勇者たちの帰郷 Ⅰ
ブリターニャ王国の王都サイレンセストから東に向けて大急ぎで歩けば十日ほどで到着する小さな田舎町ラフギール。
少しだけ離れた海が見える丘にこの国の第一王子の別邸があることくらいしか誇れるものがないその町が遠くに見える草原に三人の若者の姿が突然現れる。
まるで沸いて出たように。
いや。
彼らは実際に沸いて出ていた。
転移魔法によって。
「着きましたよ」
三人よりも十歳ほど年長に見えるもうひとりの男が三人にそう声をかけると、それぞれが辺りを見渡し、見覚えのある光景を確認すると呟きに似た言葉を口にする。
「本当だ」
「ありがとう。アリスト」
「せっかくだから寄っていかないか?急だからたいしたものはないだろうが」
若者のひとりが彼らを転移魔法でここまで連れてきた年長の男に声をかける。
それに対し、男はまず感謝の気持ちを十分に含んだ笑顔で応じる。
だが、直後に口にしたのはそれとは違う種類の言葉だった。
「そうしたいのは山々なのですが、私にはこの後に王子としての務めが待っているのですぐにサイレンセストにも戻らなければなりません。ファーブのお母さまの美味しい手料理を味わうのは次回ということにしましょう。まあ、その時はフィーネも連れてきますのでひとり分余計に準備してもらうことになりますが」
「そうか。わかった」
相手の立場をよく理解している若者はそれ以上引き留めることもなくそう言いながら残念そうに頷く。
こちらも同じ気持ちが籠る表情で小さく頷くと、年長の男が再び口を開く。
「では、二十日後に王都で……」
その言葉とともに年長の男の輪郭がぼやけ始め、ほどなくその姿は完全に消えた。
「忙しそうだな。アリストは」
「まあ、それが王子に生まれた宿命だ」
「そして、こればかりはさすがのアリストでもどうにもならんというところだ。……もう一年も経ったのか」
年下の男ふたり分の言葉に皮肉で応じた三人のうち一番年長の男はそこで一度言葉を切り、遠くに見えるその町を感慨深そうに眺めてからもう一度口を開くと、感情が滲むその言葉を呟く。
「……そうだな」
「みんな元気でやっているかな」
残るふたりも釣られるように町を眺め、同じように懐かしさが籠った言葉を口にした。
「それにしても相変わらず変わらないな」
「まったくだ」
「本当にいつまで経っても田舎のままだ」
否定的にも聞こえる言葉を口にしながら、その言葉とは裏腹に愛おしいものを見るように町を眺める三人の若者。
実を言えば、彼らは皆その町の出身だった。
そこにつけ加えれば、三人のリーダー格である男こそ、この世界の者なら誰もが知る勇者という肩書を持つ者であり、残るふたりも彼と同等の力を持つ兄弟剣士。
つまり三人はすべて勇者チームのメンバーである。
そういうことであれば、自慢できるものがないどころか、「ここは勇者とその仲間を輩出した町だ」と、ラフギールの住民たちは大いに胸を張っていそうなものなのだが、そうなっていないのには当然訳がある。
ラフギールに住む人々は彼らが勇者とその仲間であることを知らなかった。
その理由を一言で言ってしまえばこうなる。
だが、さすがにそれだけで片付けてしまっては様々な意味で語弊があるので、正確を期して言い直すことにしよう。
自らが勇者チームの一員であることを彼ら自身が隠していた。
そのために町の人々は彼らが地元の誇りであることを知らなかった。
これが真相となる。
勇者と名乗らぬ勇者。
実に慎ましいことではある。
だが、彼らの普段の言動を考えれば、それは全くもって不似合いなことでもある。
もう少し踏み込んで話をすれば、それは当然それ相応の理由がなければありえない話であり、もちろんその理由は存在する。
そして、彼らがそうしている理由。
その理由の核となるものは、彼らのスポンサーでもある同じチームに属するこの国の第一王子アリスト・ブリターニャに関わることだった。
アリストはファーブたち三人をリクルートする際に、彼らの親に対して自らがこの国の第一王子であることを明かしていた。
だが、それと同時に彼はある事実を隠していた。
いうまでもなく、それはアリストが魔法を扱える者であること。
魔術師。
そこに王位継承権を持つ者という肩書がつけば、多くの者はすぐさまあの忌まわしきアルフレッド・ブリターニャの名を思い起こす。
つまり、自分が魔術師であることを明かせば当然リクルートは失敗する。
三人を是が非でも仲間にしたいアリストにとってそれは避けなければならないことだったのである。
だが、たとえその場で自らが魔術師であることを黙っていても、アリストがリクルートした三人がその名をこの世界全体に轟かす勇者チームの一員ということになればそこに同行しているはずの彼がそのグループにいる魔術師であると露見するのは火を見るよりも明らか。
その時点でそこまで思いを馳せていたアリストは先々起こるつまらぬ面倒ごとを避けるため、これから始めることのすべてを隠すことにしたのである。
そういうことで、アリストが三人の親たちに提示し、その時から現在まで隠れ蓑的に使っている三人の若者の公式な業務とは、この国の第一王子アリスト・ブリターニャの従者として身辺警護をおこなうという実際のものとは比べようもないくらいに地味なものだった。
もちろんそのつもりで出発し町から遠く離れたところで真実と真の目的を聞かされた三人にとってそれは、よく言っても詐欺、悪ければ人さらいの見本のようなペテンに遭ったようなものなのだった。
だが、連れて来られた方法はともかく、仕事の内容だけを考えれば彼らにとってもそう悪い話ではなかった。
言うまでもなく、魔族の王討伐という、彼らがこれから本当におこなうこととは、勧誘に来たときにアリストが若者たちの両親に力説していた「実に安全な仕事」からは程遠いものであったのだが、報酬として彼らの身分にとっては破格ともいえる高給を得られるのは事実である。
さらに、多くの国を旅して見聞を広めることができる、アリストを除けば命令する者がいないため基本的には自分たちの裁量だけで強い敵と戦い剣技を高めることができる、などなど挙げればキリがないくらいにその仕事は彼らにとって多くの利があったのだ。
「どうしますか?」
「いいだろう。承知した」
すべてを打ち明けたアリストからの問いに、それほど時間をおくことなく三人を代表して答えたファーブの回答がその提案を受け入れるというものだったのは彼らの思考からすれば当然といえるものだった。
そして、「結果的に」という言葉が頭につくものの、それによって彼らはさらなる利を手にする。
この国の第一王子あるアリストの従者となったことにより生まれた特典である徴兵の免除。
これがその利となる。
なぜか?
その理由。
周辺でもその名が知られるくらい剣技が優れ、さらに誰に気遣うこともなく徴兵できる平民出身であるこの三人はほどなく親元から引き離されたうえ、即最激戦地に送り込まれ、使い勝手のよい、いわゆる「鉄砲玉」にされていたのは疑いようもない。
そうなれば、間違いなく全員が、とまでは言わなくても、ひとりもしくはふたりはとっくの昔にこの世の住人ではなくなっていたことくらいは十分に考えられるのだから、彼らにとって利というのは当然であろう。
もっとも、これについては彼らだけではなく、人間世界全体についても実にラッキーだったともいえるのだが……。
「行くか」
ノルディア王国と王都サイレンセストで購入した大量の土産。
それからアリストから渡された金貨が詰め込まれた革袋。
ズシリと感じる重みである。
「少し土産を買い過ぎたかな」
「それについては同感だ」
「アリストも気が利かない。俺たちの荷物が多いのがわかっているのだからもう少し町の近くまで行ってもよかったのではないのか」
三人の口から出るものはどれもこれも戦場で常人には考えられない重さの大剣や戦斧を振り回している者とは思えぬ実に情けない泣き言ばかりである。
と言っても、彼らが担ぐ荷物の重さは並みの男なら馬車が必要になるくらいのものではあったのだから仕方がないともいえるのだが。
とにかくそれだけの量の土産を買うくらいに膨らんだ楽しみと懐かしさを心に詰め込んで歩き出した彼ら。
だが、もうすぐ町の入り口というところまで来たころには、その表情はまったく違うものに変化していた。
「……何人だと思う?」
到着直後とはあきらかに目つきが違うファーブの、主語が抜けた問いに、いつもと変わらぬ不機嫌そうな表情で兄剣士が答える。
「前に十人。後ろに五人というところか」
「……余計な手間だがここでケリをつけたほうがよさそうだな」
「当然だ。こんな奴らと一緒に町に入ったら同類だと思われるではないか」
「ほう。自覚はあるようだな。だが、言っておくが、そう思われるのはブラン。おまえだけだぞ」
まだ姿は見えない。
だが、ファーブたちはその時点でしばらく前から自分たちを取り囲み徐々に包囲の輪を縮めるその存在だけではなくおおよその数まで把握していた。
まさに多くの修羅場を経験して磨き上げられた感覚の成せる業ということだろう。
「せっかくだ。賭けをしないか?」
そう言いだしたのはそれが原因でこれまで度々ひどい目に遭っているにもかかわらずまったく懲りていない、賭けごとと酒をこよなく愛する弟剣士だった。
当然のように顔を見合わせる残りのふたり。
そして、その直後その言葉に反応する。
彼の兄が。
「一応聞く。何について賭けるのだ。相手が俺たちの敵かどうかというのなら、当然俺は有り金全部をそちらに賭けるぞ」
兄剣士のその言葉に、弟はつまらんと言わんばかりに頭を振る。
「この状況でそれでは賭けが成立しないだろう。もちろんそうではない」
「では、相手は魔族かどうかということか。そういうことであれば俺は人間に全部。ファーブはどうする?」
「当然俺も。ということでブランのひとり負けが決まった」
「待て。俺はまだ何も言っていない」
さすがに彼よりも少しだけ物覚えがいいらしいふたりの年長者はその提案に乗る気がない。
一方的に負けを最年少者に押しつけ終わると、その兄が再び口を開く。
「とにかく時間切れだ」
まず、後ろ。
それから前方を確認した兄が口を開き勇者の肩書を持つ相棒に声をかける。
「予想よりも少し多いな」
「だが、相手は数がいるだけだ。結果は変わらん」
「そうだな。それにしても以前はこの辺に出るのはタヌキやイノシシくらいだったのに随分と物騒になったものだ」
「まったくだ。それでも田舎は田舎。野盗ごときの心配などしてやる必要はないのだが、こんなところで商売してこいつらは本当に食っていけるのか?」
「さあな。それは奴ら自身に聞いてみればいいだろう」
「そうだな。まあ、明日からは食事代を心配しなくてもいい、いや、食事をとらなくてもいいという実に羨ましい存在になるのだから、奴らにとっては余計なお世話ではあるのだが」
前方に十二人、後方に八人。
合わせて二十人。
約七倍の敵に囲まれながらこれだけの余裕があるのは彼らがひと目で相手の力量を見切ったからである。
一方、それができない相手は彼我の数の差を頼りに勝敗の行方を天秤にかけるしかなく、そうなれば、当然勝ちは自分たちのものとなる。
だが、相手は勇者とその仲間。
彼らのもとにやってくるのはもちろん満面に笑顔を浮かべた死神ということになる。
自業自得とはいえ、そんな過酷な運命が待っているなどと露ほどのも考えていない二十人の男たち。
その一団の中心に立つボスらしき男は歯をむき出しにして下品な笑みを浮かべ、それから冗談のなかに威嚇の色を含ませながら三人に声をかける。
「随分重そうな荷物だな。運ぶのを手伝ってやるぞ。まあ、運搬賃はもらうが」
その瞬間三人を包囲する集団からも男に負けないくらいの下品な笑い声が起こる。
「ちなみに運搬賃はおまえらの持っているもの全部だ」
つけ加えるように男が口にしたその声に再び笑い声が上がる。
自らの言葉に酔うようにボスらしき男はさらに言葉を加える。
「だが、黙ってすべてを差し出せば命だけは取らないでやる。悪くない話だろう」
もちろんその気などまったくない。
言葉にしなくてもそれは彼ら全体から滲み出している。
仕事柄当然であるのだが、三人はこの手の輩に頻繁に絡まれており、ボスが口にしたその言葉もそのたびに聞かされている。
「聞き飽きたセリフだ」
「まったくだ。それにしても、よくもまあ、恥ずかしげもなく決まりきったセリフを吐けるものだな」
「だが、もしかしたら、こいつらの世界ではこれが流儀なのかもしれない。だから勘弁してやろう」
三人は皮肉を込めた感想を呟き合う。
そして、目配せによって指名された三人のなかでは最年長となる若者が口を開く。
「聞いてもいいか」
「運搬賃の割引以外なら聞いてやる」
自らの要求に勝者の余裕と言わんばかりに返ってきた冗談という形に変えた肯定の言葉に頷くと、勇者の肩書を持つ若者の口がもう一度開く。
「どう見てもおまえたちは俺たちと同業である冒険者には見えない。いったいおまえたちはここで何をしているのだ?」
おまえたちは野盗か?
それがその若者の問いの真意となる。
少しだけ時間がかかったもののそれに辿り着いた男は下品な高笑いをし、それから答えを口にする。
「たしかに今やっていることだけを言えば野盗に見えるかもしれん。だが、これでも町と村をいくつか支配しているのだから厳密には野盗ではない」
「なるほど」
若者は納得するようにそう言った。
だが、ここで終わりにするわけにはいかない。
なにしろ必要な情報はすべてこの男から手に入れなければならないうえに、男の言葉には気になる情報も含まれているのだから。
少しだけ警戒の色を込めた若者がさらに尋ねる。
「俺たちはラフギールの出身だ。そして、一年前に帰ってきた時にはこんなことは起こっていなかった。おまえたちはいつからここで商売を始めた?」
そう。
彼らの心配とは、故郷が野盗に狩場になっているのではないかということだった。
もちろんイエスといえば即戦闘開始となるところだったのだが、幸か不幸かそうはならず。
「実を言えば、ここに来たのはついさっきだ。つまり、もう少し早く帰ってきてればこのような形で俺たちに出会わなかったということだ。まあ、最終的には同じことになっていただろうが。ついでに言っておけば、おまえの言うとおり、ここは野盗が商売するには不向きらしくおまえたちが最初の客だ」
男の言葉に三人の警戒レベルは一段階下がる。
若者の問いは続く。
「それでその前はどこにいた?」
「少し前まで隣村のアガタウィー。そして、その前はグレンモアランだ。そこが俺たちの故郷だ」
「見たところあんたが親分に見えるが、つまり、あんたがグレンモアランの現在の領主様ということなのか?」
「そうだ。と言いたいところが違う。俺は今回の遠征隊を率いているだけでこの組織の頂点はグレンモアランで俺たちからの報告を待っているお方だ。ついでに言えば、俺の部下が本隊を率いて町の反対側に待機している。俺はこいつらを連れてそこの迂回路を使ってきたついでにちょっと小遣い稼ぎを始めようとしていたわけだ。さて……」
男はそこまで言ったところで次の問いに移ろうとしたその若者を制する。
「時間稼ぎのつもりだろうがそろそろ終わりだ。最後に言い残すことがあれば聞いてやってもいいぞ。生首と一緒に家族に届けてやる」
その言葉を鼻で笑った若者はふたりの仲間に目をやり、それから黒味を増した笑みを浮かべ直す。
「どうした?何もないのか?それとも怖くて言葉が思い浮かばないのか?」
ニヤニヤと笑うだけの三人を訝しみ、尋ねる男の言葉に黒い笑みで応じると、先ほどの若者がゆっくりと口を開く。
「……いや。そうではない」
「では、なんだ?」
「簡単なことだ。おまえたちごときに頼む遺言などない。それに遺言を用意するには俺たちは若すぎる」
「というか、それは俺たちからあんたたちへの言葉だ」
「なんだと」
再度の問いに若者が突き放すように答えた直後、割り込むように自らの主張を押し込んできたのは三人の中で一番若い剣士だった。
怒りの色に染まった、短い言葉を突き返すように弟剣士が再び口を開く。
「あとで挨拶に行くときにおまえたちのボスに伝えてやる。おまえたちの最後の言葉を。もっとも俺たちは物覚えが悪いから代表のひとり分となるが」
その瞬間、剣士の言葉の一部分を強く否定するふたり分の心の声が漏れ出していたことはさておき、その剣士が言外に言ったこと。
それは、おまえたち全員をここで葬る。
もちろん飾り気のない無礼なだけのその言葉が意味するところはすぐに相手にも伝わる。
「言ってくれるな。このガキ」
「この数の差があって勝てるとでも思っているのか」
次々にやってくる罵りの言葉を三人はせせら笑いで応じる。
荷物を下し、黒い大きな剣を抜いた若者が三人分の気持ちを乗せたこの言葉を口にする。
「まあ、こちらはそのつもりだ。違うと言い張るのなら相手をしてやるからさっさとかかって来い」
もちろん勝敗はそれほど時間がかかることもなく決まる。
むしろ時間が必要だったのは二十人分の死体を埋める作業だった。
さすが勇者。
どんな敵であっても勝負がつけばすべてを水に流し手厚く葬る。
と言いたいところだが、彼らがそれをおこなったのには別の理由があった。
死体の隠避。
そして、それによる相手の行動の遅延。
それがその理由となる。
「これで最悪の場合でも時間稼ぎはできる。それで、これからどうする?ファーブ」
「……そうだな」
兄剣士の問いにファーブと呼ばれた若者は思案する。
もちろん町向こうにいるというもう一グループも倒すことは確定している。
問題は最短ルートである町を通りぬけるか、それとも迂回するかということだ。
「……とりあえず今日やるべき仕事を全部片づけてから町に入るべきだと俺は考えるがマロはどう思う?」
つまり、迂回路を進む。
それがファーブの選択だった。
普段ならこういうことを考えるのはアリストと決まっているのだが、彼がいない以上自分がその役をやるしかないのはわかっている。
だが、そうは言ってもそれが正しいかどうかはまったく自信がない。
その言葉にはそれがよく表れていた。
「そうだな。俺もそれがいいと思う」
「奴らの組織は意外にでかい。そして、グレンモアランで待っているお方とやらの指示がないかぎり町の略奪はできないようだ。これも現在は土の中であるボスの言葉からわかる」
兄剣士の言葉を引き継いだのはファーブだった。
「目の前に獲物がいるのに眺めているだけで手出ししないどころか襲うつもりの町に仕事を始めるまでは立ち入りもしないという行儀のよい野盗など聞いたことがない。そうするには当然理由がある。では、その理由で一番考えられるのは何か?ブラン」
「上から命令ということか?」
自らの問いに答える弟剣士にファーブは重々しく頷く。
「それしかあるまい。しかも、向こうで待っているのは土に埋もれたボスの子分。つまりグレンモアランのお方とやらの子分のそのまた子分。命令がなければ動けるはずがない。だが、一緒にやってきたボスの帰りがあまり遅いとさすがに心配になり部下に様子を見てくるように指示する可能性はある。その間に俺たちが本隊を叩けば様子を見に行ったそいつらを取り逃がすこともある。もちろん最終的にはそいつらも捉えられるが、そのためには労力が必要となる。その点奴らがやってきたコースを逆進すれば分散した奴らを取り逃がす心配もそいつらを探す手間もない」
「なるほど」
弟剣士の思考はふたりの年長者がすでに辿り着いていた場所にここでようやく到着する。
だが、そこからは早い。
誰よりも。
弟剣士の口が開く。
「そういうことなら、早いとこ町の向こうで待っているそいつらに会いにいこうではないか」
言動すべてが直線的な弟剣士の言葉に年長者のふたりはニヤリと笑う。
「そうだな。その意見に異論はない」
「俺も」
「では、出発だ」
それからしばらくして町の反対側で起こったことは詳しく語るまでもないだろう。
死者の数は多少多くはなっていたのだが。
「とりあえず一仕事終えたし、そろそろ町に入るか」