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「大分、落ち着きました。ありがとうございます」
「いや、お前さんから相談事なんて珍しいからな……あんまり独りで背負うんじゃないぞ。押し潰される前に、誰かを頼れ。どんなに迷っても、たった一つ、自分の信じるものだけは見失うな」
たった一つ、自分の信じるもの。それが何か、私の心は、きっともう知っている。
「じーちゃん、お茶ちょーだい」
目が疲れたよーと、ぐりぐりと目をこすりながら奥の部屋から出てきたフェリックスに、さっきまでの自分の悩みやら何やらがひどくバカバカしいものに思えてくる。
「自分で淹れろ、バカ息子」
「えぇ、俺が淹れたら、折角の高い紅茶が渋くなっちゃうじゃん。もったいないよー」
「ふん。お前に淹れる時は、やっすい量産品の茶葉しか使っとらんわ」
「えぇっ、うそ、全然知らなかった!ひどいよ、じーちゃん!」
頬を膨らませて抗議するフェリックスに、クレメール師は腹を抱えて笑いながら紅茶を淹れてやった。
「んーでもやっぱり美味しい気がするんだよな」
首を捻りながらゴクゴクと飲み干す姿に、呆れて苦笑していると、クレメール師はくるりとこちらを向いて似たような顔で肩を竦めた。
「じーちゃん、ごちそうさま!俺、行かなきゃいけないとこできたからっ」
いそいそと席を立つフェリックスに、私は驚いて立ち上がる。
「おい、眼鏡もなしに、一人で大丈夫なのか」
「うん。何度も行ってる道だから、多少見えなくても大丈夫。サミュエルは、先に帰ってて」
「あっ、おい!」
出て行ってしまった彼を追い掛けようとした私に、クレメール師は首を振って押し留めた。
「ロレーヌの屋敷だ。一人で行かせてやれ」
その言葉で、頭から冷水を浴びせられたような気になって、息が詰まる。ロレーヌ家の屋敷は、あれから廃墟となって捨て置かれていて、悪戯好きで冒険心のある子供ですら近寄らない。大貴族であったにも関わらず、屋敷の一角にひっそりと犠牲者の墓が作られたきりで、我々以外には誰も墓参りをしようとするものさえいない。
「たまにな、ああやって何か思い付いたみたいに、真剣な顔してあの屋敷に走っていく。それで大抵は、肩を落として帰ってくるんだがな。あれはあれで、何か思うところがあって、あの事件のことを調べてるんだろうよ」
そんなこと、これっぽっちも知らなかった。いつも楽しそうで、何の悩み事もない天真爛漫な子供を演じているだけで、彼は紛れもなく事件の当事者なのだ。誰よりもずっと、事件の真相を知りたいに決まっている。自分が生まれる落ちる前から、全てを奪っていった者が誰なのか。知りたいに、決まっているのに。
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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