第五十四話 新たな仲間
誤字報告受け付けております。よろしくお願いいたします。
ガイア女神がとんでもないことを言い出した。
「だから、プロックスと【名付けの契約】をしてくれないかな?」
押し売りみたいにプロックスを押し付けないで欲しい。
「私、シルフリードと【名付けの契約】をしているし、それに、二人も名付けの契約をしたら、私、魔力の消費が早くなるし、マナの減りも前より早くなる。それにプロックスが、私の氷と光の魔力をどう使いこなすのか……。そもそも相性が悪くないですか? それに、互いに精神と魂が繋がって、感情が同化するんですよ? プロックスと感情を同化させるなんて……想像できません」
《俺は、断固反対だ。プロックスがセレーナを憎らしく思えば、セレーナの心にダイレクトに伝わる。ただでさえ、繊細な性格を持ち合わせているのに、酷い言葉で奴がセレーナを傷つけたら、俺は許せない》
「とうとうシルフリードが、奴って言っちゃった」
ヘルメスがふふっと笑った。
「芹奈、とりあえず、ちょっとこちらへいらっしゃい」
ガイア女神の声に私はビクンとした。おずおずとガイア女神の前に来た。
「今から貴方に特別なマナ(魂エネルギー)を渡します。これは、わたくしからのお詫びの印みたいなものかしらね」
身長の高いガイア女神は膝を曲げ屈んだ。そして、陶器のような肌をした手を前に出すと、私の胸に手を当てた。
「私のマナを貴方のマナになじませるわ。異質なものを入れるから、最初は馴染ませるようにゆっくり注入するわね」
私は目を閉じた。
ガイア女神の手が温かい。例えて言うなら、じんわり何かが体に染み込んでいく。それは、例えようもない、気のようなもの。元々ある私のマナと合流すると、私の体が薄っすらオレンジに色づいた。
「芹奈のマナが20%しかないわ。私がその80パーセントを補充してあげる」
じわじわと温かな気が、器の中に投入していくような感覚が分かる。
「ん~~。これだと、すぐ枯渇しちゃうわね。少し容量を大きくしましょうか」
ガイア女神は、両手の親指と人差し指で私の胸に、大きな四角を描いた。すると、なぜか胃酸が込み上げて来て、吐き気をもよおした。
「ごめんなさい。もう少しだから、我慢してね」
再び、ガイア女神が手のひらを胸に当てた。
すると、またガイア様の気が注入されていく。大きくなった器にさらにどんどんマナが増えていく。薄っすら光っていた私はもっと発光が強くなった。まるで、人型ランプのようだ。
「セレーナちゃん、表情が分からないぐらい、オレンジ色になっているよ。すげ~~」
「ふふ、明かり代わりに部屋に飾ろうかな?」
(ヘルメスさん、冗談はやめてください)
「だいたい、八割ぐらい入ったかしらね。そろそろ止めましょうか」
ガイア様は、手を離した。その途端、オレンジ色に光っていたのが、じんわりと弱くなり、元の体に戻った。
「あなたの魂は十五歳だから、魂に対して、上限ぎりぎりまで、マナの器を広げてから、マナを注入することができたわ。以前の2.3倍はあるわよ。これで、無限の魔力と大量のマナでなんとか両立できるかな。できれば、一度マナを極力減らす練習をして、自分のマナの量をきっちり把握することも大事だわ。マナを自発的に自由に動かすのは、普通の人では無理だけど、でも残量の感覚は訓練次第で把握できるはずだから、ぜひやってみて。役立つから」
「あの、マナはなぜ、魔力みたいに無限にはできないのでしょうか?」
ガイア様は、私の問いにふふふと笑って頭を撫でた。
「もし、マナが無限にあったら、どうなるか分かる?」
「いいえ、見当もつきません」
「マナ(魂エネルギー)が無限だったら、元気がありあまりすぎて、魔法がバンバン出るかもね。でも、体が活発過ぎて、常に動きたくなる。夜も眠れなくなるわよ。食べた分だけ、筋肉は付くけど、体を動かした分、消費も激しい。激しく消費をすれば、活性酸素も溜まりやすくなり、老化が早くなる。それが何年も続くと、早すぎる代謝回転で、心臓に負担をかけ、しまいには本来の寿命の半分で亡くなるでしょうね。過分な付与は身を亡ぼすのよ」
(そうだよね、過分な付与は身を滅ぼすよね。ただ今自分の魔力で凍結して生死を彷徨っているものね)
私が深く頷いたせいで、ガイア女神の先生スイッチが入った。
「この世界で生きている人間のマナ(魂エネルギー)の大半は、魔力臓器の働きを活発にさせるためにあるの。魔力臓器の中で属性遺伝子細胞が魔素を吸収し、一斉に魔力を分泌させる。その魔力が魔力腺を通るとき、魔力腺の表皮孔腺から、体内を活性化させる物質が最適に分泌される。魔力腺は体中に張り巡らされているから、血流を良くし、水分の通りを良くしたり、消化酵素の分泌を促し、消化吸収を良くする。蠕動運動を促したり、新陳代謝に正しく働きかけ、免疫力を上げ、体の老廃物と過度の活性酸素の処理を促す」
スラスラと話すガイア女神に、私たちは目が点になった。
「まあ簡単にいうと、体全体の機能を上手に引き上げているのが、魔力臓器と魔力腺の役目なの。安定した魔力がある人は風邪を引きにくいし、長生きしやすい。魔力の弱い人は活性化する物質の分泌が弱いため、抵抗力も弱く病にかかりやすい。魔素の星に住む人間たちは長い年月かけて体内の進化を遂げ、生き延びているのよ」
参った。ガイア先生の話がものすごく長すぎる。でも、マナがありすぎるのも問題だという事だけは分かった。ほどほどが一番長生きするということも。
「え〜と、私、魔力が多いけど、長生きできますか?」
「魔力は意識的に流動できるから、勝手に大量に出過ぎるということはないわ。あなたは、魔力の調整の練習はした方が良いわね。無駄のない魔力を心がけるの。そうすれば、魔力が多くても、長生きできるわ。ただ、あなたの魔力臓器が最強だということは覚えておいてね。まず、魔力が枯渇することはないわ」
「ガイア様、講座はこの辺でいいのでは? みんな待ちくたびれています」
ヘルメスが声をかけた。
ふと振り向くと、そこにシルフリードが立っていた。
「よう、話は終ったか?」
ミントグリーンの髪が風でさらりと揺らめき、空色の綺麗な瞳がこちらをじっと見つめている。村人のような恰好をしているが、私にはとても、キラキラ輝いて見えるのはなぜだろうか?
いつもと変わらない笑顔のシルフリードがそこにいた。
「やばい……」
「なにが、やばいんだよ」
「……だって、久しぶりな感じがするから」
「そんなわけないだろ? 俺の姿が見えなくなったのが、長く感じたのか?」
「……こんなとき、セレーナなら抱っこ要求するのに」
シルフリードの耳が赤くなった。
「……じゃあ、ハグする?」
「ううん、止めとく。でも、手は繋いでもいいかな?」
シルフリードは、芹奈の前までくると、片手を差し出した。私は姿を現したシルフリードにほっとして、手をぎゅっと握りしめた。……ちゃんと温かい。
どうしよう。こんな時に、ドキドキしてきた。手を自分の頬に当ててみる。体中から湯気が出そうだ。
「うわぁ〜〜、なんだよ、なんだよ、面白くないな~~!!! 俺、ショックだよぉ〜〜」
リュークが馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに叫んだ。
「だったら、雪の中に埋まって。頭冷やしてな」
ヘルメスが、リュークの脇腹を掴んでは、新雪の中へバックドロップを決めた。
それを見ていた5人の大精霊達から拍手が沸き起こった。
「さて、これぐらいにして、次は、この2人の処罰を下しましょう」
ガイア女神がその場を仕切ると、自分が手にしている光の剣をふわりと杖へ戻した。そして、杖を天に掲げ、声を張り上げた。
「プロックスとスコティオス。あなた方は下級精霊からやり直しなさい」
杖の先から眩い光の糸のようなものが見えた。その光る糸は、プロックスの体に巻き付いた。スコティオスも同様だ。光の糸がどんどん太くなり、光の縄に変化した。すると、プロックスの体から赤い粒子が、大量に漏れ出し、ふわりと宙に浮かんだ。
スコティオスは黒い粒子だ。大量に溢れ出している。2つの粒子は、やがて魔力玉のように丸く凝縮し始めた。野球ボールほどの大きさになった2つの玉がガイア女神の手の中へ引き寄せられた。
「大精霊解除、下級精霊へ降格」
高らかに声を上げると、二つの玉がバリバリバリと砕け散った。
すると、プロックスの大きな体はどんどん小さくなり、手のひらサイズの真っ赤な精霊になってしまった。スコティオスも同じく小さくて黒い精霊へと変化した。
「あ~あ、とうとう小さくなっちまったか」
ブロンテ様の声が聞こえた。苦楽を共にした仲間の末路だ。残念に思うのは仕方がない。
小さくなったプロックスはイグニスという名前に変わってしまった。闇の精霊はクロムという名前に。二人ともさすがに動揺したのか、ブンブンと飛び回る。
「あの、セレーナ。こんなことを言って、申し訳ないのだけど、この二人と【命の契約】をしてくれないかしら」
「シルフリード……どうする?」
《名付けの契約よりは、まだましか。それに悪魔に対抗するには多い方がいいからな。仕方ないよな》
****
―――数十分後……
私は、火と闇の精霊に【命の契約】をすることに成功した。でも、下級精霊に降格したはずの二人は、私と契約することで中級精霊へと昇格していた。
「不思議ね~、なんであなたと契約すると中級精霊になるのかしら?」
物知りのガイア女神ですら、首を傾げている。
五人の大精霊も、不思議そうに2人の精霊を取り囲み、珍しいものでも見るように、じっと凝視をしていた。
赤と黒が混ざったくせっ毛の強いロングヘアーの男の子。見た目年齢13歳。夕日色の瞳をしており、凛々しい赤い眉毛、目元には舞妓さんのような赤いメイクが付いていた。片耳には短冊のようなピアスをして、二の腕には炎の紋章が光っている。この子の名前は、火の中級精霊フラマ。
もう一人、漆黒の闇を思わせるような黒い髪の男の子。髪は肩まで伸びていて、サラサラヘアーだ。瞳の色は銀色と金色、片目ずつ違う。顔は細身で、鼻筋がすらっとして色白だ。見た目年齢、16歳。身長はシルフリードよりも高い。白魚のような手で、自分の体を触り確かめていた。首筋に闇の紋章が光っている。この子の名前は、闇の中級精霊ノクターン。
2人の中級精霊がセレーナの仲間に加わった。
明日は、おやすみです。土曜日の夜22時10分に投稿します。




