第二十八話 友だちとしての愛(シルフリード視点)
朝、目覚めると、人肌がないことに気がついた。手探りで辺りを触る。
(セレーナが先に起きた。なんで起こしてくれないんだ)
ゆっくりと上半身を起こして、ぽけ~っと小さな小窓を見ると、空がだいぶ明るい。
「寝すぎたな。実体になると、こんなに寝てしまうのか」
背伸びをして、ふと、セレーナの言葉が頭をよぎる。
『ねぇ、シルフリード。シルフリードも愛されたいの?』
「分からない。俺、愛されたかったのかな」
あの時、俺は確かにセレーナに言った。俺はこれからずっと、お前を愛すから、お前は俺を愛せ。そして俺を信じろと。
「うわぁ~~、愛ってよく分からないのに、なんで勢いであんなことを――恥ずかし!!」
思わず布団の上でごろごろしていると、長い白銀の髪の毛を一本見つけた。
『シルフリード。愛されることは、存在自体を受け入れてもらえて、認めてくれる。心から心配してもらえるし、愛する者のためなら時間も惜しまず、探してくれる』
再びセレーナの言葉を思い出す。
『そう考えてみれば、シルフリードはもう私に愛されているじゃない』
「俺って、セレーナに愛されているのか!!」
俺の胸の鼓動が早くなった。顔が熱くなり、居ても立っても居られない。
「いやいや、たぶん友だちとして愛しているんだ。待て! そもそも、友だちってなんだっけ?」
こめかみをマッサージしながら、天界で芹奈が言ったことを思い出す。
『友だちのために助けたり、心配したり、説教もしたりして、自分の損得一切関係なく一緒にいてくれるのが友だちかな』
そうか、それならセレーナの愛は友だちとしての愛なのかもな。それ以外何があるって言うんだ。確か、セレーナは俺がいつ来るかずっと待っていたと言っていたし、心配もしていたと。それに俺という存在を案外受け入れているとも……。
「俺をそのまま受け入れてくれるのか……」
ひとすじの髪を握りしめ、その手で自分を抱きしめた。
――俺は、はじめて存在していてよかったと思ってしまった。この恥ずかしくて、くすぐったい感情は今まで経験してこなかった。ぽわぽわしたこの感覚。きっと、今の俺は幸せだ。
「あっ、セレーナと父親の再会した時のあの感覚!」
俺は、セレーナの匂いがする布団に飛びこんだ。
****
――セレーナは家にいなかった。朝ごはんを食べ終わると、フルーランと散歩に出かけたらしい。
「なんで、あんなのと出かけたんだろう。俺の方がましだというのに……」
「みっともないな。精霊同士で嫉妬だなんて」
ルカが鼻で笑った。
「お前、いい加減にしろよ。ネチネチ過去の事にこだわってしつこいんだよ」
「君がちゃんと僕に誠心誠意心、謝らないのがいけないんだろ。それに、お前、昨日セレーナを屋根裏部屋に連れ込んで一緒に寝ただろ?」
「連れ込んでって言い方ないだろう!! あれは、セレーナが……」
慌てて口を隠した。
(言えない。セレーナがあの話を聞いて泣いていたなんて、口が裂けても言えない)
訝し気に俺を見るルカの視線が痛くて、思わず目を逸らした。
「昨日、なんでセレーナが屋根裏部屋で寝ていたのか、聞いてんだよ」
「うるさい、いちいち気にしすぎなんだよ!! このシスコンめ」
「僕のどこが、シスコンなんだ。可愛い妹を心配して何が悪い」
「おめえはいちいち干渉しすぎなんだよ。これだから、闇属性は……」
すると、ルカは持っていたハンカチをシルフリードに投げつけた。
「おい、お前。僕と剣で勝負をしろ!!」
「なんで、俺がお前なんかと勝負をしなくちゃいけないんだ?」
「僕は、小さいうちからお父さんに剣術を習っているんだ。レオばかり相手してもつまらないから、お前と勝負をすることで、この間のことはチャラにしよう」
ルカは静かに微笑む。その目つきはとても冷たく、冷気を漂わせるものだった。
「はぁ~、仕方がない。そこまで言うなら付き合ってやるか。なんでそんなに粘着質なんだよ」
****
――数時間後(夕方前)
俺は、なぜか裏庭で木剣を持ってコイツと向かい合っている。 横にはエドガーが審判役で、レオとセレーナが観客だ。
「シルフリード、すまないな。ルカの我が儘に付き合ってもらって」
「いいんです。気晴らしにもなりますし」
すると、ルカがむかついたのか、俺に剣で指す。
「お前は風の精霊だから、空を飛んだり、風を吹かせるのだろうけど、それは禁止だ。正々堂々と剣で勝負しろ」
ちらりと横目でセレーナを見る。不安そうな顔でルカを見ている。
(ん? 俺の心配をしているんじゃないのか?)
「では、両者、はじめ!」
ルカはエドガーに剣を習っていると言っていたが、どんなものだろう。
先に動き出したのはルカだった。
低い体勢で俺の懐へ飛び込んできた。素早く剣を横に振り抜くと、俺に向かって突いてきた。
《ブォン!!!》
多分基本の型があるのだろう。綺麗なフォームでお手本のような攻撃をしてくる。
カン、カン、カンと木剣を叩く音がしばらく続く。俺は、ルカの剣を受けるのが、だんだん楽しくなってきた。
ルカが歯を食いしばり、スピードをもう一段あげて全力で向かってきた。
ルカの必死さが伝わる。それに対して、俺は攻撃せずに、どれだけ受け続けられるか自分ルールを決めた。俺から攻撃をしたら、負けというルールだ。
「はっ、随分余裕なんですね」
ルカの苛立ちが目に見えて分かる。
「もう少し楽しませてくれよ。まだまだ、足りないんだ」
ちょっと挑発してみる。
「くっそ!!!」
カーンと強く打ちつける木剣のリズムが、大振りになり荒々しくなってきた。動きが大きくなり、隙が丸見えだ。
「無駄に大振りにしてるぞ。こんなに隙だらけだと反撃したくなる。さっさと攻撃しろ」
その言葉に火がついたのか、ルカの体から魔力がこぼれ落ちた。
木剣を叩くリズムが早くなった。先ほどより、動きがコンパクトになってきて、上手くなっている。
渾身の連続攻めの後、ルカが俺に向かって突いてきた。俺はつかさず後方へ下がろうとしたその時、何故か両足が地面にくっついて離れない!
(なに?!)
俺は足が地面に着いたまま、体が後ろにのけ反ってしまった。
それを見逃さなかったルカは、飛びかかってシルフリードの頭上へ勢いよく木剣を振り下ろす。
「そこまで!! ルカの反則負けだ」
エドガーが間に入って木剣を止めた。
ルカは、悔しさのあまり、木剣を投げ捨て、その場から走り出してしまった。
「ルカお兄ちゃん!!」
セレーナがルカの後を追いかける。
エドガーが仰向けになった俺に手を差し出してくれた。
「ルカが魔法でお前さんの足をくっつけたんだ。あいつは、正々堂々の木剣勝負と言っておきながら、負けると思って魔法をしたんだ。立派な反則だ」
俺は、そんなことよりもセレーナがルカを追いかけたのが気になった。
俺はただ、セレーナが走って行った方向を呆然と見ているしかなかった。
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