第121話:一ヶ月だけ幸せでいたいなら結婚しろ
【人公アルシ視点】
「なん……で……一千万円なんて大金……」
もう意味不明にもほどがある。高卒で年俸一千万円。そんなにボクが稼げるわけもなく。今はショッピングモールの帰り道。ボクがコヲリに告白して、そして言われた言葉がソレだった。高卒で働いて、毎年一千万円稼げ、と。
「じょ、ジョークだよな?」
「……私と結婚するなら……それくらい稼がないと地獄を見ますよ?」
「えと……なんで?」
「……二條家は膨大な借金を抱えているんです」
「は?」
二條家が借金? そんなこと嘘だろ? そもそも聞いた覚えもない。
「……他家に事情なんて話すわけないじゃないですか」
まぁそれは。
「あ、わかった。ボクを試しているんだろう? ドン引きさせてそれでもボクが愛を貫けるか試しているんだろ?」
「……いえ、……本気で借金の返済に協力してもらいます。……なんなら私の両親に聞いてもいいですよ」
「そんな……いや……」
それだと矛盾することがある。
「一人暮らししているだろ! コヲリも! それからホムラも!」
「……そっちのお金はカホルちゃんの御両親のお金です。……どうも羽振りがいいらしく。……お金は出すから娘と助け合ってくれないかと」
そ……れは……。
「……まず結婚したら……財産は共有されるので二條家の借金は人公家の借金にもなります。……土地と家屋を売ってもらいます。……アルシくんの親御さんの貯金から借金の返済に充ててもらいます。……それでも足りない分はアルシくんが稼いでください」
「ちなみに借金って……いくらくらい?」
「……元本が(※自重)円で、……利子が(※特秘)パーセントですから。……だいたい年利が一千万円くらいですね。……なのでアルシくんが一千万円稼いでも全部借金の返済に消えます。……年俸一千万円の貧乏暮らしですけど、いいですよね?」
「ふざ……ふざ……ッ! ふざけるな! そんなこと認めるわけないだろ!」
「……でもこれが二條家の事情です。……私と一緒に地獄を見てくれますか?」
「できるか!」
そんなふざけたことにボクを巻き込むな。ボクはコヲリと幸せな家庭を築きたいんだ。借金地獄に足をツッコむほど馬鹿じゃない。
「……アルシくん。……私を助けてください。……一緒に借金を返済してください」
「嫌に決まっているだろうが!」
そうしてボクは走り去っていた。嘘だ! 嘘だ! 二條家が膨大な借金を抱えているなんて。そんなことあるわけない。ボクはそのまま電車に乗って家へ帰る。ご近所の二條家に顔を出し、コヲリから聞いたことを確認する。本当に二條家は膨大な借金を抱えているのか。
「ああ、本当だよ」
コヲリとホムラの両親はあっさりとそのことを認めた。
「なん……で……?」
「まぁ色々あるんだよ。だから借金は膨れ上がるばかり。そろそろこの家も売ろうか迷っているくらいだから」
二條のおじさんはゲッソリとした顔でそんなことを言った。そこに嘘はない。頭がクラクラしてきた。マジでコヲリとホムラの家には膨大な借金があるらしい。
「じゃあコヲリがバイトしてるのって……」
「少しでも借金を返すためだね」
クソ。クソ。事故物件じゃないか。ホムラもコヲリも。
「言い辛い事情を聴いてすみませんでした」
「いや、構わないよ。人公くんはコヲリをどう思っているんだい?」
「幼馴染ですね」
「そっかー。じゃあ人公くんと財産を共有するわけにもいかないわけだ」
その膨大な借金を人公家にも返済義務を押し付けようなんてふてぇ精神だ。
「あ、じゃ、これで」
コヲリから逃げ出して、そのままボクは疲れた体を自宅のベッドに放り投げた。コヲリと恋人になれると思っていた。けれどコヲリは借金地獄で。結婚すればその借金は人公の家とも共有される。ウチの親はそこそこ稼いでいるけど、それでも数千万の借金をポンと出せるほど大金持ちでもない。
「ないな。ない」
もし本当にコヲリの言うことが正しいのなら、こっちが返済義務を請け負う必要もない。
「ふざけてるよなー。借金地獄にボクを巻き込もうなんて」
ちょっとボクを舐め過ぎっていうか。コヲリにしろホムラにしろ。借金なんてボクが返すわけないじゃないか。そんな義理も無いし。
「じゃあボクがアプローチするのは」
花崎カホルだけ。コヲリもカホルの親の会社は羽振りがいいって言ってたし。ということは一緒の大学行ってキャンパスライフを謳歌するしかない。カホルにはちょっと大学を妥協して貰って。一緒に大学生活を謳歌してもらおうな。この際コヲリとホムラについては忘れよう。あんな借金地獄にボクが付き合う義理も無いし。
「それにカホルが一番おっぱい大きいしな」
ホムラは貧乳。コヲリはそこそこあるけど、ボクとしては物足りない。やっぱりカホルの爆乳だろ。ボクに最もふさわしいのはカホルってことだから。
「とするとカホルと仲良くしないとな」
カホルが羽振りがいいなら、結婚すべきはカホルとだろ? 借金を抱えている二條姉妹じゃなくてさ。
『カホル。今度デートしねぇ?』
『勉強が忙しいので無理だよー』
あっさりとSNSで断られた。
『なんでだよ。デートする時間くらいあるだろ』
『犯されそうだし』
だーかーらー、それはだなぁ。いい加減しつこいぞ。こっちも確かにそう言う打算はあったけど、それも巡り巡ればカホルのせい。ボクと手を繋がなかったカホルのせいだ。
『全国模試もあるし』
「またそれかよ」
口で呟いて、面白くなく吐き捨てる。
「カホルっておっぱい大きいよなぁ。あんなに大きければ」
ゴクリと、唾を呑む。その、挟んでくれたり? チューチュー吸わせてくれたり? やべ。捗るわー。月末は小比類巻さんの写真集が出るし。あのエッチボディを拝めるなら買うしかねえ。やっぱり時代は爆乳だよ。おっぱいこそが正義。しかも小比類巻さんと違ってカホルは頭もいいし。どっちが格上かって言ったらカホルだろ。ぷぷ。小比類巻さんよりカホルの方が格上なんだよなー。小比類巻さんに好きって言われている九王は可哀想だけど、ボクの方が持ってるんだよなー。
『じゃあ全国模試が終わったらデートしような』
『お断りします』
『だからなんでだよ!』
『自分の胸に聞いてください』
男の胸に何を聞けってんだ。
「ちっ。くそ。どいつもこいつも」
ホムラとコヲリは事故物件で、カホルは勉強に忙しい。なんか最近幼馴染との距離が開いているような。とは言っても三人とも他の男の誘いなんて………ホムラは受けているか。そうだ。ボクがカホルと結婚して、親の会社に資金援助をしてもらえばいいんじゃないか? そうしたら二條家の借金も返済出来てコヲリとホムラはボクを見直して、惚れ直してくれる。四人とも幸せになれるんだ。なら徹底的にカホルを落とさないと。彼女の親の会社から資金援助を受ければ、ボクはコヲリとホムラを救える。そうしてみんなでハッピーエンドだ。それしか道はない。っていうかそのためにカホルは存在するんだろ? ボクのバラ色の未来のために。




