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ドルレアック師が捕まってから、一ヶ月が経とうとしている。何かが吹っ切れたのか、それとも苛烈な尋問があったのか。どうか前者の方であって欲しいけれど、親玉だったドルレアック師の自白によって、貴族界の闇が洗いざらいぶちまけられて、上へ下への大騒ぎになって。大量に上層部の人間が連行されて、司法・行政の勢力図は大きく書き換わった。
まだその大騒ぎが収まったわけではないけれど、俺個人の身辺は大分落ち着いて、つい最近ようやく俺がロレーヌの血を引く末裔であることが認められて、屋敷だの財産だのの正式な所有権が手に入った。俺が財産なんて管理が面倒くさいからと、まるっと寄付に回してしまったら、サミュエルに呆れて説教されたけれど、俺は正しい選択だったと思っている。
ただ、屋敷の方は先祖代々に伝わる、俺にとってもサミュエルにとっても思い出深い場所だったから、返してもらえて本当に良かったと思う。それから少しずつ掃除をしているけれど、広大な屋敷の掃除はやってもやってもキリがない。それはまあ、広いというのもあるけれど、俺がしょっちゅう気になるものに手を止めてしまうからでもあって。
今日も書斎の掃除をするつもりで来ていたけれど、面白そうな本に出くわすたびに手を止めていたものだから、一向に掃除が進まずにいた。
「あっ、ここにもあったんだ」
薬草大全
記憶の薔薇を育てる時に、俺がサミュエルから借りた本だ。植物を育てるのが好きな俺は割と重宝してるけど、全部に目を通したことはない。つい手に取ってパラパラとページをめくり、リコレクション・ローズのページでふと手が止まる。そこには一枚のカードが挟まっていた。何の気なしにそこに書かれた文字を目で追って、思わず息を呑んだ。
『Letitia・Felix』
その字は身に覚えの有り過ぎる、神経質でしかし流麗な筆記体。引き寄せられるように手を伸ばし、指先がそのカードを掴んだ瞬間、怒涛のように何かが俺の中に雪崩れ込んでくるのを感じる。温かくて、優しくて。俺はこの気配を知っている、と。確信的にそう思った。
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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