃ男一人のアルケイデス学園の美少女四人が揃い踏みだと注目も集まるだろう。どこだ? どこで間違った? ボクはちゃんとカホルたちを想っていたはずだ。本来あそこにいるべきはボクのはずだ。少なくともカホルはボクを想っていなければならない。
「九王!」
飯を食べ終えて。それからボクは九王を呼ぶ。
「何か?」
「ちょっと面貸せ」
「いや」
二文字で終わった。
「いいから面貸せ!」
「いや」
こいつはぁぁぁ! 空気読めないにもほどがあるだろ!
「カホル。こんな空気読めない奴の何がいいんだ?」
「顔?」
「おい」
身も蓋もないことを言ってカホルがとぼけ、ジト目で九王がツッコむ。
「ちょっとイケてるってだけだろ? 学内での話だろうが」
井の中の蛙だ。
「でもここ学内だし。学校の中でイケメンって言ったらアクヤくんだしねー」
「……わかります。……アクヤさんはカッコいい」
「だよねー。さすがお姉ちゃん分かってる」
「アクヤー。あーしも大好きだからね?」
だからコイツ等の節穴アイは何を見ているんだよ一体。
「いいから来い! 九王!」
「だから嫌だって」
「ビビってんのか?」
「何に?」
キョトンととぼけるように九王は言った。
「ボクの存在にビビってんだろ? 素直にそう言えよ」
「こういう逸話がある」
牡蠣五目あんかけ焼きそばを食べながら、九王は言った。
「とある二人が孔明に議論を挑んだ。だがその論じ方は孔明の弟子をして呆れかえるしかない稚拙な論じ方だった。さてどう切り返すのか。そう思った弟子たちの前で、孔明は二人の舌鋒を認めてあっさりと負けを認めた。気分よく二人が帰った後に弟子が何故反論しなかったのかと聞くと、孔明曰く――」
ズビビーとあんかけ焼きそばを食べる九王。
「――ああいうバカどもは相手にせずあしらうのが正解なんだよ、と」
そしてまたズビビーとあんかけ焼きそばをすする九王。
「…………」
言われた意味を解釈して、脳内で検分。そして意味を理解すると、ボクの脳は沸騰した。
「ボクがバカだって言いたいのか!」
「あ、それくらいの理解はあるのな」
「人を馬鹿にするのもいい加減に……ッッッ!」
「だから議論の価値が無いんだって。せめてもうちょっと生産性のあることを話すなら付き合ってもいい。お前のくだらない嫉妬に付き合うくらいならイリーガルを承知で公園のハトにエサをやった方が気が紛れる」
「バカの相手って疲れるよねー」
「……アクヤさんも大変ですね」
「ねぇ。それよりアクヤくん。今度のことだけどさー」
「あーしもマネージメントについて聞きたいんだけど」
もう美少女四人は九王以外が見えていなかった。バカどもだ。バカどもの巣窟だ。九王がお前らを対等に見ているわけないだろ。身体だけ狙って捨てる男だぞ? ボクは違う。四人を心から愛してやれるのに。
「「「「ねぇ。アクヤ(くん)♪」」」」
「ちょーいといいかね九王?」
で、ボクが絶句していると、今度は別の男子が九王を呼んだ。
「おう。何だ?」
ボクは相手にしなかったくせに、別の男子は相手にするらしい。そういうところもムカつくというか空気読めてないよな。
「どうやったらアルケイデス学園の四天王墜とせるんだ! コツを教えてください!」
「そうだな。まずはインドの山奥で修行するんだな」
「そしてディーヴァダッタに認められればいいんだな?」
「その通りだ」
「わかった! 今からパスポートとってくる!」
「頑張れよ~」
ヒラヒラと手を振る九王だった。
「わかったか? こういうのが省エネって奴だ」
「お前はあんな奴とボクを同列に扱ってるのか!」
「いや。差異はあるぞ?」
だろうなぁ。
「お前の方がよほど価値がない」
はぁ? 今何つった? 本気で殺されたいの? ボクも手加減しないぞ?
「殺すぞ?」
「『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだよ。いいかッ! 俺が笑ってんのはな。てめーの『心の弱さ』なんだ人公! オメーは『ママッ子』なんだよ人公! ビビったんだ……甘ったれてんだ! わかるか? え? 俺の言ってる事?」
「だからソレがバカにしてんだろうが!」
「うーん。兄貴の様にはいかないな」
何の話だよ。
「ま、コソコソと教室に戻って俺への不満をブツブツ呟いててくれ。殴ったら生徒指導室行きだぞ?」
「そんなことをボクが恐れるとでも……」
「思ってるぞ?」
どうせ何もできないだろう。そう九王は信じて疑っていなかった。他の四人を見ると、示し合わせた様にクスクスと笑ってる。ボクの何がおかしい!? 何もしてないだろ!?




