第四十七話 事の発端
誤字脱字がありましたら、その都度修正、再編集いたしますので、ご了承ください。
「事の発端は、クリスタルが精霊界を逃げ出したことから始まったんだ」
火の大精霊プロックスは語り始めた。
「火、水、土、風、雷、氷、光、闇。俺ら八つの精霊は『選ばれし精霊』だった。『選ばれし精霊』とは、前の大精霊や師匠からご指名を受けた精霊の事だ。
「昇級に昇級を重ねて、やっと上級精霊になったとき、はじめて師匠との修行がはじまる。それが終了して試練に合格できたら、晴れて俺らは大精霊になれる」
「俺たち『選ばれし精霊』はいつも一緒につるんで行動していた。俺らがちょうど師匠と修行している頃、クリスタルの様子がおかしかった。まあ、クリスタルの師匠は完璧主義で、俺らの師匠の中でも厳しかったから、当然重圧は感じていたはずだ」
プロックスが自分の両手を見つめる。
「クリスタルが精霊界を飛び出し、人間界へ逃げ込んだ時、森でヴィルフォンス国の第一王子に出会った。そこでクリスタルはアラン王子に一目ぼれしたんだ!! よりによって人間なんかに!!」
(人間のことを毛嫌いしている?)
「ちょっと待った!」
ヘルメスが手を上げた。
「どうしたんだい? ヘルメス。話を止めたからには、ちゃんとした理由があるんだろうね」
アトロポス様が睨みをきかせる。
「この物語の真の元凶をここに連れてきたよ」
ヘルメスは指を鳴らすと、パッと目の前に大きな檻に入れられた少年が現れた。ただし、その檻の中に高そうなソファーセットがあり、少年は長いソファーで優雅に寝転がっていた。
姿は、13歳ぐらいに見える少年。金髪のショートヘアに、綺麗な青い目。色白の綺麗な肌。にこりと笑う笑顔はキラキラしていて無邪気そのものだ。その少年は体に合わない大きいワイシャツに黒い半ズボンという、なんとも個性的な格好をしていた。
「ご紹介します。原初の神、エロス様でございます」
ヘルメスがまるで執事のように恭しく手を差し出し、エロス神を紹介をした。
「どうして、あなた程のお方が檻に入っているのですか?」
スコティオスが唖然として、エロスに問いかける。
「ごめん、その昔、クリスタルを誤ってヴィルフォンス国の第一王子であるアラン王子に惚れさせたのは僕なんだ。あの日さ、恋の矢を放つ練習をするために人間の森へやってきたのだけど、練習中にたまたま、通りすがりのクリちゃんのふくらはぎに刺さっちゃってさ。ほら、俺の矢って痛みが出ないから、クリちゃん気付かないじゃん? そん時にタイミング悪く、軍馬に乗った第一王子とバッタリ鉢合わせしちゃったわけ。そういうわけで、クリちゃんは初恋で盛り上がったってわけ。黙ってごめ~んね?」
《言い方、軽っ⁉》
シルフリードがびっくりするのも分かる。
呆れてものが言えないとはこのことだろうか。私は、しゃがみ込む二人に視線を向けた。すると、二人ともなんとも言えないような、愕然とした表情をしていた。
「だいたい、いつもお前さんは神力を使って矢を放っていたんじゃないのかい?」
アトロポス様が呆れて聞くと、
「神力とかじゃなくてさ、自力で矢を放てるようになりたかったんだよ」
「万年へたくそのくせに、なにをおっしゃっているのやら」
ヘルメスの言葉の矢がエロスに刺さる。
プロックスは苦痛な声で小さく呟いた。
「そうとは知らずに、俺たちは……」
何も言えなくなったプロックスの代わりに、スコティオスが、アトロポス様に視線をむけて、弁明をするように答えた。
「私たちは、子供が呪いで死んだあと、エロス様にアラン王子に拒絶の矢を放ち、嫌われるように仕向けさせてくださいと、お願いをしました。そうすれば、クリスタルは精霊界へ戻ってくると思って……それだけです」
エロスは人差し指を揺らすと、首を振った。
「全く、甘いな、甘い。お前らが妊婦だったクリスタルに呪いをかけたのは知っていた。だからな、クリスタルが出産する前に隣国のセレスティア王国の第二王女に恋の矢を放っておいたよ。そして、ヴィルフォンスのアラン王子に懸想するように仕向けておいた」
――ひどい。ひどすぎる。
「すると、セレスティア王国の皇后さまが、愛する娘のために動いた。ヴィルフォンス王国にスパイを送った。それが、クリスタルに選ばれた乳母だ」
――仕掛けたのはエロスだったのか。
「出産後、クリスタルは我が子に『リリア』と名付け、愛しの子を乳母に預けた。乳母はクリスタルに耳障りの良いことばかりを吹き込んでは、陰では、リリアを粗末に扱った。お風呂も入れず、不衛生な環境で過ごし、年中おむつかぶれをしていた。殺害が三年に延期したのは、クリスタルを陥れる準備期間といったところか。その間、躾という名の虐待が日常的に行われた」
《そんな……よくも!!》
見えないところで、シルフリードが怒ってくれている。
「リリアが苦しんでいる頃、アラン王子はすでに第二王女といい仲になっていた。計画通り『リリア』が亡くなってからすぐに、第二王女はヴィルフォンスの側妃に迎えられた。そして一年も経たないうちに後継者である男の子を生んだ」
――ひいおばあちゃんは、エロスのせいで愛する者から見捨てられた。
「後は分かるだろ? 我が子を亡くしたと思っていた矢先に、側妃が迎え入れられ、クリスタルは正妃であるのに、離宮へと追いやられた。側妃は後継者を産んで、クリスタルは、孤立無援の状態になった。夜、寂しくてもアラン王子は来てはくれない。侍女からも陰口を叩かれ、扱いも粗末になっていった」
――この神は悪魔なのだろうか。
「お二人のご希望通り、正妃であるクリスタルは悲しみと、苦しみを抱え、失意の中、忽然と城からいなくなった。結果、精霊界へ帰ってきた。因みに第二王女は正妃となってからは、天下人のように振舞い、アラン王子はただのお飾り王子になったとさ。お終い」
「元はといえば、あなた様が元凶じゃないですか!!」
スコティオスは反論したが、エロスは悪い顔でにやりと笑った。
「おや? 火の大精霊様と闇の大精霊様は、高飛車な氷の大精霊が憎らしくてたまらなかったから、あんな罪のない子に残酷な呪いをしかけたのだろう? もしさ、あの子の幸せを願うなら、俺に依頼して旦那と別れさせるなんてことしないよね? 結局さ、君たちは、あの傲慢な女精霊をボロボロになるまで泣かせたかったんだろ? どん底に落とし入れられて、良かったじゃん」
黙っていたプロックスが唸るように呟いた。
「……違う。そんな風に泣かせたくはなかった」
「いいや、嘘だね。憎んでいたはずさ。愛していた分、憎さ100倍ってな」
「違う……。違う、違う、全然違う、ゔあぁぁぁあああーーーー!!!!」
感情が爆発したプロックスは体から勢いよく火炎を噴き出した。体には光の縄で縛られている。光の縄は力の放出を感知したら、更に締め付けられる仕組みになっているようだ。
自分の体が締め付けられても、プロックスは炎の放出を止めずに、烈火の如く暴れ回る。真っ白な床にプロックスの血が飛び散った。
「止めろ、プロックス!! いい加減落ち着け、落ち着くんだ!!」
スコティオスが側で叫んでいる。
〈〈〈いい加減におし!!〉〉〉
アトロポス様を中心に音波の波紋が、プロックスの火炎を消失させた。
私はというと、その音波に軽く吹き飛ばされて、ヘルメスに抱き止められた格好になっていた。
「そもそも、自分の悪さを棚に上げて、プロックスを追い詰める資格はお前にはない」
アトロポス様は、エロスに睨みつけた。
「ちぇ、つまんないの」
原始神のエロスは子供のように拗ねた。
ヘルメスにお礼を言って、私は再び話に参加した。
「一つ、質問があります」
「なんだい、セレーナ」
アトロポス様は、息まいていた。
「結局、この二人は私にどんな呪いをかけたのでしょうか」
スコティオスが重い口を開いた。
「《不遇夭折の呪い》だ」
「ふぐうようせつののろい?」
握りしめた拳が震えて止まらない。
「これは読んで字のごとく、不遇な環境の中で子供の内に命を落とす呪いだ」
「……もしかして、前世で真由美に暴力を振るわれたり、学校で酷く虐められたり、大人が誰も助けてくれなくて、見て見ぬふりをしたのも、その呪いのせいだというの?」
アトロポス様が、言いにくそうな表情で話しはじめた。
「残念だが、そういう事だ。一番の被害者はあんただったんだ」
アトロポス様の一言で周りが静まり返ってしまった。
「なぜ、罪のない私に呪いをかけたのですか?」
私は淡々と質問を続けた。
すると、プロックスは態度を豹変させた。
「俺はな、はじめから人間が嫌いだ。傲慢で、自己中心で、残虐で、自然への敬意ってものを全く感じない。そんな人間とできた子供なんか消滅したらいいと思った」
「クリスタル様の血を分けた子でも?」
一瞬、会話に間が空いた。重苦しい空気が流れる。
「穢れた人間の遺伝子を彼女の側には置きたくなかった。取り除きたかった。どんなに卑怯な手を使ってでも」
プロックスは、鬼の形相で、私をじっと睨み返した。でも、私も負けない。
「じゃあ、さっきは穢れた人間に助けを求めていたってわけ? それで、全ての人類が、傲慢で自己中心で、残虐で自然への敬意がないってあなたは言いたいの?」
プロックスは、ごくりと頷いて、怒りに満ちた表情をした。
「人間は悪を持って生まれてきた生き物だ。人間は自分が生き残る為なら、何をしてもかまわないところがある。悪魔を生み出しているのも人間だ。人間の醜悪な心が邪神の力になる」
「だったら、人間の信仰心で成り立っているこの天界についてあなたはどう答えるのよ。精霊界はその神の下で成り立っているんじゃないの?」
「!!!」
「ははっ、私が穢れていた? 取り除きたかった? あなた、私のことを1ミリも知らないくせに……。どこまで人を馬鹿にしたら気が済むの。あんたたちみたいに偏見に満ちた精霊が、人間の何を知っているというのよ?」
「なんだと? この生意気な小娘が!!」
プロックスが反射的に怒鳴り声を上げた。
アトロポス様は、私の肩をそっと叩いた。そしてプロックスの前に立ち、重たいビンタを一発バチンとお見舞いした。
頬を赤く腫らして、プロックスは驚きの表情でアトロポスを見ている。
「まったく本当に、セレーナの言う通りだよ。私ら、運命の三女神は、常に人間の運命の采配をしている。人間にもいろんな奴がいる。善人も、悪人も、その両面を持った奴もいる。本当に様々さ。スコティオスとプロックスは、ほんの一部の人間しか見てこなかったのだろう。人間と大した接触もしてない奴が、のうのうと人間の本質を決めつけるなど、おこがましいにも程がある!! 精霊界を管轄しているガイア女神にきつく言っておくから覚悟しな」
面白くなさそうにプロックスがため息をつく。そして、アトロポス様はスコティオスに視線を向けた。
「そろそろ、呪いの解除をしてもらおうか? この子の五つの前世はすべて不遇で早く亡くなっている。しかも余命を残してだ。お前らは、『人間に運命を授ける』という、私の尊い仕事に泥を塗ってくれたんだ。それなりの罰が待っていると思え!!」
ドスの入った声に二人を黙らせた。さすが運命の女神様。
「今からでも解けるよね?」
「俺は一度きりの呪いだと思っていた。こんな長いこと呪いの効力があるなんて――」
「ブツブツ何言っているの? いいから、早く解除しなさい!!」
「……だから、そのクリスタルに直接呪いをかけたから、解除もクリスタルの協力がないとだめなんだ」
その場の空気がどんより重くなった。 ちらりと横目でアトロポス様をみたが、目が白目を向いていた。
(呆れた顔をしているな……そりゃそうだよね)
それじゃあ、とりあえず、みんなで精霊界へ行きましょうか。
ヘルメスはにこやかに答えた。
また明日、夜の22時10分に投稿します。




