第16話:〔クラスターシープ討伐戦〕
前回のあらすじ
戦艦級のシープを捕まえたシュヴァリエ。しかし、ヴァンドラは敵集団を殲滅するため、Sクォーツのエネルギーを濃縮した主砲を発射。直線上の星々もろとも何一つ残らない。宇宙に永遠に残る傷跡をつけたのだったーー。
シープの集団と戦いを終えたシュヴァリエは捕らえたバトルシープの体内を歩いていた。体内には通路が張り巡らされ、巣のように小部屋が点在している。新入りの洗礼として先頭を歩かされたハヤトは薄ピンクの肉壁に手をついた。センサーによって手袋越しに生暖かさが伝わってくる。部屋の中には戦闘に参加しなかったシープがボールのように身を丸めて眠っている。
「いた……!」
三角形の赤いターゲットマークが丸くなったシープに重なる。その数3匹。
ハヤトは指で数字を示して腰に下げた缶型爆弾のダイヤルから爆発範囲をセットした。それを入り口からころがす。
寝転んだヒツジたちはそれに気づくこともなく前足と腹の柔らかな毛のなかに吸い込まれるように埋まった。
ボンッ……!!
鈍い爆発のあとに黒い煙が天井に広がった。とくに声もかわさず分かりきったように内部に走り込む。滲む視界の先に肩を突き出し、記憶をたよりに突進する。
手ごたえを感じて盾を振り上げる。そのまま壁に押し付けて身動きを封じた。悲鳴のような鳴き声を発して悶えるシープの首をスマートナイフで切り裂く。
首が落ちてもまだ動く胴体。地面に落ちた頭から色白の細長い8本の足が生えて立ち上がる。ハヤトが踏みつけようとすると、鎧を纏った別の誰かがそれを切りつけた。
「部屋は片付いたみたいだね」
ヘルメットの視界にミシロの緩んだ表情が映り込む。直刀を腰の鞘に戻して彼女の機体は怠けるように床に寝転んだ。
「おいお前たち。片付いてない部屋はまだある。今日寝る部屋が欲しいならもっと片付けてこい!」
別枠でピンクのキノコのような毛髪に目つきの悪いケバケバしい少女が回線に割り込んでくる。
「え〜? 給料分は働いたんじゃないのー?」
足をバタつかせていたミシロが面倒そうに立ち上がる。ハヤトは口答えもせず、淡々と次の部屋を解放するために武器を確認した。
こうしてチラ隊長率いる白と赤の機甲服を身に纏ったエルピス小隊は巨大なシープの体内をコアルームを目指して進んでいった。
火炎放射や爆薬を流し込んで残った小型種を殲滅する。それが終わると通路にはレーザーシールド、あるいはモーションセンサーを設置してコアルームの安全を確保した。ドーム状の部屋の中心に菱形のクリスタルが上下から肉に挟まれて露出している。その光と熱でこの部屋だけは異様に明るく暖かかった。
「体内に点在する生体反応はひと通り消したが、まだ羽化してない個体がいるかもしれない。気を抜くなよ?」
チラ隊長はそう言ってバックパックから工具を取り出した。コアクォーツの根本の肉に数本の針のような電極を刺してそれを機体腕部の端末に繋いだ。
「エルピス小隊。バトルシープを制圧。制御装置の接続をいそげ」
隊長が外部に通信回線を開いて外から近づく小型艦に連絡している。
「制御装置?」
「知らなかったのかい? これ、シープを捕まえる任務だよ?」
「え?」
ミシロの言葉にハヤトは固まった。成り行きで着いてきただけのハヤトは任務内容を知らなかった。ここにきてはじめて任務の全貌を把握した。復帰して早々ハヤトは気まずくなった。
「これだけの大仕事だったんだ。報酬は一カ月分くらいはほしいな」
「どうだろねぇ?」
そうこうするうちに揺れと騒音がコアルームを揺らした。天井からドリルの先端が突き出てきた。技術に長けた隊員がなにやらドリルとクォーツの四隅に機械を取り付けて繋げている。
「全員静粛に! 技術部長からのお言葉だ」
チラ隊長の大声でそれまでざわついていた空間は動きが止まった。
『きこえるかしら? 開発倒れになったロングソード級突撃艦を流用して、制御機構をシープの背面に取り付けたの』
目の前に銀髪の女性が映る。耳元のイヤホンからする大人びた声は安っぽい音質でこれからやるべきことを指示してきた。
『シープの再生能力、推進能力。すべてを掌握したはずよ。ためしてみて』
たまたま目があってしまったハヤトにチラ隊長は顔が見えないにも関わらず、無言のまま顎でやれ、と命じた。
セリア部長の指示に従ってモニターとゲーム用コントローラーをドリルの側面につなげる。いくつかのシステムが同期され、モニターには死骸まみれの宇宙が映った。コントローラーを握って右に操作するとこの巨大なバトルシープが同じように動いた。さらにボタンを押すと奇怪な鳴き声が響いた。それを聞いて隊員たちに笑いが広がった。
「まるでオモチャみたいだ!」
すっかり緩んだ隊員たちをよそにチラ隊長は神妙な面持ちだった。
「こんなふざけた乗り物でなにをする気だ?」
『見かけはともかく性能は地球のどの船よりも優れているわ』
セリア部長はそう言って画面の枠外に去ってしまい、次に現れたのはファル大尉だった。
『任務内容はオレから伝える』
「任務だって!? 大尉。どういうつもりだ? 連戦は契約違反だろ!」
チラ隊長は部下が組み立てたばかりの机に両手を叩きつけた。機甲服のパワーも加わって机が弾けるように壊れた。画面の中にいる大尉は頭を掻いて戸惑うばかり。それには答えない。話を逸らすように次の任務を知らせた。
『増援のシュヴァリエと陸戦隊が上の艦に乗っている。足りない装備は分けてもらえ』
「どうせ後払いなんだろ? 弾代ばっかで儲からないんだよ!」
チラ隊長の言葉はごもっともでハヤトは頷いて密かに同意を示した。
チラ隊長と大尉の問答がしばらく続いたものの、結局逆らうことなどできるわけもなく、組み込まれた制御装置によって生ける屍と化したバトルシープ共々シュヴァリエ隊は入力された座標をたよりに数十分のワープ空間に入ることになった。
「正面に敵の群れ。総数不明!」
青白い光に満ちた空間から通常空間に戻った瞬間にバトルシープの先には行く手を阻むように巨大な白い壁があった。普段なら全域を覆う光線が飛び交うような距離でも静けさを保っている。
「あの中にいるのか……」
「さぁ、何人生きて帰れるかな?」
ミシロは不敵に笑った。
「1人は生きて帰るだろうな」
ハヤトは皮肉を込めてそう答えた。
シュヴァリエを隠した大型種は完全に仲間と認識されているようで、シープで構成された壁に溶けるようにめり込んで先へ進んだ。
「視界ゼロ。レーダーの類も役に立たない」
「操舵手。クラスターシープの位置を特定できるか?」
「レーダーが反射しないんで完全な暗闇ですよ。群れを抜けることを祈るしか……」
チラ隊長と操舵を担当する隊員の会話は薄暗い敵の胃の中ということもあって皆を不安にさせた。
液体のように振る舞う羊たちの群れはほとんどの計器が意味をなさず、バトルシープの上部にコバンザメのように張り付いているロングソード級の船外カメラにも何も映らない。
「いくらクラスターシープが星みたいにでっかくてもこんだけいたら砂みたいなもんじゃん」
誰かが不安に駆られて誰もが思っていたであろうことを口にした。動揺するようにざわめきが起こる。貧者を寄せ集めたシュヴァリエはプロの精鋭ではない。武器や装備はシープと戦う特性上ほかのどの軍隊よりも強力だが、一旦士気が下がると総崩れになる危険が極めて高い。ハヤトはさりげなくモニターに近づいてこう言った。
「レーダーを見ればわかる。中心方向はほかより重力が強い。ボスと同じで、いるなら真ん中だ!」
自信をもって答えた。さらに信じやすいようにモニター画面にある一際強い重力値を指差した。その方位はまさしく中心を指している。これは好都合だった。
それに気づいた隊員たちは徐々に落ち着きを取り戻していった。すぐにこれから狩りにでもいくかのような陽気さが戻ってくる。
混乱を鎮め、一息つくと隣に座っていたミシロが話しかけてきた。
「よくわかるね?」
「適当に言っただけだ。確証はないがいるならそこしかない。本能がそう言っている」
「だと思ったよ。まるで見たことあるみたいに言うんだからねぇ?」
「きっといる」
ヘルメットのバイザー越しに疑いの目で見つめられ、ハヤトは静かに答えた。
別の場所ではチラ隊長と数人の部下たちが作戦の話し合いをしている。ハヤトはチャンネルを合わせてそれに耳を傾けた。
「クラスターシープの直径12万キロ。ほとんど地球と同じ大きさだ。仮にAST-1で80キロの巡行速度で走ったとして数日かかる」
「それじゃコアを破壊する頃にはメルタもヴァンドラも爆縮圏内じゃねーかよ?」
「そう。だから多少ムリをしてもこのまま中心部に近づかなきゃならない。その点、このバトルシープなら中身は風船みたいなものだからコアをやられないかぎり沈まない」
「このまま体当たりするか、コアクォーツを爆弾にしてしまえばいい。メルタでは銅像が立つかもな」
さまざまな作戦を考えているようだった。しばらくして船外カメラの映像に変化が起きた。ついに群れの中を抜けたようだった。
「群れのなかに空洞がある!」
チラ隊長が驚きの声をあげる。
「重力が強いから小型種は近寄らないんだろう。あるいは……好きじゃないのかもな」
ハヤトは嫌な予感を感じて呟いた。
クラスターシープがいるエリアにはまるで避けるかのように中心にいるクラスターシープから大小さまざまなシープたちが一定の距離感を保っていた。近づくにつれてコアクォーツが放つ光が明滅し、光が不安定に揺れる。
「これ無限エネルギーの結晶じゃないのか?」
「一度に取り出せる総量は無限じゃない。きっとクラスターシープに吸われるから離れているんだ」
数千メートル規模のバトルシープでさえ点のような大きさにみえるほど、巨大なそれは肉団子に触手と目をつけたような不気味な形をしていた。
「手っ取り早く内側に入ってこれを自爆させようか」
操作端末にむかっていたチラ隊長が腰に手を当て背後で光り輝くバトルシープのコアクォーツに目を向ける。
クラスターシープの表面を蠢く放射器官と思われる部位から体内に入る。巨大なゼリー質の空間を通り抜けると内側はバイオームのような環境が存在していた。
バトルシープの背面に取り付いたロングソード級の船外カメラを介して水蒸気に満ちた空の下に茶色く荒れた大地があることが小さなモニターから知ることができた。
『コアエリアまで接近する。到着まで3分』
クォーツの光はコアルームが薄暗くなるほど弱まっている。ロングソード級から随時送られてくる連絡に息を呑む。
もう少しでクラスターシープの中心にたどり着くというところでコアクォーツに異変が起きた。
バトルシープの中はたちまち暗闇に覆われる。さらに胃が持ち上げられるような不快感が全身を襲い、最後に地震のような衝撃が続いた――。
「なにがおきたんだ?」
ハヤトが目を覚ますとヘルメットのシステムが再起動してUIを表示した。
「クォーツが力を失ったようだね」
薄明かりのなかでそばにいたミシロが言った。洞窟のような暗闇のなかをライトの光が錯綜するようにあちこちで揺れている。やはり一筋縄ではいかない敵のようだった。
〔コアへ〕
墜落した飛行機から這い出すごとくバトルシープから這い出してきた隊員たちの状態は散々だった。
墜落直前に離脱したロングソード級突撃艦の剣のようなシルエットが空に現れた。霧の中から頼もしいエンジンの轟音を響かせて降りてくる。
「救助をしている時間はない。悲しいが……。自力で歩けない奴は置いていく」
チラ隊長は口から血を流した隊員のそばに弾倉と銃本体をわざと別々に放り投げて歩き出した。
「なんであんなことしたんだ?」
新兵の問いに答えるように遠くで連続した銃声が鳴る。歩いていた隊員たちが身を屈めて走った。
「撃たれるからだ。生きた囮として時間稼ぎに使うんだろう」
ハヤトはそう言ってロングソード級のタラップをのぼった。
「やる事は変わらん。三方に分かれて進み、コアクォーツ手前で再集結。総攻撃をかける。いいな?」
飛行する機内でチラ隊長が命令を伝えた。
作戦としては、正面をシュヴァリエ2個小隊、陸戦隊2個中隊。計300名。左右にはそれぞれシュヴァリエ1個小隊と1個陸戦中隊、墜落のせいで少し減って計145名という少数の機動作戦だった。
ロングソード級はそれぞれの出発地点で車両と隊員を下ろして飛び去る。最後に残ったエルピス小隊は右翼側の進行を担った。
荒れた大地を進む軽戦車と部隊。平穏が続くかと思いきや、空から体長30センチ程度のオタマジャクシのようなすがたをした白い幼獣が小さな羽を振るわせて虫のような羽音をたてて空を飛んでくる。それは戦車や隊員に体当たりを仕掛けて自爆した。
突然の爆発に身を屈め、武器をとる。
「上からくるぞ! かなり小さいやつだ!」
咄嗟に長銃身ライフルを掲げ、空中に炸裂弾を放つ。飛んできた小型種が空中で破裂した。破片が機甲服に降ってきてトタンに砂利を浴びせたような軽い音を鳴らした。
緑色のヘルメットに防弾ベストを着た陸戦隊員は左右の空に武器を向けて薬莢を撒き散らした。古くから使われたライフルには自動照準装置の類は見当たらない。立ち止まった隊員たちが狙われて格好の餌食になった。
「撃つな! 前に進め!」
合同部隊の中隊長は戦車と陸戦隊を先に逃して空の守りはシュヴァリエが担当することになった。大口径長射程のライフルを生かして飛来する自爆種の迎撃を担う。
「障害物が多すぎる。レーダーが役に立たない!」
涼しい空気が循環する窮屈なヘルメットの中でハヤトは冷や汗を垂らして叫んだ。
時速800キロで超低空を飛ぶシープは多少の起伏でレーダー波の影に隠れてしまって、高性能ライフルと機甲服の頭頂部にのびたブレード型レーダーを使ったところで探知範囲は実質目視とそう変わらない。みつけた頃には迎撃が間に合わない。対シープライフルで何十体と撃ち落としても、すり抜けたやつが味方に被害を与えている。
いつしか攻撃が止んだころ、ハヤトはバイザーのスモークレンズを頭上に上げて倍率つきのクリアレンズで空を見渡した。白い霧が立ち込めた空と硬質の触手でできた森林は自爆種が隠れるには絶好の気候だった。直線的にならされた通りやすい道を車両が走っていく。障害物のないこの地形さえクラスターシープが身を守るための防衛機構の一つなのだとハヤトは感じとった。
「中隊長。部隊の再編を提案します」
このままでは勝てないと悟ったハヤトが車両のそばにいた深緑に赤線の軍服を着た中隊長に話しかける。やはりいい顔はしなかった。
「なんだと?」
「これは罠です。自然にこんな都合のいい道は存在しません。敵は我々の意図をよんで有利な地形に誘い込もうとしているんです。このまま進めば全滅する可能性があります」
「そんな余裕はないッ! ただでさえ最低限の戦力だというのに回り道をしてまで無駄な時間をかけるわけにはいかない!」
「そんなの戦車を走らせればいいだけのことですよ。部隊を散会させて敵の防御の隙間を抜けるんです」
「これ以上部隊を散会させるだと? 各個に撃破される危険が増えるばかりだ!」
階級差があれば命令は絶対。中隊長を激怒させただけで、まったく話にならなかった。
「だいたい階級はいくつだね? なんだ少尉か。こっちは大尉だ。余計な口出ししないでもらいたい」
「大尉が揃ってこんな感じなら俺はなりたくないですね」
ハヤトは呆れたように独り言を呟いて渋々背を向けた。
「あきらめがはやいねぇ〜?」
「階級が違う以上、引き下がって手をこまねくほか手はないよ。きっとすぐにわかるだろう」
「わかった頃には手遅れだよ?」
ミシロは病んだ笑みを浮かべて枯れた大地を行軍する隊列に混ざった。
「やるだけのことはやった。あとはどこまでいけるか……」
ハヤトは今後の戦いに備えて、車両の荷台からグレネードライフルや予備の弾薬を機甲服のバックパックに補充した。
それから数十分後……。霧がさらに濃くなり視界は数十メートルがせいぜいという悪天候のなか、さらなる敵が現れた。
「対空防御ー!」
中隊長の声に陸戦隊員たちが復唱を繰り返して道の左右に身を屈めた。30ミリ機関砲を備えた2両のAST-1が左右に砲塔を回して射撃をはじめ、速度を上げて霧の中に逃げ込んだ。快速を誇る防空能力に長けたAST-1も群がる敵に逃れることはできなかったようで、大きな破裂音のあとに砲塔を空高く飛ばして爆発した。
「敵は地上からもくる! 油断するな!」
チラ隊長とシュヴァリエ隊は機甲服の赤外線カメラを頼りに戦った。空からは自爆種。道の両側からは棍棒を手に二足歩行する太ったヒツジが立ち込めた霧に紛れて途切れることなく襲いかかってくる。
途切れることのない爆発音と銃声。
身長ほどもある長射程の対シープライフルでは近距離の取り回しが極端に悪く、しかも地面から無数に生えた触手が障害物の役割をしてみせた。地形の隙間を右から左に駆け抜けていく敵を上手く狙えず、隊員たちはときどき顔を出す敵を狙って銃を構えたまま身構えた。
「中央の主力はもう……通信がつながりません……おそらく壊滅したかと……」
円陣の中心では中隊長が通信兵と話しているのが聞こえてくる。ハヤトは音声ブーストをかけてそれを盗み聞いた。
「と、とにかく死守だ! 死守せよ!」
艦内都市の防衛が主な陸戦隊はとにかく戦闘経験に疎い、中隊長に愛想を尽かしたチラ小隊長はすでに受け持ちのシュヴァリエ隊をまとめて移動する準備をはじめていた。
そんなチラ隊長の足元に不運にも撃ち漏らした自爆種が降ってきて炸裂する。土煙が晴れてハヤトが駆け寄ると機甲服のヘルメットが割れて血が流れている。重傷を負い、意識はない。
「敵が急接近! このままではやられます!」
激しい戦いのなかで状況は悪くなる一方だった。レーダーで探知したものだけで前方180度すべてに敵がいる。ここから抜け出すにはどこか一点を突き破るしかない。
ハヤトが状況を変えられる可能性を考えていると、UIに表示された名前の横に黄色い星マークがついた。
「ミシロがリーダーじゃないのか?」
驚いたハヤトが顔を上げるとミシロは「キミならなんとかしそうだからさぁ……」と照れ臭そうに両手を広げてみせた。
「ありがたくそうさせてもらう。チラの手当てを頼む」
チラ隊長をまかせてハヤトはライフルをバックパックに納めた。チェーンソーのような大剣に持ち替えてグリップを握る。無数の刃が高速で回りはじめた。
「止まっていたら囲まれる……。ならこっちから出迎えてやればいい」
機甲服の脚部ブースターが炎を吹きハヤトの機体は防衛線から突出して地面を滑走した。
「何する気だ!? 英雄にでもなるつもりか!」
中隊長が背後で叫ぶのも聞かずハヤトは突き進んだ。吐き出される光線を左右に避け、ミサイルを放つ。命令違反に怒った中隊長の顔が大きくヘルメットの視界に割り込んでくる。ハヤトは表示をオフにして全員に回線を開いた。
「こちら新たな中隊長。敵は我々を180度包囲している。これを突破するにはみんなの協力が必要だ」
ハヤトは片手でチェーンブレードを振り回し、人間の真似事をする敵を切り刻む。両肩のアクティブ防護システムで近づく敵を蹴散らしながら最前線に突っ込んだ。
「方位2時方向。敵の密度が浅い。集中放火を浴びせつつ、ただ突っ込め」
ハヤトは冷徹な声で淡々と命令した。車両から持ち出してきたグレネードライフルを両手に持ち、弾がなくなると次々に持ち替えながら弾幕を張った。敵の一点に派手な爆炎を作る。それがあたかも正しい命令のように仕向けて士気を煽った。
同調した隊員たちがその一点に攻撃を加え、大声で叫びながら駆けていく。今までとは違う突然の攻勢に敵の群れは引き気味だった。歩くヒツジの化け物と部隊がぶつかり、さながら中世のような乱戦が繰り広げられる。剣と棍棒で叩き合う古典的な戦い。その末に敵中を突破した部隊は追撃を振り切って霧の中へ姿を消した――。
次回、第17話:〔名の下に集いし者〕
包囲を突破しクラスターシープの最奥に向かうシュヴァリエ、残された時間は少ない。だが、行手を阻む新種はそれを笑う。
一方その頃、ヴァンドラ艦内都市ではクーデターが発生。彼らはある声明をだす。その内容は願いを叶える球体。パーティクルスフィアを揃え、世界を再生させるというものだった――。




