第120話:年俸一千万円
【人公アルシ視点】
っしゃあ! 今日はコヲリとのデートの日。やっぱこれだよ。コヲリと幼馴染のボクだからできる特権だよ。マジで持ってるな。ボク。庵宿区の駅へと急ぐ。ここからモールに行って、コヲリとの仲を縮めるぞ。そう思って駅につく。見えたのは可愛らしい格好をしたコヲリ。今日は気合を入れてきたのだろう。その心意気だけでボクは嬉しい。
「コヲリ!」
「……アルシくん」
で、二人そろった。
「きょ、今日の服……可愛いな?」
「……ありがとうございます」
はにかむコヲリ。どうやら言葉選びは間違っていなかったらしい。ああ、可愛いなぁ。コヲリは。
「じゃ、行くか。モールでいいんだろ?」
「……ええ。……そう言う予定でしたしね」
そうして二人、庵宿区の駅からバスに乗る。モールまではまぁまぁの時間がかかる。
「ところでだが。一人暮らしは大丈夫なのか?」
「……今のところは問題ありませんが」
「困ったことがあれば言えよ」
「…………ボソボソ(アルシくんには言われたくないんですが)」
何か言ったか?
「……いえ。……何も」
そんなわけで、コヲリと一緒にモールにつく。
「最初は何を見て回る? まだスイーツバイキングって感じでもないだろ?」
「……そうですね。……アクセサリーでも見て回りませんか?」
「じゃあそうするか。買いたいものがあったら言っていいからな?」
その……指輪……とか?
「……では遠慮なく」
そう言いつつ、モールの店を見て回る。お目当てのアクセサリーショップもあったが、コヲリは何も買わなかった。
「遠慮しなくていいんだぞ?」
「……遠慮はしていませんよ?」
ただ買う気が無いらしい。ボクも貯金下ろしてきたし、今日は覚悟していたのだが。
「楽しいな」
「……そう……ですね」
ちょっと三点リーダーが気になるけど。コヲリが楽しんでくれているなら何よりだ。
「コヲリって何のバイトしてんの?」
「……あまり人に言えないことを」
「それって……」
「……いえ、……イリーガルなことではないですよ? ……ただちょっと」
恥ずかしい事。となると何だろう? 別にボクはそれで軽蔑したりしないのだが。
「コヲリも辛かったボクを頼れよな」
「……その時は頼りにさせてもらいます」
ニコッとコヲリは笑んだ。ボクは気恥ずかしくなって顔をそむける。
「そうだ。スイーツバイキングいかないか? 今ならちょうどいい時間だろ?」
「……そうですね。……お腹もすきましたし。……ご飯代わりはちょっと気が引けますけど……たまにはいいでしょう」
コヲリも賛成らしい。そうしてスイーツバイキングに出向く。支払いはボク。そうしてスイーツを堪能する。パクパクとケーキを食べて幸せそうなコヲリを見て、ボクも嬉しくなる。
「なぁ、コヲリ……」
後は断崖絶壁から落ちるだけ。今日はここまでしたんだし。ワンチャンボクにも嬉しいことがあってもいいだろ?
「コヲリってボクの事、どう思ってる?」
「……アルシくん……ですか?」
「そう。ボクのこと」
「……幼馴染ですね」
「あー……」
いや、そういうことではなく。そういうことかもしれないけど。たしかに幼馴染なんだけど。天然か? ガチで言ってる?
「……何か?」
「いや、何でもない」
疲労して、ボクはケーキをパクつく。しばらくスイーツを楽しんだ。
「ふぃ」
そうして代金は前払いなので支払っていて、そのままモールを出る。さすがに土曜日だけあって人混みでゴチャゴチャしている。コヲリとはぐれちゃいけない。そう思って手を握ろうとするが、あっさりそれは躱された。
「コヲリ?」
「……なんですか?」
悪意のないハテナ顔。ボクへの理解が出来ていないらしい。ちょっと手を握るくらい良くないか? 幼馴染なんだろ?
「その。コヲリってさ」
「……えと、……はい」
「ガチでボクの事どう思ってる?」
「……それは……つまり……えーと」
誤魔化されはしない。ガチで告白している。ボクの顔は真っ赤だ。コヲリは困ったような顔だった。まさかボクが一歩踏み込んでくるとは思っていないような。
「……ガチで……ですか?」
「ガチで、だ」
いまさら取返しも付かない。ボクはそんなところまで踏み込んでしまったのだ。
「……まぁいい人だとは思いますけど」
「いい人、で終わりか?」
「……その……私は」
「ダメか?」
ダメなはずない。コヲリは今まで男子の告白はすべて断ってきた。つまり他に好きな人がいるということ。じゃあソレがボクだということは明白で。
「……ダメではないですけど」
「好きだ。コヲリ。ボクと付き合ってくれ」
「……では、……結婚してくれますか?」
「け、結婚?」
いきなり話が飛んだな。
「結婚って……あの結婚?」
「……多分その結婚です」
「なんで?」
話が意味不明過ぎて、頭が混乱している。
「……私の家庭の問題です」
二條さんの家が? なんだって?
「……ですから高校を卒業したら、……大学に行かずに働いてください」
「高卒で?」
「……はい。……出来れば年俸一千万円以上稼いでくださると嬉しいです」
「いっせ!!??」
年俸一千万円? 高卒で? 無茶苦茶言うなよ! 無理に決まってんだろ!
「……でもそれくらい稼がないとやってられませんよ?」
「なん……で?」
もうボクにはコヲリが何を言っているのかもわからなくなっていた。こんな金の権化のような女の子じゃなかったはずだ。今日はボクが奢るって言っておいたし、甘えてくれるのは嬉しい。でもそれはデートの時だけで、普通は違うだろ? なんでボクに一千万円も稼げって無茶を言ってくるのか? ボクはそのことをこれから知ることになる。




