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私は絶句してフェリックスを見詰めた。まさか、計算してやっていたのだとしたら、どれだけ空恐ろしいガキだ、それは。驚愕している私を見て、フェリックスは真剣な表情を、ぱっと崩してイタズラっぽい表情を浮かべた。
「なんて、ね。入局式では、久々にサミュエルに会えてテンション上がっただけだよ」
驚かせるな、と思う。だが、そんな事を言うのも癪に触るので、鼻を鳴らして視線を逸らす。
「ねぇ俺、貴方の隣に立ちたくて頑張ったんだよ。暫定でもいいからさ、パートナーにしてよ。俺にそれだけの価値があるかどうか決めるのは、それからでも遅くないでしょ」
私を目一杯に見上げながら、真っ直ぐに向けられた視線は、あの冬の日のように私を貫いた。
「……暫定だ。使えないと思ったら、即座に下ろす」
「ありがとう、サミュエル!」
飛びついてギュウギュウとしがみついて来る熱量に、今だけは仕方ないかと苦笑しつつ、何となく大型犬でも飼った気分でワシャワシャと頭を撫でてみる。気付けば外聞も立場も年齢も、今この瞬間は人生を懸けて背負うべき贖罪の事すらも忘れて、その体温を腕に抱いていた。たった一週間の出会いでも、我々の間にはそれ以上の繋がりが確かにあった。
こうして彼を抱き締めていると、息子か弟でもいればこんな感じかも知れない、と肉親にも似た情を抱く。それは総じて彼が『フェリックス』であり、ディアナの息子だからであるのだろうが、しかしそれだけでは無いのだろうということも解っていた。
彼は彼自身の足で、ここにやって来た。そしてそれが、それこそが、真実なのだと。
「入局、おめでとう……フェリックス」
万感を籠めて名前を呼べば、彼がビクリと震えて息を詰まらせるのを感じた。自信に満ちていた瞳が迷子のように揺れて、ああ、この子供も不安だったのだとようやく気付いた。
何一つ持たない幼子が、たった独りで。大魔法使いの門戸を叩き、実力で周囲に自分という存在を認めさせ、子供には到底耐えられないだろう試練を突破して、特課に入局する資格を手に入れて。私にそこまでされるだけの、価値があるのだろうかと、自問するまでもない。
それでも、私は彼にとっての唯一になってしまったのだと、認める他はないだろう。ディアナが私にとっての唯一であったように。自惚れでも勘違いでもなく、この子供は本当の意味で私に拒絶されることを、何よりも恐れているのだ。家族もなく、友もなく、誰を信じれば良いのかすら覚束ず、初めて彼に伸ばされた手が私だった。つまりは、そういうことだ。
ぎこちなく不自然に抱き合う、ちぐはぐな二人はどこまでも不器用で、そんな関係のまま今に至る。
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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