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第二十七話 精霊使いの訓練

誤字脱字を見つけた時は、修正して再編集しますので、ご了承ください。

 今朝、太陽が昇る前に起きた私は、いつの間にかシルフリードとくっついて布団の中で丸まっていた。まだ雪解月なので朝方は特に冷える。寒がりな私は、シルフリードで暖を取っていたらしい。


 目の前にはすやすやと熟睡しているシルフリードがいる。

(昨日、さんざん泣いてしまったな……。迷惑かけちゃった)


 昨日のシルフリードの真剣な顔が忘れられない。


『違う。そういう、契約だからじゃなくて。俺はこれからずっと、お前を愛すから、お前も俺を愛せ。そして俺を信じろ』


 あんなに苦しくて、涙が止まらなかったのに、その一言で安心してしまった。きゅっと抱きしめられて、まるで大事にされているかのように……


「シルフリードが言う『愛する』はきっと友愛のことだよね。友達なんだし。だから私の愛も同じ」


 三歳だけど、中身はお年頃の女子だもの。こんな綺麗な男の子にあんなこと言われたら誰だって勘違いする。だからこそ変な気持ちになってはいけない。


 私は、静かにベッドから降りると、そっと屋根裏部屋を出た。

 なんとなく庭へ出てみると、空気がひんやりとしていて、肌寒い。神秘的な朝靄がうっすら漂わせている。


 透明な空気をたくさん肺に取り込んで、背伸びをする。

 遠くの山脈に視線を向ければ、薄紫の色の雲がたなびいて、空の高さを際立たせていた。


「フルーラン、出てこれる?」

 

 フルーランは、ピシャンと水の音をさせると、セーラ―姿のフルーランがそこに立っていた。


「お久しぶり、ご主人様!」


「いやいや、普通にセレーナでいいから」


「なにを甘いこと言っているの? こんな事じゃ精霊になめられちゃうよ」


「フルーランはなめないでしょ? あのね、今日から精霊使いとしての特訓がしたいの。それには、フルーランにいろいろ教えてもらいたいことがあるの。だから朝ごはんを食べた後、一緒に森へ行かない?」


「了解しました! ご主人様」

 フルーランは可愛くウィンクをした。


****


 朝ごはんを食べ終わると、まだ寝ているシルフリードにはお留守番してもらうことにして、私とフルーランは森の奥のエール川の滝へやってきた。


「フルーラン、精霊使いとしての特訓、よろしくお願いします」


 フルーランの自尊心をくすぐったのか、まんざらでもない顔で鼻を擦った。


「それでは、マナについて、説明するね。セレーナの背中に水の紋章があるでしょ? 私のお腹にもそれがあるわよね? この紋章があれば、自動的に契約者のマナがこちらのマナへと運ばれるのよ。小技から大技まであるけど、それぞれマナの使う量が違うわけ。マナの無駄遣いにならないように、この紋章がマナの量を自動調整してくれるの」


「自動調整か、だいぶ便利だね」


「昔、ハイエルフと氷の精霊が契約したときがあったんだけど、その時は、契約者自身がマナを調整していたの。この面倒な調節をどうにかできないかと、考えたハイエルフは氷の印と魔法円陣を組み合わせた氷の紋章を編み出したの」


「魔法円陣か、魔法学が得意なハイエルフだったんだね」


「そうね。で、アイデアをすごく気に入ったガイア女神が、八種の精霊にそれぞれ魔法円陣付きの家紋を作ったってわけ」


「そうなんですね。そのハイエルフさんには感謝しなくちゃ」


「でも……、魔力とマナは何が違うの?」


 フルーランは咳ばらいをして、腰に手をあてる。


「マナとは、魂エネルギーのことを指します。生きる力。生命力そのものを指すんだよ。元気な体には元気なマナが宿っているの」


 私はおもむろに胸に手をあてる。心臓の鼓動を感じる。


「そして、魔力とは、空気中の魔素を体に取り組み、肺にある数万の魔素細胞が、それを取り込んで、血管を通して、へそ近くにある魔力臓器へと送り込まれる。そこで、遺伝子に刻まれた魔力属性と魔素が臓器内で生成し、初めて魔力が生まれ蓄積される。余分な魔素は、血液と一緒に移動して、肺に戻ると、二酸化魔素として排出される」


「二酸化魔素? 二酸化炭素の間違いじゃない?」


「逆に、二酸化炭素ってなによ? 言っとくけど、私、あんたのために勉強してきたんだからね!」


 逆にフルーランにキレられた。

 この世界では、炭素イコール魔素なのだろうか。

 ということは、この世界では、火を燃やしたら、二酸化魔素が発生するという事?


「とりあえずやってみましょうか。まず、セレーナがやることは簡単。『命令』だけよ」


「命令だけ? どんなふうにしたらいいの?」


「例えば、『フルーラン、〇〇に水銃弾アクアバレッド』って言うのよ。いいから真似してみて」


 私は、フルーランの後ろにある大きな岩を指さした。

「フルーラン、あの岩に水銃弾アクアバレッド

 

 すると、フルーランが振り向きざまに手を銃の形にして、岩に連射した。

《ドキュン、ドキュン‼》


 すると、大きな岩に五センチほどの穴が空いており、私は驚いた。高水圧の水鉄砲だ。


「はい、どんどん練習‼」


 フルーランの容赦ない練習がはじまった。水銃弾アクアバレットを木や岩にめがけて、どんどん練習を重ねた。三十回したところで、ようやく動きを止めた。命令するだけなのに、疲れがくるのはなぜだろう。


 次にフルーランは右手から水を噴き出した。その水がやがて、日本刀のような長い刀に変化した。その剣は透明な水だが、よく見ると、水が絶えず動いている。


「次のステップは、中級編。剣術よ。私が持っているこの剣は水流剣というの。対象物に合わせて大きさを自由に変えられるのよ。もちろん剣種も変えられるわ。巨大な対象物でも一刀両断できるわよ。では、始めましょうか」


「水の剣って本当に切れるの? 水銃弾アクアバレットは瞬時の高水圧で飛ばしているのは分かるけど、流水剣は?」


 フルーランは急に腰を落とし身構えた。フルーランの周りにオーラが走る。


 フルーランが目にも止まらぬ速さで横に剣を振り抜くと、風圧が走った。瞬間、私の後ろの木が達磨落としのように中身だけスパンと飛んでいき、上の枝が落下した。長い木が背の低い木になった。


「水圧? それだけじゃないわ、オーラも重ねるの」


「そ、それって、かなり力技じゃないの?」


 フルーランに呆気にとられながら、一つ一つ、動作を一緒に確認しながら覚えていった。


 特訓して何時間経っただろうか。お昼時間はたぶんとっくに過ぎている。さすがにお腹が空いてきた。


「じゃあ、ラストは盛大に勢いよくやって終わりましょう。最後の大技は水龍召喚アクアドラゴン・サモンよ。詠唱は私がやるから任せてね。セレーナは私に命令をしてね。多分、マナを大量に使うから、ぐったりすると思うけど。いいわね?」


「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなり召喚って何? 龍って、空想上の動物でしょ? 私見たことないよ‼」


「あのね、精霊界には精霊獣というのがいて、水は水龍、風は風大鷲、火は不死鳥、氷は氷結白馬、雷は雷電狼、土は大陸象、闇は暗黒ヒョウ、光は白王ライオンという具合に存在しているの。でもこの子たちはだいたい精霊界でのんびり過ごしているんだけどね。必要な時に召喚できるのよ。すごいでしょ?」


「そんなすごいのを呼ぶことが本当にできるの?」


「大丈夫よ、マナが大量にあるセレーナなら、成功するから!」


 フルーランはワクワクした顔をしている。


「とりあえず、やるだけやってみるよ。フルーラン、水龍召喚アクアドラゴン・サモン


 すると、エール川の滝つぼに大きな二重魔法円陣が現れ光り出した。よく見ると大きな時計の針のようなものが二本ついている。


 古代文字が光り、時計回りに外側の円陣がゆっくりと動き始めた。そして内側の円陣が反時計回りに動くと、真ん中の二本の針がぐるりと回り、一つに重なると、ガラーン、ガラーン、ガラーンと厳かな鐘の音が3回鳴った。その鐘の音と共に全身の力がごっそり抜ける感覚に襲われた。


「水龍よ、今こそ起きろ、力を呼び起こし、天に舞え‼ 水龍召喚アクアドラゴン・サモン


 フルーランが叫んで、両手を天に仰いだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……轟音が鳴り続くと、滝つぼの水がこんもりとせり上がり、透明度が高い水の龍が浮かび上がった。厳格な顔の額にはブルーサファイアのような大きな宝石のようなものがついていた。


「……きれい。あの額の宝石は?」


「ああ、あれは、水龍の魔核だよ。たとえ体が半分になったとしても、あの魔核さえ無事なら、何度でも再生して復活できるの。あれさえ壊れなければ、ほぼ不死身ね」


 私たちは強風に煽られつつも、滝つぼから次々と出てくる長い胴体を眺めながら、水龍が完全に外に出てくるのをじっと見守っていた。


 あまりにもファンタジーすぎて、胸のドキドキが収まらない。


「きゃはは、いいわ、いいわよ~。私、一度でいいから召喚獣を呼んでみたかったの~。だって、召喚獣は大精霊のペットだから、上級精霊しか本当は呼べないんだけど。セレーナの力なら、中級精霊の私でも呼べる気がしたのよ。私って勘が冴えてる!」


 私ははっとした。こんな風に大精霊の召喚獣を呼びだして大丈夫なのだろうか。


「フルーラン、後で水の大精霊に怒られても、私のせいにしないでよね」


「へぇ?」


 水龍は上空を縦横無尽に飛び回ると、森に向けて咆哮した。大気は揺れ、森の木々が強風に煽られた。鳥たちや動物たちが一斉に騒ぎ走り出す。


「あの様子……まさか、呼び出されて怒っている?」


「だっ、大丈夫よ。たぶんね……」


 水龍の眼光はこちらを睨んでいた。すると、水龍はまさにジェットコースターが下るようにこちらへ向かってきた‼


「こっち来るよ‼ フルーラン‼」


「やばい、やばい、やばいって〜、早く地べたにしゃがみ込んで、頭を手で守って‼」


 私たちはなすすべもなく、慌てて頭を手で押さえて地べたに伏せた。

 

 水龍の体は水で出来ている。森の木々など障害物ではない。水龍が森に突進してきた。


 龍の水に触れた枝は水流で激しく揺らぐ。勢いをそのままに、水龍は私の頭上すれすれを異常な速さで駆け抜けていった。冷や汗と恐怖心が全身を駆け巡る。


「今のは何⁉ 牽制しているの? あれは、やばくない?」


 フルーランは大空で暴れている水龍に向かって叫んだ。


「いっ、偉大なる我が水龍よぉぉぉ‼ 精霊界へ戻れ《リターン》」


 すると、天に向かって、咆哮すると、今度はまっすぐ滝つぼに落ちるように、水龍が迫ってきた。


「早く、急いで。あの岩に隠れて‼」


 私たちは、慌てて滝から離れた大岩の陰に隠れた。すると、ザバアァァァン……と凄い水量の水が川へ戻ってきた。辺り一帯に水しぶきを大量に降ってきて、隠れていても、全身びしょ濡れになった。


「……ねぇ、フルーラン? 水龍様、やっぱり怒ってたよね?」


「……ま、まあ、今日はこんな感じで終わりま~す。……水龍の召喚は本番まで取っておきましょう。また機嫌悪くするといけないからね」


「……そうだね」


ずぶ濡れの二人は顔を見合わせて笑った。



今日は一話で終わります。ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
うーん。(/´△`\) お母さん……。 ・゜・(つД`)・゜・ とりあえず、気を取り直して修行回。 セレーナちゃんには、使命があるのです。 ゜+(人・∀・*)+。♪ フルーランさんの、頼りがいパナイ♪…
フルーランはお調子者ですね〜。 (*´ω`*) 一度喚んで見たかったという理由で喚び出されたらアクアドラゴンもそら怒りますよw (´ε`)
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