第125話:入滅
【二條ホムラ視点】
「それじゃあねー。無明のみなさーん。大日如来の加護があらんことを。高評価とチャンネル登録も忘れちゃダメだぞ!?」
そうして配信を切る。
「ルン♪」
あたしが配信作業を終えると、仕事部屋に綾女先輩が突撃してきた。
「ミヨちゃーん! 今日もよかったよ~!」
テシッとその綾女先輩の額を押さえて、ハグを禁止する。
「はー。ミヨちゃん素敵♡ 人類の宝♡ 日本政府はミヨちゃんに国家予算を振り分けるべき」
そんなことしたら国難になると思うんだけどどうよ。
「これからお姉さんとお茶しない? ミヨちゃんもお疲れでしょ?」
「変なことはしませんよね?」
「グヘヘヘ。しませんとも」
じゃあなんでグヘヘヘって言ったんだ?
「奢ってあげるからー。ね?」
まぁ先輩にお茶に誘われて断るのも角が立つと言えばその通りかも。
「…………ボソボソ(アクヤ様に会いたいな)」
早く帰ってアクヤ様に抱かれたい。もうこの身体はアクヤ様のモノだから。
「何でも頼んでいいからね?」
で、21プロの近くにある喫茶店であたしは綾女先輩とお茶をすることに。
「最近何かいいことでもあった?」
「いいこと……と言いますと?」
「配信が喜びに満ちてるよ? チャンネル登録者数も激増してるし」
「21プロのプロデュースのおかげでは?」
「うーん。なんというか。そう言うのとは違うんだよねー」
まぁいいことはあったけど。アクヤ様に抱いてもらえた。そのことがとっても嬉しい。アクヤ様さえ許せば、カホルに貰った淫紋タトゥーシールも毎日張りたいくらいだ。ああ、もうあたしは完全にアクヤ様にイカレている。
「ちょっとわかるんだよね。恋とかしてる?」
「まぁそりゃ真っ当な程度には」
Vキューバーもアイドルっぽい仕事だから恋愛をほのめかすのは良くないけど、顔は晒していないのですっぱ抜かれることはない。
「いいなぁ。ミヨちゃんに想われて。私はその人が羨ましい」
「ご精進なさってください」
注文したアイスティーを飲んで、オレンジパイにフォークを指す。
「もしかしてあのマネージャー?」
「ええ」
いまさら隠す意味もないだろう。
「確かにイケメンだったけど……」
「真摯な紳士でもありますよ」
「むー。私のミヨちゃんなのに」
「スーチャしてませんよね?」
「シテナイヨー」
「先輩。まさか」
「本当にしていません。していいならするけど」
ムスッとして綾女先輩は何処か悔しそう。そこまで浮動ミヨにスーチャしたいのか。
「これからもおっさん特攻で行くの?」
「まぁ不動ミヨのカラーってもうそれですから」
最近は懐かしい昔のゲームの曲とか歌っている。それがまたおっさん世代には大人気で。
「オリ曲もまた歌おうね。お姉さんと」
「その時はぜひ」
「レッドアーカイブの収録も終わったんだよね?」
「はい。一応。ただお姉ちゃんが……」
「神が?」
神て。たしかに不動ミヨのママであるコヲリお姉ちゃんは創造神にも等しいだろうけど。
「しかも可愛いミヨちゃんと同じ容姿なんだよ? もう神じゃん」
双子の姉妹だしねー。
「21プロも不動ミヨの新衣装を愛スール先生に発注するとかなんとか」
「まぁそうなるでしょうね」
アイスティーを飲む。オレンジパイをサクリ。
「あのマネージャーさん。大好きなの?」
「超好き。大好き。とても好き」
「ま。悔しいわ。ミヨちゃんにそこまで言わせるなんて」
「なわけで、あたしはマネージャーにぞっこんなわけです」
「いいなぁ」
あたしに愛されて? それともあたしを愛して?
「でもネットじゃアヤフドが沸騰しているし?」
綾女テイル×不動ミヨはたしかに百合オタのネタになっている。とにかく綾女先輩があたしのことを好きすぎるので、なんだか話がややこしいことに。
「ガチじゃないですよね?」
「さて、どうでしょう?」
「入滅してください」
「即身仏はちょっとなぁ」
「マジであたしの何がいいんですか?」
「声と歌。後は可愛さ」
「綾女先輩も可愛いじゃないですかー」
「私よりミヨちゃんがもーっと可愛いの。ペロペロしたいくらい可愛いの」
「はあ」
相槌だけ打って、あたしはオレンジパイをサクサク食べた。
「やっぱ百合営業って大事だよねー」
「営業だったんですね」
「ううん。私の場合はガチ。愛してるよ。ミヨちゃん?」
「謹んでごめんなさい」
「うーん。フラれちゃったかぁ」
「お茶。ご馳走様でした」
「次は愛スール先生も連れてきてくれると」
「本人に許諾が取れたら連絡します」
そうしてあたしは駅まで行って電車に乗る。時間が夜の九時半。さすがにちょっと遅すぎるか。そう思ってマンション近くの駅で降りて、タクシーに乗る。とにかく尾行防止と言うことで駅からマンションまで帰るのはタクシーを厳命されていた。
「ただいまー」
で、網膜認証でアクヤ様の部屋に上がり、そのままダイニングへ。誰もいなかったので、アクヤ様に会いたくて寝室へ。
「…………」←アクヤ様
「…………」←コヲリお姉ちゃん
「…………」←あたし
三人の沈黙が降りた。アクヤ様はたくましいお身体をさらけ出していて。そのアクヤ様に奉仕しているコヲリお姉ちゃん。で、それを目撃したあたし。
「あー……」
言葉を探して、だが有効な言葉も見つからず。
「失礼しました」
スッとあたしは引いた。
「待って待って! ホムラちゃん!」
「いえ。お楽しみのところ邪魔して申し訳ないぞ」
「そうだ。ホムラちゃんも一緒に御奉仕しない?」
「えーと。それは。姉妹丼?」
「イエスアイドゥー!」
コヲリお姉ちゃんはキラキラした瞳をしていた。まぁ確かにそれもありっちゃありか。




