始まりの始まり
「これで陛下より与えられた使命は完遂された」
王からやってきた命令は渓谷内の人間を掃討すること。
つまり、フランベーニュ側の入口であるキドプーラとアリターナ側の入口であるベンティーユの奪還まで。
だから、そのすべてが終わった直後にグワラニーが口にしたこの言葉は間違っていない。
だが、作戦が始まる前からグワラニーはフランベーニュ側の入口であるキドプーラの先にあるクペル城の攻略までを視野に入れていた。
それはもともと砦化されてベンティーユと違い、クペル城にキドプーラの入口自体の防御力は高くないため、その役を担っていたクペル城の占領は戦略上必要だったのである。
当然フランベーニュが金をかけて改装をしたクペル城をそのまま使用したい。
だが、これは難題だな。
たとえば、そこに立て籠もるフランベーニュ兵とともに城を破壊してもよいということであれば、極端な話、デルフィンの強力魔法一撃でカタがつく。
だが、城をそのまま使用するとなればそうはいかない。
というよりも、力攻めすら好まれないということになる。
実際のところ、そうするためには包囲戦のあとに開城勧告し、撤退を許す条件でフランベーニュ軍を城から追い出す以外に選択肢はない。
だが、それをおこなうには時間と兵数が必要になる。
それに対するグワラニーが出した回答はこれだった。
今回の渓谷内の戦いで出番のなかったアルタミアたちに包囲を任させる。
渓谷地帯開放の功により王から与えられる多額の報酬を彼らがグワラニーの傘下というだけで得られるなど虫が良すぎる。
対価に値する汗と血を流してもらうということである。
「では、アルタミアたちにクペル……」
「急報です」
上官の部屋に物凄い音を立ててやってきたうえ、決定を幹部に伝えるグワラニーの言葉を遮ったのは警備隊長を務めるコリチーバだった。
「どうした?」
「ペパス様より急報。クペル城付近にフランベーニュの新手が次々に現れていると」
「数は?」
「今のところは一万程ですが……」
「ペパス様によれば、並べられた軍旗からやってきた軍の司令官も判明しているとのことです」
「ほう」
「それで、誰だ。その将とは」
「アポロン・ボナール」
「……フランベーニュの英雄がやってきた?」
その言葉を呟いてから、少しと言えない沈黙の時間は、それがグラワニーにとっても予想外の出来事だったことを示すものだと言えるだろう。
だが、何かを思いついたように意味ありげな笑みを浮かべたグワラニーの口が開かれる。
「予定を変更する。フランベーニュが誇るボナール将軍がわざわざお越しくださったのだ。ここは私自身が相手をしなければならないだろう」




