捕れた狸の皮算用 Ⅱ
クアムート攻防戦の序盤においてグワラニー率いる魔族軍は王族三人を含む約二千人のノルディア軍兵を捕らえた。
グワラニーはこの捕虜を囮として使い、更なる勝利を手にしたわけなのだが、この時点ですでに捕虜を多額の身代金と交換するつもりでいた。
……王族を含むこれだけの捕虜がいればこの戦いで使った大金も回収できそうだ。
グワラニーは誰もいないところでそう呟き、ほくそ笑んだ。
皮算用をおこなう心の声はさらに続く。
……なにしろ、こちらは三人の王族という切り札を手に入れている。情報によればノルディア王は典型的な血統主義者。つまり、どんなに吹っ掛けても相手はこの交渉から降りることはない。
……絞れるだけ絞る。
実はこの時点で前述の会議はおこなわれていた。
だが、ここでグワラニーにとって想定外の事態が起こる。
戦いが終わった後、周辺を探索していた魔族軍があの晩恐怖のあまりクアムート城包囲軍から逃げ出したものの疲労と空腹で動けなくなった兵士を見つけたのだ。
しかも、その数はなんと三千人。
以前なら全員なぶり殺しにしているところだが、抵抗しない者はすべて捕虜にせよとグワラニーに厳命されているうえ、捕らえた捕虜ひとりあたり金貨一枚という報酬もある。
当然のように彼らは司令官の言葉どおりすべてをクアムートまで連れて帰り、結果として魔族軍が捕虜としたノルディア兵は合計で五千人を超えるまでに膨れ上がることになったのだ。
誇らしげに大量の捕虜を連れ帰る部下たちを遠くから眺めながらグワラニーは後悔の念とともに大きなため息を漏らす。
……さすがにこれは多すぎる。
だが、生きて連れ帰るよう命じたのは自分であり、いまさらそれを取り消すわけにもいかず、また、捕虜とした者を理由もなく処刑にするわけにもいかない。
「魔術師長の間者検査に引っ掛かった者以外はすべて先客と同等の扱いにせよ」
連れてきてしまったのだからやむを得ない。
口にしたものの前につくはずのその言葉を心の中でかみ砕き、そのすべてを捕虜とし好待遇でもてなすようにグワラニーは指示を出した。




