その魔法の名は……
そして、語るべきもうひとつは、窮地に陥ったファーブたちが頼ろうとした魔法についてだろう。
死者蘇生。
その名のとおり、それは死せる者を復活させる魔法であり、それは魔術師を志した者が一度は目指す魔法のひとつでもある。
だが、それと同時にそれは手に入れるのは不可能とされているものでもある。
治癒魔法を手にするにはそれに相応しいだけの知識と経験がなければならない。
それがなければどれだけ魔力量があっても習得できない。
これは避けることができない魔法の理である。
言うまでもないことだが、片手間で仕入れた薄っぺらな知識などでは会得できる治癒魔法もそれに相応しいものだけで、相応のレベルの治癒魔法を習得するためには結局その道を極めなければならない。
そして、この世界の医術を極めたとされるフランベーニュの大魔術師ファン・ファーレンでさえその魔法の入口にも辿り着けなかったということは、死者を蘇らせる魔法を習得するには人知を超えた知識が必要であることを示しているとされ、事実上その先には進めないことが常識とされていた。
つまり、会得は不可能。
その不可能と思われた究極の治癒魔法である死者蘇生をこの世界で唯一行使できる者。
それがフィーネ・デ・フィラリオとなる。
それは彼女がこの世界の人知を超えた医術を心得ている者であることを意味するわけなのだが、言うまでもなくその知識は彼女がこの世界に来る前に得ていたもの。
本人はこの世に生を受けた瞬間に神から与えられた加護のおかげと説明しているのだが。
彼女は自身が魔術師の素養があることに気づいたのは幼少のときなのだが、それからすぐに誰にも教わることなくほぼすべての魔術師が到達できない高度な治癒魔法を使いこなせるようになっていた。
そして、ある日、自身が殺した小動物に対して復活の祈りを捧げるとそれは蘇る。
ただし、代償を支払う。
それ以降魔法が使えなくなったのだ。
だが、三十日後、彼女の魔力は復活した。
その後、彼女は「死者蘇生」の応用魔法である「完全修復」、すなわち破損したものを完全な形に戻す魔法、それに関わる材料さえ揃えば、自身の望んだものをつくり上げる「完全再現」という魔法も手に入れた。
「……枷があるため、死者蘇生は簡単に使えませんが、完全修復と完全再現に関してはその枷はありません」
「そういう意味では、応用魔法であるふたつのほうが使い勝手はいいです」
そして、彼女がサイレンセストに開いた食堂で提供している料理の材料や米でつくった酒はこの魔法によって生み出されたものである。




