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狐音幽荘物語  作者: かずや


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千年の先を見る狐音

 ——タカの儀式から二十年近く経っていた

 世の中は高度経済成長期で暮らしは更に変わっていた。

 国力は伸びに伸びて世界の水準より飛び抜け日本国内は新幹線や高速道路といったインフラが発達。

 テレビや洗濯機、冷蔵庫の普及。

 自動車はより安全に手軽にと国内の発展は目覚ましすぎた。

 一方で懸念していた問題も加速していた。

 土地開発による自然破壊、排気ガスや川に流れだす有毒な物質。


 幽導村にも影響があった、そしてそこに住まう幽荘の人ならざる者達にも……


「狐音さーん起きてくださいよ〜お掃除しちゃいますよ〜」

 スズメの声が響く、あれからスズメは変わらないまま村の様子を見たり狩りをしたり。

 意外と世話焼き体質だったのか、それとも人の世に浸かり開花したのか働き者で、気配り上手な幽荘の柱である。

「スズメさん無駄ですわよ〜狐音姐さん最近テレビに夢中すぎて釘付けですもの〜」

 宥めるのはユウメ、彼女は不定期に現れる謎のスーパーモデルとして世界的な人気を集めていた。

 彼女を知る者は「五年前と変わらない美」、「二十年前からいないか?」とオールドファンと呼ばれるファンまで付いている。

「狐音姐さん〜私今日は孤児院に行きますからね〜?」

 ユウメは幽荘では受けきれなくなった人間の孤児の面倒をよく見ていた。

 街に出来た孤児院に出資もし、イベントも開催している。

「私はタカさんの所向かいますからねー?」

 スズメは二十年前に幽荘を卒業したタカと交流を持ち続けている。

 タカは年齢的に五十代後半になり、写真を見たがしっかり年相応になっていた。

 しかし、妖狐の力の影響は収まりきっておらず若干だが普通より老いが遅い。誤差の範囲だが身体に馴染んでしまったと思われた。

 それでも受け入れてこの地域にも名が響く猟師となり、スズメの師匠にもなる。

「そう言えばスズメさん聞きましたか〜?狐子さんが万博のスタッフやるって」

「あ!聞きました〜酒造から日本酒を提供するまでに成長させたって凄いですよね〜」

 狐子、狐音の半身であり双子の妹。

 生み出されて三十年余り全国を旅して周る中で酒の目利きに特化した、その特技を活かして幽荘の山向こうにあった古くからの酒造の経営者となり定住している。


「全く、儂はその世界の最先端を集めた博覧会が気になるのじゃ」

 

 狐音は以前と変わらぬ体力を取り戻し、日々を過ごしていた。

 人ならざる不思議な力は衰えてしまったが、尻尾は一本再生してきた。あと二百年もあれば力も復活するだろう。

「狐音のねえちゃーん」「きつねー」

「む?子供らが来たか」

 狐音は外に出た、小さなわんぱくそうな小僧とそれにベッタリ付くおとなしげな少女。

「これ、お主ら両親に言って来たか?」

「言ったよ」「私も」

「ならば良い、おーいリュウメー!ジャノメー!」

 狐音の呼び声に幽荘の扉が二つ開く。

「何かしら狐音さん?」

 少し大人びた少女のリュウメ。

「俺眠いんだけど……」

 柄が悪そうな顔つきだが心清らかなジャノメ。

「にいちゃん達遊ぼ」


 村の子供に手を引かれリュウメとジャノメは走っていく……あの二人は神の系譜、自然が変わり土地が減り生まれた時代の神体だ。

 スズメは山と鳥を司る神だが、そこまで大きくはない存在。

 だからこそ、そこまで身近な範囲に世界の開発速度が迫っている証でもある。

 幽導村も数件の民家を残すのみとなり、いよいよ廃村になるだろう。


 二十年前、タカの儀式により消滅仕掛けた狐音の回復を見届け、静かに去った化け狸のヨウリ。

 不定期ながら手紙は来ていた、と言っても写真のみだが。

 一度だけ文が付いて「写真家になった」とユウメがモデルをしていたファッションショーの一枚と共に送ってきた。

「全く、男と言うのは言葉が足らんのじゃ」


 狐音は遠くに遊ぶ子供達を見ながら想いを巡らせる。


 千年以上前、この地で自身の形を作りただただ眺めた平安時代から江戸の終わり……

 いつからか土地神の異名をつけられて生贄を捧げられ、そんな繰り返しの退屈を終わらせた男、九兵衛の出現。

 出会いは山の洞穴、遭難を聞いて気まぐれに生死を確認しただけの戯れ。

 時代が進むにつれて世界は加速し、国は戦争を始める

 そこから狐音は初めて動乱を感じ、人について知る事が増えた。

 そして、大きく静かで一番人の想いを感じた九兵衛と別れ。

 妖狐と人は生きる時間が違う、そう言い続けてきながらも葛藤は生まれる。

「助けても儂より先に死ぬ」の考えが「短い寿命の中で想いを繋ぐ」と人への考え方が変わっていく。

 千年の時以上の生きる密度を数十年で詰め込んだ。

 人の世の中は目まぐるしい、もう神を崇め奉る時代は終わり人が支配していく世の中だ。

 それでも人の本質、子供の笑顔は変わらない。

 妖狐としての狐音では無く、今は「狐音」として存在していた。


「危ない事するでないぞー!」

 狐音は子供らに向けて声を掛け、ゆっくり自室に歩いた。

 

 受け継がれた幽荘の主、狐音。

 高度成長期を抜けた先、世の中の姿はどうなるのか?

 そして、幽荘の住人はどう変わるのか?

 未来はもう予想すら出来ない、ただ狐音として幽荘を守り人を見て自身を見つめていく。

 今はそれで良い。

「儂は生きておるぞ、……九兵衛、皆よ」

 何かに向けて呟き、自室の扉をゆっくり閉めた。


 ——狐音幽荘物語 完

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