17
思い出せば苦い後味しか残らない、フェリックスの入局の日。
周囲の新入局者よりも、ずっと低い背に幼い顔立ち。肩の辺りまでの柔らかな金髪、シャープな眼鏡の奥に覗く、あの日見た青空のように澄んだ瞳。噂と『あの』クレメールの養子と言う地位ばかりが先立って誰もその姿を知らなかったため、人間たちの信じているらしい『天使』のような容貌に、会場が色めき立った。
小さいとは言えども、それは大人達の列に並んでいるからであって、あの日よりもずっと伸びた背で堂々と壇上に立つ姿に、自分が育てたわけでもないのにどこか誇らしい気分ですらあった。そもそも、私達の過ごした時間など、たったの一週間だったと言うのに。
スラリと美しい姿勢で、気負うことなく立つ少年は、生まれながらの王族のようだった。その高潔で美麗な佇まいに、会場のざわめきが静かに引いていく。そんな傍目には分かりにくくはあったが、確かにその瞳はゆったりと会場を見渡していた。
バチリと視線が合い、これはマズいと思った時には既に遅かった。
「サミュエルっ!」
そう叫んで盛大に手を振ったフェリックスに、誰もが目を剥いて私と彼を見比べた。
『まさか、サミュエルって、あの?』
『うっそだろ、名前呼び捨てとか』
『そもそも、面識あったのかよ……なんか、めっちゃ親しそうじゃん』
『いや、そもそも、あのド・マルジェリに懐くとか』
周囲の声に、人並みの羞恥心を持ち合わせている私は、赤くなるどころか通り越して青褪めて体温が下がっていくのさえ感じていた。私の反応がないので、どうやら気付いていないと思ったらしいフェリックスは、首を傾げて更に声を張り上げた。
「あれ、わからないのかな……俺だよ、フェリックスですよ!サミュエールっ!」
「やかましい、聞こえておるわっ!時と場所を弁えろ、この阿呆がっ!」
我慢の限界を越えた私に怒鳴られたフェリックスは、一瞬何を怒られたのか分からないという顔で目をパチクリさせて、ようやく自分が何をしでかしたか気付いて赤くなった。
「済みません、ドルレアック師!つい、はしゃいじゃって……」
「いやいや、失敗は誰にもあるものだ」
局長、もとい私の悪辣な師匠は、柔和な笑顔でフェリックスの愚行を許した。それどころか。
「むしろその情熱で、ぜひとも、あの馬鹿弟子の偏屈を叩き直してやってくれ。パートナーとしてね」
「……どういう事ですか、局長」
「新しい君のパートナーだ、サミュエル。喜べ。天才児にして、何故か君の信者。この上ない優良物件だろう」
「ぜっっっったいに、イヤです」
そんな私の拒絶は、当然のごとく黙殺された。
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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