18
五年前の、約束。もう忘れてしまっているかも知れない、と思っていた。幼子の記憶など、当てにならない不確かで直ぐに忘れ去られてしまうものだから。それでも、私は確かに待っていた。信じていた。あの日の約束を。
……だが、それとこれとは話が別だ。あんな公開処刑をしでかしてくれた奴と、何食わぬ顔でパートナーを組んで仕事を出来るほど私の神経は太くなかった。
「サミュエル」
「却下だ」
「これでも俺、すっごく苦労してここまで来たんだよ。ちょっとは褒めてくれても良いんじゃない?それに、俺みたいな『かわいい』子供を無碍に扱っていると、サミュエルの評価にも響くんじゃないのかな」
「お前みたいな子供がいてたまるか」
「それ、対等な大人として扱ってくれるってこと?」
どこまでもポジティブな脳味噌に血管が切れそうになるが、ケルベロスの実力主義は伊達じゃないし、それを乗り越えてきたのだからイヤでも対等な者として扱わなければ失礼に当たるというものだろう。
「それに、今更どう思われようと知ったことか。冷血無慈悲な魔法使いとして通っている」
「それは、問題あるんじゃないかなぁ……?」
間延びしたような声に溜め息を吐く。
「とにかく、私はお前と組むつもりはない」
「えぇ、たかがパートナーじゃない?」
「お前と一緒に住めと」
「住んだこと、あるでしょ」
こてり、と首を傾げる危機意識ゼロのアンポンタンに、無言で腕を引き、人の立ち寄らない資料室に入り込むと鍵を掛ける。防音の魔法を念入りにかけ始めた私に、フェリックスがおずおずと告げた。
「あのぉ、認識阻害系の魔法なら、俺がかけるよ。得意分野だし」
私が舌打ちして、それでも任せる意思表示をすると、彼はするすると扉や壁をなぞる過程だけで、防音魔法、気配を消す魔法、人避けの魔法を重ねがけするという離れ業を披露した。
「ね、かなり便利だと思うんだけど、隣に置いてくれない?」
「私自身の感情の問題じゃない。お前は危機管理能力が無さ過ぎる。どこに耳があるか分からない状況で、五年前のことを口にするなど。あれがバレれば、懲戒免職どころじゃ済まない。今まで積み上げてきたものが、全て無駄になる。お前が近くにいるほど、リスクは高い」
「それもう、今更な話だと思うんだけど?それに俺が、あれだけ派手にやらかしたから、逆に怪しむ人は少ないと思うよ。何も知らない人が見れば、俺の師匠もサミュエルの師匠も有名だから、師匠同士の繋がりで知り合いだったとしか思わないだろうし。それに、今日ので俺からの一方的な勘違いの尊敬、みたいな構図が印象付けられたでしょ。局長のお墨付きが出たパートナー関係なんだから、執拗に嫌がるのはかえって得策じゃないと思うな。サミュエルの師匠でしょ?断るのも角が立つと思うけど」
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
お気に召して頂けましたらブクマ・評価★★★★★お願いします。
『塔の上の錬金術師と光の娘』こちらもあわせてどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n5927gb/




