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狐音幽荘物語  作者: かずや


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千年を生きる狐

 古く平安の時から生きると言われた妖狐が居た。

 真偽は誰も知らない、人は千年も生きれないのだから。


 ——妖狐は持て余していた、昔から寝床にしていた所に人間が住み着き村を作る。

 戯れに人の形を取り溶けこんでみようとしたが、人は余りにも早く老い、些細な事で死ぬ。

 人々は自分が何なのかも知らずに死んでいく。

 妖狐からすれば楽しめたのは、ほんの最初だけであり、後は勝手に居なくなる存在に過ぎない。

 そんな中、人は噂を始めた。


「あの人は長く美しいまま変わらない、もしかしたら神か神に等しい存在ではないか?」


 人々は妖狐も想像しなかった想いを募らせだしたのだ。

 妖狐が神と扱われだしたのは理由がある。

 都から広がりだした飢饉が、ここ「幽導村(ゆうどうそん)」にも伸び、餓死者が出た。

 妖狐にはなんら関係も無い影響もしない事態だが、人は違うらしい。

 

 妖狐が人の形を取るのは、数が多く意思を持つ。

 それは人が見た異形に対しての恐怖から出てくる、あらぬ行動が鬱陶しいからだ。

 いつからか人は遥か昔から居た妖狐に祈りだした、しかし初めてではない。

 千年の間で波がある、人が危機に瀕した時に持ち上げられては忘れられていく。妖狐には何度もある事だった。

 そんな事が何十年何百年間隔で続けば、異名も付く。


「幽導村の土地神」


 妖狐はいつしかその異名を持っていた、本人は意に介さずではあったが、人々は祈りたい時に神を探すらしい。


「全く、儂は何もした事無いと言うのに」

 妖狐はまたそんな時期が来たかと言うくらいの感覚だ。

 神とは何か?妖狐からすれば人が都合良く生み出した象徴のような物で、人には無い能力やオーラが有れば崇められる。

 確かに千年生きてる時点で人には抗えない存在だろう、理解はしていたが妖狐は妖狐、人は人と割り切っていた。

 神通力と人が呼ぶ力を使えば目の前の者ぐらいは助かるだろう。

 しかし、妖狐からすれば意味が無い。

 

 だって、どのみち自分より先に死ぬのだから。


 存在する者の間で流れる時間が違った。

 それは、価値観や人生観の違いになる。

 たかだか零〜八十年程度の、それも吹けば消える蝋燭のような弱い命と、既に千年生きてこの先もまだ生き続く妖狐では違いすぎる。

 涙を流し血を流し自分に祈祷する人間は、蝉の命懸けで鳴く夏と変わりない環境音だった。


 ある日の事、飢饉の影響が収まらず餓死者は増えていく時だった。

 いつものように藁を積んだ寝床に丸まって寝ていた時、寝床の小屋前にドスっと何か投げられた。

「何じゃい……ふむ、赤子かの」

 まるで人形を捨てるように投げ置かれ、投げた者はもう居ない。力を使えばすぐに割り出せるが、する事も面倒だ。

 妖狐は赤子を見遣り、踵を返してまた寝床に戻った。

 一人で生きる力が無い赤子を数時間放置すればどうなるか?言うまでも無い。

 次に妖狐が起きた時には初めの赤子は亡くなり、別の赤子や幼児が置かれていた。

「……貢物と言う事か」

 ここまでくれば妖狐も察する、それだけ飢饉が広がり人は土地神に生贄を捧げてきたのだ。

「生憎と儂は人を食う趣味は無いでのう」

 妖狐は赤子達を見向きもせず、欠伸をして村の様子を見に行った。


 幽導村は小さな村である、その割に人口は多く飢饉前の平時では非常に穏やかな空気が流れていた。

 そして今、妖狐の前には地獄と化した村の有様しか無かった。

 村の者が神と崇めていた美しき妖狐が道を歩くも、人々は既に気力無く横たわる事しか出来なかった。

「ふむ、流石に今回のは滅ぶかもの」

 妖狐は遥か昔から村自体の移り変わりは見ていたが、今回は無くなるかもしれないなと見て思う。


「と、ち……がみ、さま……」

 自身の寝床に帰ろうとした際に村人の一人が振り絞って声を出す。

「む、ら……を……まも……」

 ゆっくりと最後の力を使い果たし二度と動く事は無かった。

「村を守ってか……お主は立派じゃのう、村長」

 今、妖狐の前で事切れたのは幽導村の現村長だった者だ。

 何度こんな状況を見てきただろうか、平安から変わらない定期的に襲われる人にとっての異常自体。

 何度土地神として祈られただろうか、平安から変わらない人の行動が行き着く先、祈り。


 それは気まぐれだった。

 妖狐は畑だった一箇所に手をかざし、()()()送った。

「儂が関与するのはここまでじゃ、後は時と共に耐えよ」

 妖狐はまた自身の小屋に帰って行った……


 あれから十年が経った。

 

 幽導村は奇跡的に残村し、生き残りと山を越え移住した者を合わせて復興しようとしていた。

 そしてそれは不思議な噂も相まって、人を呼ぶ事になっていた。


「幽導村への貢物が村を救った」


 妖狐の小屋は日々何かしらの物が供えられるようになっていた、さすがにもう赤子は無い。

 騒がしくなってしまった事に嫌気が差した妖狐は、小屋から離れひっそりと村人の一部に溶けこんでいた。


「おい、幕府から調査が来たぞ!」

「土地神の実を将軍が見たいらしいが、持ってかれるのか!?」

「ちくしょう!無能な政のせいで何人死んだと思ってるんだ!」

「やめろ!……お上に聞かれたら!」


 妖狐はその耳の良さで村人の噂話を聞いていた。

 こうなるであろう事は想定内であり、十年など妖狐の時ではほんの一瞬の事だ。

 十年前、畑にかざした力でいつまでも実り続ける果実の種を贈ったのだ。

 芽を出し五年程で実りを見せた果実、人は土地神の施しと崇めて特別な物としていた。

 その、噂を聞きつけた幕府から使いが派遣。村人は大飢饉にまともな対応が出来ず、各地で一揆が起こって間がない不満と、土地神の果実を持っていかれる不安で爆発寸前だった。

 時の権力者達にも様々居る、妖狐からすれば人世界の事だが介入すれば、度々こういう事が起きてしまう。

 妖狐は静かに立ち上がり、まだ人が自身を土地神と認識している内にケリをつける事にした。


 ざわざわと見届ける者達。

 飢饉を抜けて復興を見せる者達に取っては、妖狐が何をしに来たのかがわからない。だが何かが起こると野次馬的な面もあった。

 妖狐は十年前に自ら贈った実の前に立ち、手をかざす。

 それは誰もが神聖な空気を感じ、妖狐を見る事しか出来なかった。

 そして、実は全てを枯らし、最初から無かったかのように土しか無くなっていた……

 

「え……?」

「土地神様!何故!!」

 妖狐は何も言わずに元々居た村外れの小屋に帰って行った。


 ——後日、幕府による使いは何の成果も得れず、土地神の果実は噂の物。

 その出来事も忘れられるまで三十年程だった。


 妖狐は持て余していた、薄い出来事だらけの我が人生に……

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