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『殺すなっ!』
耳元に叫び声が響いて、全身に衝撃が走ると共に硬直する。
この感覚を、嫌というほど知っている。感覚共有だ。それも無理矢理に、全身を乗っ取られている。こんな使い方があるなんて聞いていないと怒りを覚えながら、全力で身体を取り戻そうと藻掻く。
『何考えてるのサミュエル、貴方の師匠だよっ?』
『それでも、この男のせいでディアナは!』
『母さんは、俺を産んだから死んだ。それは貴方も知ってるでしょう』
『違うっ……お前は、お前は悔しくないのか?憎くないのかっ』
『悔しかったよ!憎かったよ!それでも、それでもドルレアック師を殺しても、母さんは帰ってこないっ』
彼の言葉に、呼吸が止まった。
この男さえいなければ、フェリックスは家族を失わずに済んだ。私はディアナを失わずに済んだ。誰もが幸せでいられたはずだった。この男を憎むなと言うのなら、私はいったい何を憎めば良い。何を拠り所に立てば良い。どうやって、何のために生きろと言うのか。
『サミュエルがドルレアック師を殺したら、何も分からないままに全てが迷宮入りだ。貴方はただの人殺しで、下手すれば死刑……また、俺を独りにするの?』
「どうした、サミュエル。さあ、撃て」
『やめて、撃たないで。幸せになれとか、勝手なこと言って、置いて行かないでよ。母さんのために死なないで、俺のために生きてよっ!』
それは、私が初めて聞いた、彼の願いだった。
生きる、理由。幸福であれと、何より願った愛し子が、私をまだ必要としてくれるのならば。
「……貴方は、それでも私の師匠だ」
銃を下ろす私に、師匠は唖然とした表情でこちらを見上げた。この人の驚いた表情など、生まれて初めて見たと、こんな状況なのに何だかおかしかった。
その瞬間、攻撃魔法を展開した特課の人間が、部屋に雪崩込んできた。
「……何事かな」
「ジャン・ドルレアック。国家反逆罪の疑いで身柄を拘束する」
素早く師匠を取り押さえる、訓練された特課の同僚達に目を見張ると、その後ろから飛び込むようにしてフェリックスが部屋に入ってくる。
「サミュエルっ、良かった……ほんとに、良かった」
「これは一体、どういうことだ?」
「最後の黒い鍵があったでしょ。あれ、俺と魔力が直接繋がるようになってて、サミュエルが部屋を出た時点で聴覚を共有してたんだ。それでその間に人集めて、全員に二人の会話が聞こえるようにして」
私は絶句して彼を見詰めた。結局は、この男の手のひらの上だったというわけか。いや、どこまでが計算ずくなのかは分からないが、それでも背中を冷や汗が伝う。
「っ、君がロレーヌ家の末裔だったとはね……なるほど、やられたというわけだ。知らず、可愛がっていたとは」
見れば、フェリックスは本来の姿、銀髪とアメジストの瞳を衆目に晒してしまっていた。
「それでも……俺はドルレアック師のこと、大好きでしたよ」
寂しそうに微笑むフェリックスに、師匠は目を見開いて、どこか眩しいものでも見たかのように目を逸らした。それ以上は何も言わずに、堂々と胸を張って連行されていった彼を、我々はいつまでも見送っていた。
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