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シアカラーステッチ  作者: 乾寛
第5章. 囚われの記憶
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一瞬の疾風

 エリネが300メートル程度の範囲の兵士を全て除いた頃、ファレーン王国軍の後ろの方から馬に乗った女が現れた。女は紫色の長髪で銀色に輝く鎧を着て、右手に槍を持っている。


「私はファレーン王国将軍、レンベグ・イディオット。そこのあなたに一騎討ちを申し込む! 一人で出てきなさい!」


 イディオットと名乗った将軍は槍でエリネを指し示してきた。


 私が……一人で……


 すると、後ろからサトゥールが近づいて来た。


「大丈夫だよ、出ていかなくていい」


「でも、私が呼ばれてるから……」


 サトゥールは呆れたようにも見える笑みを浮かべながらエリネの勝利を確信していた。


「大丈夫、あの将軍はセルナスト王国でも有名だよ。疾風(しっぷう)のイディオットって」


「疾風?」


 疾風って、かなり強そうな二つ名だ。


「ほら、見て」


 サトゥールが遠くの方をあごでしゃくり、エリネがそっちの方を見ると、ファレーン王国の兵士が走って逃げているのが見えた。


「何あれ……」


「あのイディオットって将軍は、攻撃を仕掛けてちょっと失敗したら逃げて体制を立て直したらまた仕掛けてくるっていう戦法をとってくる。だから疾風。一騎討ちは気を引くための囮だよ。イディオット将軍は実力はあるらしいから本当に一騎討ちをしたらかなり強いと思うけど」


「あの将軍がいなくなればファレーン王国が攻めてくるようなことはなくなるのかな……」


「あの人は割と好戦的な将軍だから、倒せればかなり減るだろうね」


「分かった。行ってきます」


「え、ちょっと。だめだよ。あの将軍はまともに戦ったら強いんだよ」


「倒せばこの国を脅かす者は減る。……でしょ?」


 エリネはエレスリンネを構え直してイディオットの方に向かって行った。


 ヘラディバートは軽くエリネの後ろに駆けてきた。


「エリネ・ヘイム! 待て、行くな。君は陛下の孫なんだ。絶対に怪我をさせるわけにはいかない。これは命令だ」


 ヘラディバートは珍しく低い声で静かに忠告する。


「大丈夫です、団長代理。お父様なら絶対に受けて立ってたことでしょう」


 エリネはヘラディバートの制止を振り切ってイディオットに近づき、エレスリンネの刃先を向けた。


「一騎討ち、受けるよ。その疾風の戦法なんてもうさせない。陛下のセルナスト王国を傷つけようとするのなら、殺してあげる」


 ヘラディバートは仕方なさそうに、騎士団の騎兵部隊に指示してファレーン軍の兵士の掃討に向かわせた。


 イディオットは馬に乗ったままエリネの近くに駆けてきた。


「逃げてばかりだから真正面から戦ったら勝てると思ったの? 残念、あなたみたいな小娘に負けるほど私はヤワじゃない」


 イディオットは馬から飛び降り、槍を構えようとした。イディオットの準備が整わないうちにエリネは飛び出した。


「それじゃ、始めるよ」


 そのままエリネを振るうと、盛り上がった地面が地に着いたばかりのイディオットの脚と槍を捕らえた。


「くそっ……卑怯者が!」


 イディオットは必死で抜け出そうともがいているが、逃れられない。エリネは呆れたように言う。


「卑怯者? それなら疾風の戦法は卑怯じゃないとでも? 卑怯者から大切なものを守るためには自分が先んじて卑怯者にならなきゃいけないんだよ」


 エリネはイディオットに近づいていき、エレスリンネを両手で振りかぶって構えた。


「嫌……やめて。死にたくない……」


「情けないね。お父様は命乞いなんてしなかった。死の苦しみは感じさせないであげるよ、覚悟なさい」


「小娘が──」


 エレスリンネを振り下ろしてイディオットの首を落とした。光を失ったイディオットの目は怯えながらエリネをじっと見ていた。


 こんな卑怯なやり方、お父様は褒めてくれないかもしれない。でも、力の足りない私にはこんなやり方しかできない。


 エリネがイディオットに背を向けると、騎士団側からは歓声があがった。


「すごいよ、エリネちゃ、さん!」


 サトゥールは嬉しそうに腕を振り上げながら駆け寄ってきた。


「え、えぇ……」


「兵士たちを圧倒した上に、あの手強かったイディオット将軍を討ち取るなんて。勲章ものだよ」


「卑怯な手を使ったのに?」


 ヘラディバートは近づいてきてエリネの肩に手を置き、エリネを労った。


「ファレーン王国兵はもう逃げていて今の一騎討ちなんて見ていない、誰も卑怯だなんて思いはしないさ。よくやった、エリネ・ヘイム。君のおかげで騎士団に怪我人はほとんどいないはずだ。それに、全く卑怯なんかじゃない。これは戦争だ」


====================


 ヘラディバートの指示で王都へ足を進めていると、騎兵部隊が戻ってきた。完勝だ。


 きっとお祖父様も褒めてくれる。


 帰って行く途中、騎士団員から笑顔が止むことはなかった。

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